妹造り 第二章
「ワイデル・クルガーの起床を確認、チリト・レーファに回線を繋げます」
AI自動音声が聞こえる。
「おはようございます。クルガーさん、大分ここにも慣れてきたようですね」「おはよう…レーファ」
いつも通りの明るい声を聞きながら、私は手術用ベットから立ち上がった。前までは追放されたときに座っていた椅子で眠っていたのだが、次第に首が痛くなってきたため、手術用ベットで寝ることにした。
「また、そのベットで寝ていたのですか?よく寝れますねそんなところで…そうだ、隣の部屋を改装してあなたの部屋にしてあげます。どうでしょう?」
「そうね…お願いしようかしらね」私に自分の部屋など必要なかったが、自分の寝る場所ぐらいは確保したかったのだ。
「わかりました。2時間後にそちらに参ります。」
「ああ、こっちに来るのね…じゃあちょっとついでに手伝ってほしいことがあるんだけど」
「早速届いた機材で実験ですか、改装は30分程で終わります。そのあと、実験に付き合いましょう。」
マイクの切れる音が聞こえ研究所内が一気に暗くなった。
「レーファ…この実験が成功したら、マイクを切ってもこの部屋は暗くならないよ…」
………
「クルガーさん改装と実験のお手伝いに来ました…って、聞いてない」
ワイデルはその時、作業机に向かって何かを打ち込んでいた。
「やってるうちに終わるでしょう」それから三十分後の時が経ち、私は改装し終わっていた。
「クルガーさん終わりましたよ…ってまだやってるのですか、椅子借りますね」私が椅子に座ろうとした瞬間、パチンというエンターキーを押す音が響いた。
「下準備はひとまず終わりね…って、レーファいたの?」
「ええ、30分前に来て改装し終わりましたよ」
「そうか、じゃあ早速だが始めようか」ワイデルは椅子にかけてあった白衣を羽織り、後ろ髪を三つ編みにした。
「似合ってますよクルガーさん、その白衣…気に入ってくれて良かった」
「ああ、ありがとね」ワイデルはそう言いながら作業机の上にある機材を手術用ベットに運んで行く。
「さっき、何をしていたんですか?」
「データを打ち込んでいたのさ、きっと前回なんで失敗したのかわかったんだろう」胸元から声がする。
「さて、ここからが本番だね、これから学習型AIをこの機材にインプットする…そこで、この前みたいに私を殺そうとしたらレーファあなたの出番…そのスタンマグナムでショートさせなさい」いつもとは違うワイデルの雰囲気に私は胸が高鳴った。
「わかりました。ちなみにこの実験が成功したらどのようなことな事になるのですか?」
「成功したら…私の妹が完成するわ」その言葉を聞いた瞬間背筋が凍ったような感覚にとらわれた。
「たしかあなたには、妹なんていないはずでは?」
「たしかに私には、妹なんていない…だから作るのよ、それがお父さんの教え…合言葉は想像」合言葉は想像?どこかで聞いたような?
「さて、ショーの時間よ」ワイデルは片手でキーボードを高速で打ち込んでいく「待ってくださ…」部屋中にエンターキーを勢いよく押す心地よい音がなった。
「さあ、目覚めなさい…試作実験2号機アルダー・クルガー」
アルダー・クルガーと呼ばれた機体は変幻自在の腕を使い手術用ベットから起き上がる。私はとっさに身構える。
「識別名ワイデル・クルガーと認識…やあ、姉さん作ってくれてあがとう」部屋中に陽気な声が響く、私は身構えている姿勢を緩めた。
「クルガーさんを認識している?」
「ええ、認識用プログラムを備え付けているからね、あなたのデータもいれといたわ」アルダーは私に視線を向けた。
「あなたは…データにあったチリト・レーファですね、こんにちは」
私はなんと返事をしたらいいのか分からずとりあえず、礼をした。
「ああ、あとこれから私のことワイデルって呼んでくれない?アルダーと区別つかなくなるからさ…あと、早くそのスタンマグナムしまってくれない?」私はハッとしてすぐにホルダーにスタンマグナムをしまった。
「すみません、ワイデルさん…でも、実験が成功してよかった」
何故かワイデルの目は、少しだけ暗くなっていた。
「ごめんねレーファ、今日はもう帰っていいよ」
編んだ髪を解きながら、レーファに帰宅を命じたあとワイデルはアルダーと一緒に改装された部屋で休んでいた。
「ここであなたが産まれたのですね」
「アルダー…姉には敬語使わなくていいのよ」
「おっと、そうでしたね」ワイデルがいるこの部屋にはたしかに偽りの姉と造り物の妹との楽しい休息の時間が流れていた。
「ごめんなさいワイデル…あなたをこんな所に閉じ込めてしまって」
研究所の外には、涙を流しながらも獣を狩る一人の狩人が町へと降りて行った。
良かったね、これでクルガー姉妹の完成だ。