窮途末路
・意味・
窮地にあって困り果てる事。
「ん・・・」
目が覚める。
えっと、ここは……???
真っ白い天井と壁……それにベッド……。
家じゃない。一体この場所は……。
「おう、起きたか。」
横を見ると、そこには椅子に座った父の姿があった。
「心配したんだぞ……お前、半日以上気絶してたんだから」
「気絶……お父さん、ここって……」
「病院」
病院という言葉で、全て思い出した。
学校でのこと、真っ赤で血生臭い空間……
そして、爆破した親友の姿……。
「こ、小巻ちゃん……は……???いないの?」
「……あの騒動で生き残ったのはお前と七哉含め
たったの27人……生きてたのが不思議なくらいだよ。
「……。」
27。
その数字の意味がなんとなくわかってしまった。
小巻ちゃんは……私の親友は、確実に死んだと。
「う゛……ぅ゛、ぇ」
吐きそうになる。頭も痛くなってくる。
あまりに突然のことが起こりすぎて、
もはや涙さえも出てこない。
「疲れてんだよ……ゆっくり休んどけ」
お父さんは優しく私の頭を撫でてくれる。
暖かい。[l]それがまた……余計に泣きそうになった。
「……ぁ、そういえば……なーちゃん」
「七哉は今、購買でお前にやるジュースと菓子選んでくれてるよ」
そう言うと同時に、後ろのドアが開いた。
「おーい親父、やっぱアーモンドのやつはなかったぜー
お、紗綺起きたか〜」
「なーちゃん……」
なーちゃんは顔や腕に絆創膏を貼ってた。
しかし、いつも通りな態度に少し驚きを隠せない。
「なーちゃん……大丈夫なの???」
「ん?あぁ気にすんな。かすり傷だ。」
そう言いながら手に持ってたジュースを頭に乗っけた。
あ、私の好きな乳酸菌のやつだ。
「お前は自分の心配しとけや」
「……うん」
それはなーちゃんもだよ、って言ってやりたかった。
私の事、庇ってくれたんだし……。
「んじゃあ、俺はそろそろ仕事に戻るから
ゆっくりしろよなぁ」
「ゆっくりってよぉ……今日検査すりゃ退院だし
しばらく俺達も休校だろ?」
「おっと、そうだな」
お父さんは荷物をまとめ、立ち上がった。
「じゃ、またあとでなー」
「うんー」
「寄り道すんなよなー」
「……なーちゃん」
「あ?」
「……なーちゃんはさ、大丈夫?」
「は?何がだよ」
「……目の前で、あんなひと死んで……さ」
「……大丈夫なわけ、ねぇよ
ダチも全員死んだ。こんなんで大丈夫なわけねぇよ」
「……だよね。ごめんね」
「お前こそ他人事じゃねぇだろーが。
無理すんなよバカ」
「……うっさいなぁ」
そんなふうに、病室で言い合う。
なんか、それだけでも平和だなって思った。
……生きてて、よかった。
そう思えるのは多分、恵まれてるんだ。
「おい!!!一体なんなんだ!?」[p]
ふと、病室の外で誰かが叫ぶのが聞こえた。
何?
聞き覚えのある声に、私たちは顔を合わせた。
嫌な予感がした。嫌な気持ちがした。
その聞き覚えが聞き間違いであることを
祈りながら、私たちは病室を飛び出した。
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「おい!なんだってんだ!?」
「動くな!いいから同行しろ!」
そこには、警察官らしき人達に捕まえられた
お父さんの姿があった。
お父さんは何事かと言わんばかりに抵抗しているが
彼らは必死にお父さんを力づくで押さえつけていた。
「お父さん!!!」
「おい!?何してんだお前ら!!!」
なーちゃんが警察官に掴みかかりそうだったので
慌てて私はなーちゃんを押さえた。
だめ!殴ったらまずい!!
「おいお前ら!親父が何したって言うんだよ!?」
「ん?君たち彼の関係者か?」
「なんで警察の人が……お父さんどうしたの?」
「この男は、今回の学校襲撃の容疑者候補だから
署まで連行しろとの指示だ」
……は???
容、疑者……?
お父さんが……あの騒動の……???
「ち、がう……ちがうよ……」
そんなわけないじゃん。
そんなわけ、ぜったい……。
「適当なこと、言ってんじゃねぇぞ……」
「適当ではない。しっかりこちらも証拠があるんだ。
あの場所でこいつの指紋や体液が検出されたからな」
「そんな……なんかの間違いです!
お父さんはずっと家にいたんですよ!?」
「親父がんな馬鹿なことするわけねぇだろ!?
第一あの状況……親父一人がやったとか有り得ねぇだろ!?」
「とにかく詳しい話や調べは署でする!
お前達も無駄なことはしないように!いいな!?」
そうピシャリと言われ、お父さんは連れてかれていく。
「お父さん!!!!お父さん!!!」
「待てゴラァ!!!」
「七哉やめろ!!!手を出すんじゃない!!!」
「でも……親父……!!!」
「大丈夫だ……俺は大丈夫だから。
全部終えたら、ちゃーんと帰ってくる。」
「……。」
「だから、それまで……紗綺のこと頼んだぞ」
「……お父さん」
「なぁに心配すんな、父ちゃんを信じろ。
……少しの間、兄ちゃんの言うこと聞くんだぞ?」
そう言ったお父さんの顔は、明るい笑顔だった。
まるで、これから行かなくていい場所に行くとは
思えないように……。
「……。」
お父さんが連れてかれていく様子を
私たちは見ることしか出来なかった。
本当はもっと、違うって言いたかった。
適当言ってるヤツらを殴りたかった。
「……。」
「……紗綺、部屋……戻んぞ。」
途端に、私たちを襲ったのは
形容しがたい孤独感と、
周囲の奇異な物を見る目だった。