表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

嵐の前の静けさ

・意味・

何かが起こる直前の、

ちょっとした間の静まり返った不気味な雰囲気。

「いってきまーす」


玄関を開けて、朝の澄んだ空気を思いっきり吸い込む。


春頃の暖かい風が、頬に当たるのを心地よく感じる。


「おーい、紗綺(さあや)〜」


背後から、

待てと浮かれてるわたしを呼び止める声が聞こえる。


「お弁当、忘れてたぞ」


「あ、ありがとっ!あぶな〜……」


リビングから、父がお弁当を持ってきたので

それを受け取る。


父の作ったお弁当、最高に美味いんだよなぁ~

昨日の唐揚げ、もう絶品のなんの。


「ちゃんと気をつけて行くんだぞー?

お前は浮かれてるとすぐコケるんだからな?」


頭をわしゃわしゃと撫でられる。

うぎゃっ、髪が!髪がくしゃってなる……!!!


「もー!お父さんってば!

わたしは子供じゃないんだから大丈夫だよ!」


少しだけ反抗の声を上げると、

父はアッハッハ!と大きな声で笑う。


「俺にとっちゃ、まだまだ子供だよ」


「むー。

あ、そういえばなーちゃんは大丈夫なの?」


「ん?七哉(ななや)なら先に出てったぞ?

そういえばあいつも弁当忘れてったな……」


ありゃ……なんつーこった……。


七哉ってのは、わたしの兄のことだ。

なーちゃんって、わたしは呼んでいる。


わたしより5、6つくらい年が離れてる

不良みたいな男だ。


温和で優しく、誰にでも愛想のある父とは

正しく対照的だ。


「渡しとくよ?どうせ途中で友達と駄弁ってると思うし」


「お?んじゃあ、頼んだ」


父は兄の分のお弁当もわたしに手渡す。

わたしのより一回りデカイ、兄のお弁当。

「うしっ![r]

じゃあ、胸張って行ってこいよー!」


「はーい!……あ、そうだ」


外へ飛び出す前に

わたしは玄関の下駄箱の上に目をやる。


「行ってきます!」


そこには、写真が飾られており [r]

わたしと兄、父ともう1人女性と計4人映っていた。


そう、わたしの母だ。

名前は「綺子(あやこ)」といい

わたしが生まれてすぐに事故に遭ってしまった。


わたしは、お母さんのことを知らない。

物心着く前にいなくなってしまった母。

どんな人だったかも、よく知らない。


父曰く、「よく泣き、よく笑う」ような人だったらしいけど……

うーん……よくわかんねぇ。


父は、わたしと兄を男手一つでここまで

育ててくれた。

だから、寂しさなどなかった。


今、わたしは本当に恵まれてるなって

自覚があるくらいには幸せなのだ。


これ以上、望まないほどに。




**********************************




「なーちゃん……もう学校かな?」


通学路をキョロキョロしながら

学校へと向かう。



わたしと兄の通う学校は小中高一貫教育制だから

学校でも渡せると言えば渡せるのだが……。


「公園、かな?」


そう思い、通学コースで通り過ぎる公園を少し覗くことにした。


「おーい〜なーちゃん?」

大きな声を少しだけ出し、兄の安否を確認する。


……返事しねぇな。


いたらいたらで「うるせぇなんだよ」っていうとこだが……。


……ま、いっか。

兄は授業サボっても学校サボるやつじゃないし

もう学校にいるってのが確実だし。


……学校、行くかぁ。


そう思って、公園から出ようと後ろを向いた瞬間、


「ぐふっ!?」


突然、何かにぶつかった。                                                                                                                                                                                         


思いっきり顔面がその人の胸元?に激突した。


「ご、めんなさ……っ!」


急いで謝ろうとして

わたしはその人の顔を見た。





その瞬間、わたしは謝罪の言葉すら消え失せた。


「……。」


「…………ぁ」





その人は、一言で言うと不思議な人だった。


真っ赤な髪に、美しく整った顔に

大きくツギハギのような刺青があった。


その人は、ぶつかったわたしを見るなり

じっと姿を凝視し始めた。


その目は、嫌悪や心配などの念がなかった。

ただの、空虚。


そう、マネキンがこちらを見ているのに

感覚が妙に似ていた。

「……っ、ごめんなさい……!」


気づけば、その人に向かって

恐れからの謝罪の言葉をぶつけて

そのまま逃げるように走った。



**********************************




はぁ……はぁ……無駄に走っちまった……」


教室の前まで気づけば走ってた。

いやぁ……朝礼までまだ余裕あったじゃんチクショーめ……ぇ。

「さーやっ」


ぽんっ、と誰かに肩を叩かれる感覚がした。


「あ、小巻ちゃん!」


「おっはー紗綺〜」


そこには、ニコニコと笑顔で挨拶をしてくれる

挨拶してくれる親友、小巻ちゃんがいた。


「随分疲れてるねぇ〜なんかあったん?」

「いやぁ……実はさぁ〜」


あ、そうだ。

なーちゃんにおべんと届けなきゃいけんかった。


「ごめん小巻ちゃん〜

またあとで話すねー」


「えーそお?

おもろい話期待しとくわねー」


勘弁してくれ。そう言われるとプレッシャーだ。



**********************************



「すいませーん」



授業までまだ時間があるので

高等部の兄がいる教室に顔を出す。


高等部のお兄さんお姉さんがいっぱいいる中、

急いでなーちゃんの元へ向かう。


「ねぇ?お昼時でいいんじゃないの?」


「ばかっ!なーちゃん腹減るとおっかねぇんだよ!」


がちで空腹時のなーちゃんはライオンより恐ろしいので

早めに持ってかんと。


「あら?あんた低学年の・・・」


すると、教室の入り口近くにいたお姉さんが

こっちに気がついてくれた。


「あ、あの。これ、なーちゃ・・・

じゃなくて兄の稲葉七哉に届けにきたんですが」


「?あぁ!稲葉くんの妹さんね!

稲葉くーん、お客さん来てるわよ〜」


お姉さんがそういうと、奥から目的の人物が面倒くさそうに

こちらに来た。



「あー?どうした紗綺?忘れもんか?」


「それはおめえだよ、おっちょこちょい。」


そう言って、わたしはお弁当をなーちゃんに渡す。


「おら、弁当。空腹になるまえに持ってきたから」



「あー・・・忘れてたなそういやぁ。

あんがとよ。」


なーちゃんはわたしの頭をくしゃああ!と撫でて

そのまま席の方へ戻って行った。



「きゃーやっぱ七哉先輩ってかっこいいなぁ〜」


なんか、小巻ちゃんが後ろでときめいている。


「いるなら譲るよ?足臭いけどいい?」


「アンタあんなカッコイイお兄さんいるのに

勿体ないわねぇー?」


そんなことねぇよ。

そう思いながら撫でられてぐっしゃぐしゃになった髪を

手櫛で直す。


「さ、もう届けたし戻ろー」

「ほーい」


「いやぁ……しかし?ああいう兄ちゃんがいるっての[r]

結構羨ましいんだよー?」


「そう?普通だってばー」


「いーや!紗綺アンタは贅沢モンだこんちくしょー!!!」


そう言いながら小巻ちゃんはバシバシと

私を軽くどつきまくる。


「いやぁ……もー私も欲しかったよーああいう兄貴!

一人っ子だと余計憧れるんだよなぁ〜」


「あはは〜。

じゃあ、わたしもそろそろ教室戻って授業の準備してるから」


「うん〜!またあとでねぇ〜」


そう言って、小巻ちゃんはそのまま

自分の教室へと帰って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ