メレンゲ/ジョウマエ/シモバシラ
Meringelo
無国籍の卵白の用途をめぐり、乱闘が起きている。
かたや虫歯に詰めると痛みがおさまると言い、かたや煮詰めると宝石に変わると言う。
わたしは如雨露に放りこんで水を撒くと芝桜の成長がよくなるのを知っているので、両者の隙を見つけ少しかすめとって帰る。
わたしのあざやかな盗みを目撃したのは、午後の空にある白い月だけだ。
後でメレンゲでもつくりお供えして、ごきげんをとっておくことにしよう。
* * *
La seruro
錠前に麻酔剤が注射された。
強い薬だが、錠が自ら解けて、その内に堅く守っているものを露にするのは、早くても百年後になるだろう。
わたしは中身のわからない保管庫があることを常に気にしながら、この先百年を生きていく。
厳重に錠前で封じられたその保管庫があるのは、わたしの心の地下なのだ。
そう深くはない場所の……。
* * *
Glacipingloj
今朝も霜柱が立つ。
細長い氷が集まって土を持ち上げ、空にむかって伸びていく。
いたるところが朝日の光を反射し、清らかに輝く。陰っている部分も青みがかってまた美しい。
氷の柱それぞれのなかに、人影に見えるものが入っていて動かない。
皆、夢を見ているのだろうか。
そんな人影ごと霜柱を容赦なく踏みつぶし、無邪気に歩んでいくもっと大きなものがある。
巨大すぎて、わたしにはその姿がよくわからない。
けれどもわたしは、自分もそのなにかの体の一部になっているらしいと感じている。
いつそうなったのだろう。わたしも霜柱のなかに入りたいのに。
Fino