コサメ Pluveto
水を食べて生きることにしてから、何年経っただろう。
今夜、街では死者の街からつかの間訪れる祖先の霊を迎えるため、あちらこちらで火が焚かれている。
わたしはそのそばを歩くだけでもいやがられるので、自宅の窓から眺めている。
わたしにだって祖先はいるのだ。戻って来る祖先に目礼くらいはしたい。
この街にはこの街で生きていくためのやり方があり、その方法を選ばない者は外道、心得ちがいと言われてしまう。
しかしわたしは、この街が持つ詐欺師のような一面を、子どものころから感じていて、溶けこむ気にはなれなかった。
勇敢な正義の戦士だとおだてられ、皆はなにをさせられているのか。気味が悪いと思わないのか?
火のついた鞠を蹴り合う遊びがはじまった。
しかしあいにく小雨が降りだした。これもわたしのせいにされそうだ。
何千年も前から続くとされるこの街、祖先もここで生きた。
祖先たちが何も訊かずわたしの頭を撫でてくれたら嬉しいのだが。
街を巡る大きな黒い幕のむこうは、鬼と怪物が棲むけがれた闇であり、生者の街はない。
そのように、他人に教えこまれたが、ほんとうだろうか。
最近まで疑わなかったその教え。いまは風にさらした蝋燭の火のように、ゆれている。
祖先の霊に挨拶を終えたら、わたしは幕のむこうにひとり挑む。
他人がほめるたぐいの勇敢な戦士には、一生ならないつもりだけれど。
Fino