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キザハシ La sxtuparo
木の上にほうほうと呼ばつてゐた人間の声がまだ聞こえるではないか
――前田夕暮
死者の国に下りていく。
死者を呼び戻すためではない、兄からわたしの指輪を返してもらうためである。
井戸の底から螺旋階段をくだる。
一段一段に螺鈿細工がほどこされてある。それを踏んでいく。
濡れているので気をつけねばならない。
くるくると廻りながら下へ下へ。
わたしが作ったなかで一番良い出来の物を兄は取りあげ、返してくれなかった。
わたしが異国に行っているあいだに兄は死に、例の指輪を嵌めたまま葬られた。
わたしはいまだにあの品より良い物を作れていない。どんな作りだったか忘れかけているので、早急に返してもらう必要があった。
あれに似せて新しい指輪を作り提出すれば、とりあえず帝室技芸員にはなれるだろう。
そうなればわたしは兄の体を忘れて生きていけると思う。
わたしは冷たさの増す闇へ下りていく。
久しぶりにわたしの顔を見て兄は何と言うだろう……。
Fino
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