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怪盗にマジラブうぇい

「いや、悪い悪い。予想以上に手こずって」

「いや、待たせすぎだから」


 ローブのフードを脱いだ彼女はお屋敷に来たばかりの新入りメイドが陰で何かをコソコソ話すような、とても砕けた言葉を使う。フードを取る前と後で別人のような現実に馴染めず、頭がこんがらがってきた。


「んんっ……?」

「どうした?」

「あっ、いえ。えっと、この方はどなたでしょうか?」


 私はそれらしく取り繕う。


「ああ、紹介するよ。これはジャンヌ。私の相棒だ」

「相棒、ですか」


 相棒という称号に感心していると、ジャンヌは私のことを睨みつけてくる。何か気に入らないのだろうかと思っていると、彼女はアルルに詰め寄った。


「ねぇ。この女、何?」

「何って、ただの道案内さ」

「へぇ、ただの(・・・)道案内ねぇ」


 ジャンヌは私を頭の上から爪先まで見回し、そしてこちらの顔を見て睨みつけてくる。


「あの、何でしょうか……?」

「アタシ、あんたのこと好きじゃないわ」


 ジャンヌは私の眼を見て言い放った。彼女と私は初対面なのだけれど、全く手加減のないどストレートな物言いだった。


 でも、そう言われることに、私は慣れている。

 全てはこの眼が原因。翠の眼は忌み嫌われて然るべき。それが、この国の人間の普通の感覚なのだ。


「ちょっと、なんてことを言う」


 アルルはきっと見ていられなかったのだろう。すぐさま、私を庇ってくれた。

 でも、そんなリカバリーがなくとも、私は大丈夫だった。慣れてるおかげで、やり過ごし方を知っているから。

 私はいつものように笑顔を取り繕うとする。しかし、それよりも先にジャンヌが言った。


「だって、この女。どう見てもあなた好みの綺麗な顔してるじゃない」

「えっ?」


 何を言ってるのか分からず、頭が止まる。


「どーせ、宝を盗むついでに好きな娘を掻っ攫ってきたってとこでしょ?」

「そんなわけないでしょ! 確かにジョゼは可愛い顔してるけど、カリオストロ侯爵の一人娘。だから、屋敷から出る案内役にはちょうどいいと思っただけ! それに私は、人攫いはしない主義だっての!」

「か、かわ……いい……?」


 顔がかぁっと熱くなる。


「どうだか。アタシを引っ張り出しておいてよく言うよ」

「それはジャンヌが勝手についてきたんだろうに」

「えっ、そんな言い方はなくない? 思わせぶりに誘ってきたのはそっちじゃん」


 私を置き去りにして場はヒートアップしてゆくばかり。おかげでこちらはクールダウンできたが、果たして何の話をしているのか、さっぱり分からない。


 ただ、一つだけ分かることは、私は初めて眼の色以外の部分で評価されたということだ。その結果、好きじゃないと言われてしまったが、そんなことは身内以外では初めてだからなんだか嬉しかった。


 しかし、ふと思う。

 今、私たちは追われている。話し込んでいる場合ではなく、一刻も早くここから経たなくてはいけないのではないだろうか。


「大体さ、いろんなこと行くたびに女の子を取っ替え引っ替えして。そーいうとこ、すっごくイヤなんですけど!」

「言い方が悪いんだよ! ていうか、それは、現地の協力者から情報を集めた方が効率的ってもんだろ?」

「やだ。アタシだけを見てくれなきゃ嫌だもん」

「あのなぁ……」

「だって、そういう話だったじゃん」

「あれは……その」


 二人の言い合いをいい加減、止めないと。


「あっ、あの──」


 突如、轟音が耳をつんざく。空気が揺れ、熱が押し寄せる。


「わわっ……!」


 木々の向こうに揺らめく炎が見えた。間違いない、追手の炎魔導だ。

 それを見て、アルルが周囲を確認する。


「ジャンヌ、私たちの魔導車(オート)はどこ?」

「こっち」


 ジャンヌの案内で森を進むと、またしても暗がりの中に灯りが見えた。それに近づいてゆくと、その灯りは幌馬車の荷車に吊るされたものだと分かった。


「よしよし」


 それを見て、アルルは感心していた。

 しかし、その馬車にはとても違和感がある。なぜなら、馬車なのに肝心の馬がいないそこには荷車があるだけなのだ。

 馬がないのに馬車というのも変な話。あえていうなら“車”とでも言うしかない。


「これが、私たちの足?」

「ああそうさ。とにかく乗るよ」


 続けて、幾重にも連なる地鳴りのような馬の足音。


『ヒヒヒーン!!』


 一匹の馬の嘶きが静寂を切り裂き、


「そこか、怪盗ォオオオオオ!!!!」


 男の叫びが夜を貫く。


 それが意味するところは一つ。

 ラザール様が近くまで迫っているのだ。


「自分の婚約者より、誰とも知らぬ怪盗を熱心に追っかけるなんて。ったく、どうしようもない男だな」

「アルル!」

「分かってる。今ので、こっちの位置を気取られたはず。こんなとこに長居は無用だ」

「あの、どうやって逃げるんですか?」

「もちろん、コイツさ」


 そう言うと、アルルはさっと馬車であれば御者台のある位置へと移り、


「さぁ、こっからがお楽しみだ! 飛ばすぞ!」


 アルルが高らかに叫ぶと、なんと車は走りだす。


「馬もないのにどうして……!?」

「発明」


 不思議に思っていると、ジャンヌが爪を気にかけながらポツリと呟いた。


「これはアタシらの作品」

「ああ、そうさ。このアルル様の頭脳とジャンヌの魔導(マナ)があれば、移動するのに馬なんか要らないってもんよ」


 馬を抜きにして速く遠くへ移動するなんて、今までに考えたこともなかった。だけど、これだけの機動性を見せられると、それも十分実現できているように思えた。

 そういえば近年、馬ではなく魔導(マナ)でもって走る魔導列車(トレイン)という巨大な乗り物が、近くの領地と王国の様々な領地の間を走るようになったと聞いたことがある。


「これも魔導列車(トレイン)なの?」

「似たようなもんだな。まぁ、コイツは何かに引かれるわけじゃなく、自分から動く魔導車(オート)ってとこかな」


 魔導車(オート)はろくに整備もされてない森の中をかなりの速度で駆け抜けてゆく。体感的には全速力で走る馬の背に乗っているのと遜色ない。

 しかしながら、馬と違って乗り心地は最悪だ。車内は大きく揺れ、幾度となく床板がお尻を跳ね上げる。


「あっ……! あうっ……!?」

「口開けてると舌噛むから」


 目の前に座るジャンヌから、ありがたいアドバイスをいただいた。しかし、これは暗にうるさいと釘を刺されているのだろう。

 ジャンヌの気分をこれ以上害してしまえばどうなることやら。まだ命が惜しいから、私は押し黙ることにした。

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