桜になった私
私の住む地域の川沿いに、桜の木が植えられています。一部だけ桜の木のトンネルもあります。三月の末頃から枝に少し膨らみが目立ち始め、四月に入るとその膨らみが大きくなり、やがて花を咲かせます。その花は散る時には一枚一枚ひらひらと舞い落ち、そして葉桜となっていきます。
けれど何故なのでしょう。何故葉が先じゃないのでしょう。そんなことを桜のトンネルを通りながら考えていると、突然目の前が白くなりました。そして、目の前に桜色の虫のようなものが現れました。
私は何が起こっているのかわからず、ただ立ち尽くしていました。そして、その虫のようなものが話しかけてきました。
「私に興味があるの?」
「えっ?」
「葉が生えてくるのが先じゃないから気になるって言ってたでしょ?」
「あっ、あなたは?」
「私は桜の木ですよ。桜の木の中に、いつもはいますよ。」
「はい。」
「気になるんですよね?」
「はい。」
「でもね、それあなたが間違ってるわよ。」
「えっ、それはどういうことですか?」
「葉が一番最初に生えてるの。そして花が咲くのは一番最後よ。」
「あっ。そうなんですか?」
「そうよ。だから花が先じゃないのよ。わかった?」
「はい、わかりました。もう一つ聞いていいですか?」
「何かしら。」
「冬の間は眠っているのですか?」
「いいえ、眠っていないわ。栄養を蓄えて花が咲く準備をしているの。」
「そうなんですか。」
「もしよかったら、あなたも私の仲間にならない?」
「それはどういうことですか?」
「あなたも桜になりなさい。」
そして私は桜の中に引き込まれていきました。
私はどうすることもできませんでした。そしてこの状況に非常に戸惑いました。
私は叫びました。私には愛する人が家で待ってくれているの。だから桜の仲間になることはできないと。
けれど、桜は言いました。ここにいると皆んなから愛されるわよ。幸せでしょ。だからここにいればいいじゃないと。でも私は諦めませんでした。あの人の元に帰してと叫び続けました。でも叶えられることはありませんでした。
今日も私は桜の木の中にいます。そして雨が降り始めました。私は寒くて風邪をひきそうでした。その時でした。何か身体に衝撃が走りました。すると目の前の景色が変わりました。
「気がつかれましたか?」
「えっ、ここはどこですか?」
「病院?どうして。」
「桜の木の下で倒れたようですよ。そして今まで意識がありませんでした。」
私は点滴に繋がれていました。意識がない為点滴で栄養をとっていたようです。
「さっき衝撃があったのですが。」
「近くに雷が落ちたようです。」
「今は何月ですか?」
「六月ですよ。今日は外は雨が降っています。」
そして私は元の世界に戻れたようでした。
私はしばらく入院しましたが、愛する人の待つ家に帰ることができました。
桜は皆んなから愛される。幸せでしょ。だからここにいればいいじゃない。その言葉が引っかかりました。何故そういうことを言いとどまらせたのか。
桜が咲くと、人は花見に訪れます。そして私が通った時も平日で少ないですが、人はいました。私が人通りの少ない道を通っていた時だったらどうでしょう。想像するだけで怖いです。
あれから一年が経ちました。
今年も桜の花が満開です。そして沢山の人が訪れています。桜は喜んでいますよ。皆さんに愛されて。桜になった経験のある私が言うのですから、間違いはないでしょう。