AIKA
まぁ聞いてくれ1よ。チラ裏の自分語りなんざ。
きょうび流行らんのは百も承知だ。
たださ。電車男みたいにさ。ならないかな、と。
冗談だ。んなことあるわけない。
でも。誰かにぶちまけずにはいられないんだ。
俺のあの日々が。何一つ。
この世に何の痕跡も残せなかったなんて。信じられなくて。
俺の生涯が、このまま終わってくって考えたら。怖くて。
この投稿をお許しください。書き終わったらROM専に戻ります。
俺の生まれた町はさびれた漁師町だ。
そしてクソがつくほどのド田舎で。
漁業以外、何もない。そんな町だった。
俺の家は爺さんが建てたボロ屋で、海に面していると言ってもいいくらい近くて。
平屋だった。
良く海で釣りをしたり、海岸で貝を拾ったりもしていた。
あの日。気持ちよく晴れた最高の日、で終るハズだった。
俺の8歳の誕生日パーティーがあるハズだった日で、
父が漁から帰ってくる日でもあった。
さらになんと、朝のテレビ番組の特集で、父の船が密着されていた日でもあった。
俺は父が自慢だった。
小さな船だけど自前で持ってて。大きな魚をバンバンつりあげて。
帰ってきては仲間と祝杯をあげる。豪快な人だった。
よく膝のうえに乗せられて、海の、漁の、話を聞いた。
ジョリジョリの髭をあてられるのは嫌だったけど。
テレビ番組は生放送で、学校に行く直前だったけど。ぎりぎりまで粘って。
母も今日だけ特別、の条件付きで中継を見せてくれたんだ。
そういう母もテレビをリアタイで見るために、パートの休みを入れていた。
「今、船が帰ってきました」アナウンサーの声とともに、父の船がズームされる。
もうじき父がテレビに映ると思うとワクワクした。
この後、学校で、友達に自慢している自分の姿が目に浮かんだ。
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下船後、父がアナウンサーと会話している最中だった。
まずカメラマンが気づいた。「おい、波だ、波が来るぞ、逃げろ」
職業気質だろう。後ろに下がりながらもカメラマンは、波を撮影していた。
波は、おさまるどころか、勢いを増し、高波となり、一気に岸に押し寄せた。
あっという間だった。
一波でアナウンサーやカメラマンもろとも。
父は海に連れ去られた。父の船も。
テレビの前で、父さん、逃げろ、波だ、逃げろと叫んでいたが。
気づいたら俺は漏らしていた。
そして緊急警報が鳴った。こんなことは初めてだった。
警報は、俺の家まで波が来ることを知らせるものだった。
家よりも家の隣のにある倉庫の方が頑丈で。
みんなでそこに逃げようとなった。
6歳の弟と2歳の妹と母さんとばあちゃん。
母も呆然自失としていたが。
「母さん」と何度も呼びかけ、みんなで倉庫に向かった。
しかし倉庫は解体ショーの際にテレビ向けで使うからと、
鍵は父が持っていってしまっていたことに気づく。
普段だったら別に鍵なんて閉めてないのに、テレビ用に、父なりの演出だったと思う。
がちゃがちゃやったがあかず。
そうこうしているうちに大波がくるのがわかった。
家の中に避難しようとしたが、間に合わず。みんな波にのまれた。
「変にもがいても力尽きてしまう。
溺れそうになったら、息をすいこんで。ひたすら落ち着いて。脱力して
波が落ち着くのを待て。」
学校で習ったか、テレビでみたか。
俺は不思議と冷静でそんな言葉を思い出した。
息を長く止めるのは得意な方だったし。頭を手で覆って、呼吸を止めた。
しばらくして水中にあった俺の体が着地したことがわかって。目を開けた。
すぐに家族を探した。
弟の姿は見当たらず。
母と妹と祖母は水を飲んでしまったようで。動かない。
幼心に俺はやばいと思い、助けをよぼうと走り出した。
でも。
普段は優しい、近所の人たちも今はみな、自分のことで精一杯だった。
誰にも俺の声は届かなかった。
少し山手にあるおじさん宅を訪ねて。急ぎおじさんと家に戻った頃には、
全員こときれていた。
もしかしたら見つけた時に、もう亡くなっていたのかもしれないけど。
そうじゃなかったかもしれない。今となってはわからない。
弟は、がれきの下から見つかった。
俺の体中の傷が痛み出したのは、その後の事だった。
あのとき、俺が人工呼吸のやり方をわかっていれば、応急処置が出来ていれば。
誰かが一人でも助けにきてくれれば。
学校にいってしまっていれば。パートを休まなければ。
テレビの特番がなければ。。。
そして倉庫は無事だったから、あの日、父が鍵を持って行かなければ。
もっと強引にでも扉を開けられれば。
定期的に来る「たられば」の渦の中で、俺は毎回発狂しそうだった。
よく俺の後をついて一緒に遊んで回った弟。
邪魔くさかったけど。かわいかった。
ようやく歩けるくらいだった妹。
「にいに」と微笑んでくれてめちゃくちゃかわいかった。
優しかった母。
部活のサッカーの時は必ずお弁当をもって応援に来てくれた。
そしてもの静かだったけど、ハッカ飴をくれ、たまに親に内緒でお小遣いをくれた祖母。
寝る前に思い出しては涙が止まらなかった。
ただ父は憎めなかった。無力な自分が憎くて、どうしようもなかった。
その後、俺はおじさんの家に引き取られた。
おじさんおばさん、いとこの太郎には、今でも感謝してもしきれない。
一緒に泣いてくれた。励ましてくれた。優しく接してくれた。
ただ打ちひしがれた俺の心は、強く捻じ曲げられたままだった。
何に対しても興味がわかず。斜に構える人間になってしまっていた。
あの日、家族も、家も、なにもかも。飲み込んだ海を嫌いになって。
海が見たくなくて。高校卒業後、18歳で都会にでて。
居酒屋でバイトを始めた。
居酒屋を選んだのはなんとなくだったけど。
多分親の食事の支度を手伝っていて、好きだったからだと今は思う。
居酒屋では、がむしゃらに働いた。
働いているときは家族みんなの顔を忘れることができた。
俺の中の家族はずっと。あの頃のままで時がとまっている。
俺は25歳になった。
その間に俺は、バイトから正社員にしてもらった。
そして29歳になって料理の主担当をまかされた。
でもある日、居酒屋のオーナーから。
おまえの眼は、なにかいつも違うものを見ている気がする、と言われた。
嬉しい事、楽しい事もそれなりにあったが、
俺の凍った心は、芯まで温まることがなかった。
この先どうしたいのか、よく考えた方がいい、と助言してくれた。
人生は一度きりなのだから、とも。
店は気にしなくていいから。よく考えろ、と。2週間、休みをもらった。
ただお前の腕は買っている、ちゃんと腰を落ち着かせた形でもどってこいよ。
といってくれて嬉しかった。
暇になった初日。
一度きりの人生なのに、誰が、なんで、俺をこんな目に合わせるんだ、と呪った。
フラッシュバックする過去。
暇になると思い出してしまった。虚無感に途方に暮れた。
でも。
この先このままでいいのか?と。ずっと過去にとらわれていいのか?と。
そう思えるようになった。
そして。俺なんかがおこがましいんだけど。
同じ経験をした人。
俺以上に打ちひしがれ、立ち直れず、腐っている人たちがいることをしって。
その人たちを助けたいと思った。いや同じ傷を共有したい、
仲間がほしいというのが本音だったと思う。
休みの日に、ボランティアに入ることにした。
そこに、その娘がいた。
名をアイカ、といった。
その子も孤児だったが、立ち直って働いていた。
でもアイカも俺と同じで心の芯のところはぼろぼろだった。
意気投合して。一気に距離が縮まって。
トントン拍子で付き合うことになった。
女の子がそばにいるだけで、こんなに世界は変わるのかと、
信じられないほどの、過去にないほどの気分の高揚を、今でも鮮明に覚えている。
ネットなんかじゃ、結婚して夫婦になったら仲が悪くなるなんて書き込みもあったが、
そんなの信じられなかった。
1年付き合って。俺がちょうど30歳。アイカが25歳で結婚。
なんと、誕生日が同じ日なんだ。運命とか感じちゃうだろ。
小規模だけど、結婚式をした。
お互い身寄りは少なかったが、幸せそうなアイカの顔をみて、俺は満足だった。
さらに1年後、子供ができた。順風満帆の兆しが見えてきた。
しかし。
子供は生まれることなく、おなかの中で死んでいた。病名は聞いたけど、
よくわからなかった。
図書館で名前図鑑を借りてきて。どんな名前にしようかなんて。
話し合っていた矢先だった。
死産後、アイカはなんと形容したらよいかわからないほど、ふさぎこんだ。
俺はアイカほどまだ子供を想えていなかったため。
アイカを励まそうとしたがすべて空回り。
逆に、なぜそんなに冷静でいられるのかとせめられ。
二人の間に少し溝ができてしまった。
こんなはずじゃなかったのに。
ちょうどその頃、2号店を任されることになり、仕事が忙しくなった。
そんな日々が溝を更に深くした。
俺たちはほとんど顔も合わせない形になってしまった。
そんな最中、アイカは、「探さないで」と書置きをして失踪。
「勝手にしろ」と最初は思った。こっちがこんなに心配しているのに。
ケアしてやったのに、と。なんなら憤りすら感じていた。
しかし。
アイカは俺の心のよりどころだった。俺の半身だったんだ。
スマホに何度も電話した。ラインもしたが拒否されているようで、音信不通だった。
実家にも戻っていないようだった。
でもアイカを忘れられず。警察に捜索願を出した。
無事に生きていてくれ。自分を大切にしてくれと願った。
あの浴びるように抱き合った日々や、俺との思い出を忘れてほしくなかった。
何日、何か月たっても見つからず。
いても経ってもいられなくなった。
仕事が手につかなくなった。本当に半身だったんだ。
なのに。
そう想ってたのは俺だけだったのか。
ドラマなんておこらない。その後、アイカとは会えてない。
一人で住むには広すぎたアパート。
帰ってくるかもと思うと解約できなかった。
でも10年たって。俺は諦めて小さなアパートに越した。
俺はなんだったのか。
もう40もすぎて。なんなら人生の折り返し地点も折り返してきているんだと思う。
唐突に俺の人生を書き残しておきたくなった。
俺にも挫折を乗り越え、ちょっと遅いけど燃えるような青春があったんだって。
あの日々は嘘じゃなかったんだって。
ちょっと後半失速しちゃったけどな。
これを見ているならアイカ。どうか連絡がほしい。
俺はお前のことを忘れることができない。
チラウラスマソ。そろそろ消えます。ノシ。
何をもって刺激が強いのか、残虐なのか、判断つかなかったので為念入れさせていただきました。
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