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闘争 1

 木刀を構えたまま家屋の屋根に注意を移した紫檀さんに、紺野さんが過剰かじょうな反応を示す。

 そこに感じ取れるのは、あきらかな『恐怖』


 本人は殺人鬼である紫檀さんを追い詰めていると思っているようだけど、今はどうやらそんな場合ではない様子。


 屋根の上に立つその影は、この異様な空間の中でもさらに異彩を放つ。この感覚。


「妖魔」


 あたしの声に反応したかのように、屋根の上からは冷たい嘲笑ちょうしょうが漏れた。


「美朱さん」

 ジリジリと移動してきたらしい紺野さんがあたしの腕を掴んだ。

「早く!」


 その行動に、あたしの注意が奪われる。

 屋根瓦を蹴る音に反応して、隣にいた紫檀さんの草履ぞうりが地面を蹴った。


 ここに居たら紺野さんを巻き込んじゃう。


「紺野さん、一旦いったん路地に……」

 路地を振り返ったあたしは、目の前の景色に続きの言葉を飲み込んだ。


 路地が、ない。


 左右を見渡してもキッチリと詰まった家屋に隙間はなく、今しがた通ってきたはずの路地が消えている。

 今自分の身に起きているこの不可解な現状に、思考が飲み込まれていく。

 じんわりと包み込まれるように……。


「ひぃっ」

 いけない!


 紺野さんの引きつった声。地面に崩れ落ちる音に、にぶった意識の感覚がパチンと音を立てたかのようにあたしの中に戻ってきた。

 その直後、ほのかに肌に触れる瘴気の気配。


 神経が瘴気に侵されてた?


 一瞬にして鮮明になった感覚が、地面を蹴る音をとらえる。

 振り返ったあたしの視界に映る紫檀さんが、打ち付けてくる細い銀のステッキを木刀で払いけた。


 後方に飛びながら距離を取った2人の男を月明かりが照らす。


 黒髪に黒い袴姿の紫檀さんと対する男は、白を基調とした洋装ようそうに、銀色の髪をかきあげた。

 整った顔は東洋人のそれでない、紅玉ルビィのような紅い瞳がさげすむように冷たく紫檀さんをる。

 そして何よりこの気配。


「私の邪魔をするな」

 低く響く声の冷たい色香に背筋が凍る。


「人に危害をおよぼす以上、其方そなたを野放しにする訳にはいかない。

 匂い袋に消したつもりになったか?

 斬り結んだそばから血の匂いがするぞ」

 油断なく構えた紫檀さんの声に、男の口元がゆがんだ。

 白い肌に、息をのむほどの真っ赤な唇。


「貴様に私は狩れない」

 軽視けいしの言葉に、赤い瞳がこちらを向いた。


 整った顔。紅い瞳に吸い込まれるような錯覚に再び思考が引き込まれる。

 あえて言うならば、眠りのいざないに似た甘美かんびあらががたい感覚。


 自力ではらすことの出来なかったその視線。

 洋装の妖魔はいつの間にか目の前に立ち、足元で座り込んでいた紺野さんを蹴り飛ばした。


 紺野さんの声。地面を滑っていく音。

 聞こえているはずの音が、全く理解できない。


 ゆっくりとあたしのほほに白い手を伸ばしてくるのが見えた。

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