自宅警備員の意地
東北って普通に1月は雪とか降るかも・・・。
七瀬の説得により林業部隊に応募した30名は七瀬の直属として軽めの作業に準じていたのだ。
「薪割は疲れる。でも今日の燃料代位にはなるんじゃないか?」と力仕事に興じるのだ。
「やっぱ就職するんじゃなかったなぁ。家畜の餌やりとかも結構重労働だし」と不満である。
「えっとあんたは食事係だ。料理を並べる位出来るだろう。それとそこの5人はお茶くみだ」
30年位前は新入社員はお茶くみから覚えさせる会社が多かったらしいのでこいつらも・・・。
昨日まで自宅警備員だった若者にいきなり書類仕事や営業など出来る筈はないのだ。
「じゃあやりますか。ハッキリ言ってやる気が出ない。でも25万円もらってるからな」
グダグダと林業部隊の料理班の指揮を下げまくるが一応仕事はしたので文句は言わない。
じゃお前ら5人は昼寝だ。夜間組も用意しておかないとネットで儲ける事は出来ないからな」
1月2日朝、植林部隊はカードゲームで遊んでいたが、当然賭けも行われるのだ。
「大丈夫なのか?これ宝くじだけどネットで賭けを行ってるのがばれたら」と不安がるが。
「合法の筈だ。上手く行けば1万円儲かるぞ。俺ら無給だし七瀬さんみたいにネットで儲けないといけないから何かお宝があったらネットの物品交換サイトで価値ある品と交換しようぜ」
兎に角軍資金がないとネトオクで売るにもわらしべ長者を狙うにも商品が集められんからな。
「それなら俺が高く買い取ろうか?」と七瀬だがもっと高く売れる自信あるのかよ?
「俺テイラーとアルタイナの直属だぜ。今日も300万ポイント儲かったから現金に換金しないと」と思ったが正月は現金に換金は出来ないのでネトオクで服でも買おうと思う。
林業部隊のカッコいい制服とかオーダーメイドで作らせたら優秀な林業部隊の兵が集まり俺も出世して大きな屋敷に大勢の部下を抱えて農園とか開けるんじゃないだろうかと思う。
「優さん。林業部隊の制服を作って良いでしょうか?衣類業界は不況なので喜ぶかと」
「良いですよ。ただ予算は出せませんからね。自力でねん出したら100名部下を付けましょ」
「無茶言わんでください。使える予算が2千万位しかないんですよ。この予算とて税金支払えばどれだけ残るか」まあ優さんは我らを試しているのだなと思い取り敢えず試作品を急いで作らせお正月も終わった1月4日試作品を持ってきたが優には不評だった。
「女性士官用の制服が何でスカートなの?そりゃ私達は前線には出ないですけど」
「男はスケベだからスカートの方が士気が上がるんですよ。セクハラだとおっしゃるなら普通の衣装も一応作らせてありますけど」と別の衣装も持ってきたがお茶くみの部下が持ってきたお茶を飲みながら着替えると色々とお茶の入れ方を指図してもう一回お茶を入れさせた。
「私お茶くみの腕だけで柚木さんに取り入って植林部隊に栄転したのよ。私がたっぷりと上司に可愛がられる不世出のお茶くみになれるように訓練するよ。お茶くみを馬鹿にするな」
私も今じゃ入れる方から入れてもらう立場になったがこんな不味い茶飲む位なら自分で入れるとは、宮仕えの悲しさと言う奴で言える訳ないが自宅警備員出身の部下ならお茶くみから覚えさせた方が上司のウケが良いだろうと思い自分で教える決意を固めたらしい。
取り敢えず服の生産には林業部隊の中に服飾職人の老人がいたので任せる事にした。
「任せろ。材料とかネットで注文して良いか?七瀬さんが大儲けなんだよね」と羨むのだ。
「七瀬さんの直属の部下は給料貰ってるんだぜ。良いよなぁ。俺たちゃ無給だし」
「それ言うなよ。国の為に志願したんだぜ。70超えて栄耀栄華を夢見たら命が惜しくなる」
「でもさぁ。俺には息子夫婦と孫がいるんだよ。葬式代だけでも残したいじゃないか」
などと元自宅警備員の部下5名が入れた不味いお茶を飲みながら老人達は材料が届くのを待つ。
「物覚えの悪い人達ですねぇ。お茶くみだって極めれば農水省のお役人になれるんですよ」
私はちゃんとした仕事はしたことなかったが、雑用とお茶くみで重宝されたもんだ。
煽ててお茶くみとして確保したかっただけかもしれんが煽ててもいて欲しいお茶くみらしい。
「お茶くみって大名にまでなって、家康と天下を争った石田三成みたいな人もいるんですよ」
それであだ名が茶坊主など呼ばれてる人らしいが忠義の武士として敵に回った徳川家ですら尊敬する者が多かったが、秀吉との出会いは茶の入れ方に感心して部下に取り立てられた。
「私が入れるからマネしなさい。お茶は部隊の指揮を上げもすれば下げもする。お茶くみは重要なんだよ?嫌がる女子社員に無理矢理お茶入れさせて作り笑いを浮かべてるのに気付かないで女子が喜んでるとしか考えずにいる人も昔は多かったけど私は本気で喜んでいるよ。お茶くみしかさせて貰えないなら、昔は兎も角今は実力が足りないだけの話だから」
「美味しいです。この域に達するまで俺達はお茶くみをやるんですか?」と聞く七瀬の部下。
「まあお茶入れるだけで給料貰えるなんて天職じゃない?私は可愛がられていたけどねぇ」
でもさ。
私今の貴方達雇うんだったらお茶くみはさせないよ。
「まあ精進しなさい。お茶くみの腕を上げたら金一封出しても良いよ?」
自宅警備員の部下だとお茶くみから始めないと仕事が出来るか分からないので・・・。
そこまで馬鹿にされて流石に七瀬の部下もやる気を出したようである。
徹底的にお茶の研究を始め、1月7日の朝、お茶を振舞ったが優は意外に思ったのだ。
まさかこの短期間にここまで上達するとは思わなかった。
バカにした事謝らなきゃならないなぁと思いながら一応悔しそうな表情をする。
ここで認めたら七瀬の部下は思い上がり仕事をしなくなるかもしれないが一応は負けを認める。
「多少は上達したようね。馬鹿にしてごめんなさい。私一応茶道の師範だし」
この人達を教えるのは私じゃ無理だなぁと思いながら柚木に連絡するのだが名家の一族だ。
「て訳で私の不詳の弟子が入れたお茶を飲んで欲しいんですけど」と言うので飲んでみた。
「美味しいよ?私も茶道も華道も舞も出来るけど教える事は出来ないから」柚木は農閑期に就職希望に来た農家8万人を丸抱えで雇うと古参のボランティアから文句が来たのだ。
「よせ。俺達は趣味で参加してるんだが、あいつらは本当に雇わないと路頭に迷うんだ」
まあネットで3億円近く儲けた七瀬は申告漏れに気付かないようにはなるまいと税理士を雇う。
「良くここまで儲けたなぁ。おかげでネット通販が大流行りだぜ」会社とかでネット注文でポイント稼ぐ企業が増えてきたのでガウガウポイントを含め大儲けであるのだ。
急成長を見込まれる林業の会社を大手が買収して国有林の間伐を申し出て柚木と交渉だ。
「ふふっ。近畿地方の国有林を間伐して大儲けさせて貰えれば林業は潤いますぞ」
近畿の株式会社ユウが柚木との条件交渉に乗り出したのだ。
「3千億円で権利を頂きたい。柚木さんは林業の収益が得られるし我々も儲けられるし」
「乗ったぁ。3千億円で間伐の権利を上げるけど禿山にしないでよね」と柚木が念を押す。
「禿山にしてしまったら我々は2度と山から収入が得られなくなってしまうじゃないですか」
開発目的の業者と一緒にしないで欲しいと思ったが、こんな田舎の土地開発したって誰も買わないよと思う業者であり、ユウは山を守る事を念書に書き誓い合ったのだ。
「ユウ殿に柚木さん。お茶が入りましたよ。不味いお茶ですが我慢してください」
飲んだユウはそんなに不味くもないんじゃないと思うがと内心好意的な感想を持った。
だがあの伝説的なお茶くみの才能を持つ優にはド素人に見えるのかも知れない。
「柚木さん。植林部隊の兵を勧誘しても良いでしょうか?今10万人でしたっけ?」
「10万人ね。給料出すって言ったらそちらに寝返るかもよ」と柚木が煽るのだが「25万円出しても良い。ケチな農水省より厚遇するぞ。俺らは」と引き抜きに一生懸命だ。
1月8日朝、この株式会社ユウの引き抜きにより8万人が寝返って行った。
それはそれで良いのである。
農水省じゃ全員に給料は出せないから、給料出してくれる会社に義勇兵が引き抜かれるのは歓迎なのだが、北海道を攻略するのに7万では効率よく林業が出来ない可能性があるのだ。
しかも5万は東北の抑えに残しておかないといけないので2万人しか動かせないのだ。
「人材を募集しよう」と言う訳で新たな人材を募集したらアフリカから1万人がやって来た。
「雇ってくれると聞き疫病の検査を潜り抜けやってきました」とアフリカ人の若者達だ。
「植林部隊のメンバーは殆どがボランティアと聞きますが、我々は給料頂かないと困りますしアフリカからやって来たのに不採用ではこのまま帰る訳にも行きませんな」
「分かってるから。貴方達宗教は?豚肉とか食べれる宗派なの?」と柚木は聞いておく。
「豚肉は駄目ですな。それと1日5回は礼拝をおこないますぞ。海外赴任中は礼拝の義務はないらしいですけど俺達は礼拝します。断食月も守るつもりです」と団結を誇るのだ。
「分かった。豚肉は絶対出さないよ。ハラルフードの業者探しておかないとな・・・」
柚木はこの1万人にダムの砂掃除をさせてみたが結構使えるので砂はセメントに混ぜて使う。
「最近は雨が降らないのよ。疫病で手洗いとかしないといけないから水が不足してるなんて言い出せないんだと思うよ?水節約で手洗いサボったら折角2人まで減った感染者が増える」
取り敢えず火を焚いて雨を降らせようと考え一生懸命焚火をする柚木であったが雪は降った。
この雪は近年まれにみる大雪で東北地方の林業部隊は雪に閉じ込められて活動が出来なくなる。
そして林業部隊は完全にその活動を雪によって全否定され、七瀬も流石に大雪で閉ざされたらネットで備品も調達できないので少ない食料をやりくりしながら春まで耐える事にした。
停滞の時の予定です。