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3 死闘

ソファから転がり落ちた結晶体…………


なにも考えず、それを手に取った。

掌を押し返す硬質な感触が頼もしい。


八面体の結晶を縦に持ち、薬指と小指で張り出した部分を抑えて締め付ける。


大袈裟に転がって避けたため、ソファから2、3m離れた位置に俺は居る。


ゴブリンは……?



(よしっ!)



背もたれに内蔵された木製の板に深々とくい込んだ剣を抜こうと剣を引き寄せているところだった。



結晶体を握り締めて、剣を抜くのに手こずるゴブリンの死角に移動する。


ゴブリンは、片足でソファを抑えて剣を引いている。

汚い足乗せんな。



そっと背後に忍び寄り、結晶を握る右手を振り上げる。


その瞬間、ふと思った。



(…………殺せるのか?)




ゴキブリなら、等身大でも躊躇いなく殺せるだろう。

人間の性として、不思議な程にゴキブリを憎んでいるから。


犬や猫でも、あるいは。


だが、これは……犬や猫、昆虫と比べると、あまりにも人に近い。



結晶を────



「ギャッ!?」



振り下ろす。



「ギッ!」



振り下ろす。



「ぎあぁぁ!」



剣を手放して崩れ落ちた緑の身体、その胴体を両足で強く締め、馬乗りになる。



体格では俺が勝っている。

だが、筋力は間違いなく相手が上。。

更に言うと、こちらは左肩に傷を負っている訳だが。



「ふっ……んっ!ふっ……!ふんっ!」



何度も何度も何度も何度も何度も何度も振り下ろす。



視界を奪う為に、目に。

噛みつきを懸念して、頬に。

気道か頸動脈を潰せればと、頸に。

それらを庇うように伸びた腕に。


剣が握れないよう、拳を振るえないよう、肩を──────



「あぐっ!」



ゴブリンが反撃に移った。



ありえない…………!



あれだけ殴れば、こんな小柄な小鬼など生きていられなかったはずだ。



そういえば。

先程の”板”。確かあれには…………



(Lv.15……レベル差か?)



多分、この敵と俺の戦力差は、思った以上に大きいのだ。


左の脇腹にゴブリンの拳が突き刺さり、思わず足の力を弛めてしまう。

なんとか締め直して、絞め殺さんばかりにギリギリと力を込める。


暴れ回るゴブリンの上から振り落とされないように。



ゴブリンの膝蹴りが背中を打つ。



「くぅ……っ!」



この体勢で膝蹴りを避ける術はない。

でも、背中は防御力が高いから大丈夫。


我慢出来る。

我慢、するしかない……!



(……いける!)



背中と、肩と、脇腹。

痛む体に鞭打って、あと少し。

きっともう倒せる。


振り下ろす。



「ギッ!」



振り下ろす。



「グァ!」



振り下ろす。



「……ァ」



振り下ろす。


手が庇おうと伸ばされたら、その手を。

阻むものがないなら、そのままに。


狂ったように殴り続けた。



「はっ!はっ!はっ!はぁっ!はあっ!はァァァ……あ!フッ!はぁ!」



いつからか、ゴブリンは拳を握り両腕を畳むようにして胸から顔を守った姿勢で、動かなくなっていた。


その姿に勝利を予感した俺は、淡く光る八面体を握る右手に左手を重ね、大きく振りかぶった。



「これで……」



その瞬間。



「……とどめだッ!」



そう言って笑う俺の下で、ゴブリンの口角がニタァとつり上がった。



「……ぐっ!?」



勝利を予感して俺の足の力が緩んだその瞬間、ゴブリンはダンと床を蹴り、身をねじってうつ伏せになる。



「ギァァ!」



そのまま強引に俺の下から這い出した。


脇腹への肘打ちの置き土産付きだった。


ゴブリンが笑い、立ち上がる。

その両腕は力無く垂れ下がっており、左眼は潰れ左右の頬の傷から青黒い血がドクドクと流れ出ていた。


対するこちらは左肩を抉られ、背面と脇腹に打撲、それから頭を打って脳震盪1歩手前である。

肩の血が止まらないのも放置はできない。


それでも、有利なのはこちらなはずだ。


ゆっくりと、体の調子を確かめる様に立ち上がる。



そんな秋斗を見て、ゴブリンは嗤った。

そしてどうやら、俺も笑っていたようだった。



ゴブリンは瀕死。

こちらはもう少し余裕があるが、1度ゴブリンの攻撃を喰らえば体勢を整える事も許されず倒れるだろう。


ゴブリンも、秋斗も。

正真正銘、次が最後だと確信した。



「グギャァァアアッ!」


「おおおぉぉぉッ!」



ゴブリンは小さな体で大きく跳び、回し蹴りを放った。



跳ぶと分かっていた。


腕が使えず、顎も使えないゴブリンの攻撃は蹴りだと確信していた。


だから。



(跳んだ!)



余裕を持って、避け…………



「うっ!?……」



……る、つもりが。


突然の衝撃に、動きが遅れた。



「なっ……!」


「ギァアッ!」



ゴブリンが右の掌をこちらに向けていた。

何をされたかは分からないが、事ここに至ってはやることは1つ。



秋斗は左腕を頭の横に構え、右手でもって結晶体を、ゴブリンがいるはずの空間へ向かって突き入れた。


ミシィ、という嫌な音と共に、左腕に激痛。

握りしめた八面体が右手にくい込み、ボタボタと血が流れていた。




「……っ痛ぇぇぇぇぇえええ!」




ふと見ると、ゴブリンはいつの間にか消えていた。






【ダンジョンボスを倒しました────】




読んでくださって有難うございます。


ブクマ、評価して頂けると嬉しいです(ง °Θ°)ว

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ???前回ラストでゴブリンを倒した訳ではないのか。 そうしたら、突然出てきた結晶体ってなんなんだ? 他作品の核や魔石のような物かと思ったけど、違うのか。 そもそも家なら武器として包丁が…
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