1 世界が変わった日 前夜。眠れないだけの第1話
俺、黒木秋斗は、基本早寝早起きを心掛けている。
「……ダメだ。寝れない」
その夜。
なぜだか俺は、眠ることが恐ろしかった。
暗いのが怖い、とか静かなのが怖い、とかではない。
ただ純粋に…………眠ること、意識を手放すことが怖かった。
一向に眠れない。
怖いんだ。
羊が1匹羊が2匹、と5000くらいまで数えたものの、やはり眠れない。
パキッ
「…………!?」
『部屋 パキパキ』で検索してみると、どうやら昼夜の温度差とかで木が収縮したり乾燥したりが原因で、家鳴りという現象らしい。
電気をつけて部屋を出る。
時計を見ると、既に4時を回っていた。昼夜の温度差とは一体。
人気の無い家の中、スマホのライトをONにし、足元を照らしながらリビングに降りる。
一人暮らしには持て余し気味の一軒家。
去年死んだ両親の持ち物が今もそこら中に積んである。
整理しようとは思うが、なかなか手が付けられないのだ。
だって、信じられるか?
ある日学校から帰ったら父親と母親が死んでいたなんて。
帰った、というか学校に連絡が入って強制早退で病院に直行したんだけど。
全てがあまりに電撃的で、現実として受け入れられていないんだろう。顔も見れなかったしね。
一時期不登校気味になったけど今は休まず高校に通ってるし、一人暮らしの生活にも慣れた。
塾は辞めた、ごめんなさい。
家でちゃんと勉強してるから許して。
自習室より静かでリラックスできる。
カーテンを下ろしてリビングの電気をつけると、今が深夜である事は分からない。
昼のように明るい室内に頼もしさを感じつつ、ソファーに腰掛けてiPadの電源を入れた。
ちなみに、俺はゲームはiPadでやる派である。
大画面だと見やすいし操作も楽だからね。
スマホは部屋に置いてきてしまった。
取りに行くのも怖いので諦める。
スマホは連絡・SNS・読書用である。
読書が9割。暇になったらなろう作品とかを読み漁っている。ノクターンもね。17歳だけど。
だって誰も制限かけないから…………
あなたは18歳以上ですか?という問いに”YES 入場します”をそっと押したらすっと入れた。
しばらくの間、ゲームをしながら、時折コーヒーを口に含んだ。
しかし、そのうちに抗いがたい睡魔が襲ってくるようになってくる。
体でも動かそうか。静かなのがいけないのかもしれない。
そもそも寝るのが怖いってなんだよ。子供か。
小学生の頃、ホラー映画を見た夜以降初かもしれない。
静けさを追いやるために、テレビをつけた。
『現場に残されていたマルゲリータ。これが犯人を表している…………それはあなただ!丸毛梨多さん!』
大して面白くもなさそうな上にクライマックスに差し掛かっている深夜番組の刑事ドラマから気を取り直してチャンネルを操作する。
『は、はぁ?そんなわけないじゃないですか。だいたい証拠はあるんですか!』
次。
『慌てなくとも全て説明します。まず、このマルゲリータにかじられたところからあなたのDNAが検出されました』
次。
『あの人に呼ばれてピザパーティーをしていたんですよ!それにさっきから聞いていれば、そのピザがダイイングメッセージと言うなら、刺された後に用意したことになりますが?』
次。
『くっ……だ、だまれ!証拠はあるんだ!……はっ!あなたは今”刺された”と言いましたね!?何故彼の死因を知っているんですか?』
なんだこれは……地獄か?だいたい1~5チャンで全部おなじ番組って……
気を取り直して、ユーチューブの適当な動画を大画面で流すことにする。
『グルォォォォ…………』
何故かおすすめに出てきた、サバンナの動物たちの動画。
1人がけのソファ以外何も無い殺風景なリビングは、暗闇と静寂から解き放たれていた。
普段ならば寝にくいはずの環境だが、今の俺にとってはこの安心感こそが最高のお布団になる。
が、寝れない。
そのまま眠ってしまうこともあるくらいには座り心地のいいソファなんだけど。
テレビはそのままに、キャンプ用のテントを組み立ててその中で寝袋にくるまり、昼のように明るく音に満ちた空間で、二重三重に自分を守る。
これがホントのお家キャンプってね。
結局、眠れたのは5000とちょっとの羊が柵を飛び越えてからだった。
眠る直前。なぜだか世界が泣いているような気がしたのだった。
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