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第4話「勇者の娘」

「小娘、これはどういうことだ」


 魔王は鎧から出て来た少女を思い切りにらみつけると少女はアイスブルーの瞳に涙をうるませ震えあがり膝をついた。少女が震えあがるのも無理はない。魔王は真の姿の翼を生やしたおどろおどろしい姿に加えて憤怒の形相で睨みつけているのだ。

 

 しかし、2年間も余分に待たされたばかりかやっと現れたと思った者が勇者の姿を模した少女だった魔王からしてみればこの行動は当然ともいえるだろう。むしろ、この場で即殺されないだけ良いとも言える。


 魔王と少女はしばらくの間(にら)みあった。先に口を開いたのは少女だった。少女は震えながらも立ち上がると剣を構えて魔王に向って叫ぶ。


「わ、私と勝負してください! それで、ももももし私に勝ったら……私のお願いを聞いてください! ! 」


 少女の言葉に魔王は眉をひそめる。


「小娘、貴様今【私に】、と言ったのか? 」


「はい」


 少女は答える。これには魔王も閉口せざるを得なかった、普通こういうものは「自分が勝ったら言うことを聞け」というものだろう。それをこの娘は「自分に勝ったら」つまり「自分が負けたら言うことを聞け」と言ったのである。

 それも目の前で怯えると見るからに勝ち目がなさそうなこの少女が! 力任せに蹂躙してきた魔王さえもこの提案は理不尽に思えた。


「フフフ、フハハハハハハハハ」


 それ故、魔王はこれを聞いて笑い出した。


「小娘よ、なかなか面白いことを言うではないか。貴様が敗北、つまり貴様が我に殺された後我がその約束を守るとでも? その前に死んだらお願いとやらも言えないではないか」


 そう言い終わると遂には腹を抱えて笑い出した。


「多分、貴方なら守ってくれると思います」


 それを聞いた少女はこれまでの震えは何処に行ったのか不思議に思う程の堂々とした様子で魔王を見つめて堂々と言った。


「ほう、どうしてそう想うのか? 」


「だって……」


 少女は言いかけるも言葉に詰まったようだ。彼女は続きを絞り出すようにとこぶしを握り締める。


「だって、お父様のこと何年も待っていてくれたじゃないですか」


 そう少女は目に涙を浮かべながら言った。


「父……とな、貴様あの勇者の娘か? 」


 そう尋ねる魔王の顔からは笑みが消えていた。


「はい」


「勇者はどうして娘を寄越したのだ? 」


「父は……死にました」


「なんだと! ? 何故だ、何故勇者は死んだ」


 流石の魔王もこれには驚いたようで目を見開いた。


「母によると父はあの貴方との戦いの後、魔王の城から無事に出てくるのはおかしいスパイではないのか、と疑われて処刑されました」


「なんということだ」


 もう、あの手に汗握る戦いは出来ないという落胆と自分を前に希望を訴えたものの余りにも悲惨な最期への憐みから魔王は顔を歪ませる。しかし次の瞬間、その顔は再び恐ろしいものになった。


「勇者を殺したものは誰だ」


 怒りの籠った低い声で尋ねると少女は震えあがる。


「せ、セントブルクの王様……と母は言っていました」


「それだけか? 勇者はノコノコと家に帰ったのか? 勇者の帰宅を王に知らせたものがいるはずだ! 」


「そ、それは……わかりません」


 その途端、隙間風すら吹くはずのない部屋に風が吹き荒れた。


「きゃあ! 」


 少女は飛ばされまいと四つん這いになり必死に床にしがみつく。


「許さんぞセントブルクの王よ! 」


 怒りに震える魔王を少女は恐れながらもどこか頼もしそうに見つめる。魔王は掌を少女へと向けた。


「ふん! 」


「きゃあっ! 」


 周囲を覆う風と比べると微々たるものだったが少女一人を吹き飛ばすには十分で途端に彼女は衝撃波で壁に叩きつけられる。


「我の勝ちだ、さあ貴様の願いを言え」


 魔王の低い声が城内に響いた。

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