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第20話「苦い勝利」

 魔王はたった一人照明に照らされる中洞窟内で十数人ほどの冒険者と向き合っていた。


「ノコノコとやってくるなんて馬鹿だねえ」


「まあまあ、お陰であの厄介なブレドをやれたんだ。感謝しないとな」


 弓を構えた者たちがそう言って笑いあう。


「どうしてこの者達を撃った」


 魔王は尋ねる。すると皆が笑い出す。


「そんなの、邪魔だからに決まってるじゃん! 勇者の称号のクエストは報酬が良い分命懸けで人数割いて分け前が減るって言うのにあいつらたった三人で倒すんだからな! おれ達からすれば商売あがったりだよ! 」


「もしや他の勇者の者が命を落としたというのも? 」


 魔王は聞いたものの確信していた。この者たちが犯人だと。時間が経たないうちに予想をしていた答えが返ってくる。


「勿論だよ、商売敵っていうのは邪魔だからねえ! こちとらこうやって人海戦術じんかいせんじゅつでいってるのに才能あるやつらの少数精鋭(せいえい)なんか組んじゃって」


「ならば組まずとも各々が身の丈に合った称号でクエストを受ければよかろう」


「は? 馬鹿かあんた、それじゃあ大した金が貰えないじゃないか! こうやって商売敵を潰しておれ達だけが儲ける! そのほうが格段に稼げるんだよお! 他の奴らを皆殺しにしたものの最後の最後、ブレドがロアの忠告を聞いてしばらくクエストを受けなくなった時は焦ったよ。独占できるもののいつ出てくるか分からない競争相手がいるっていうのは焦るからなあ。でもお前たちのお陰でまんまと姿を現してくれた。感謝してるぜ! 正直、楽なクエスト程先回りして待ち伏せるのは簡単だからなあ。ゴブリンなんて相手にもならなくて楽勝だったぜ! 」


 そう言って男は笑った。よく喋る、魔王は思った。それと同時に彼はこの男の正体に気付いた、名前は一度しか聞いたことがないが間違いはないだろう。確かめるために口を開く。


「貴様、ブレドともう一人の勇者の称号を持ったミゲルだな」


 魔王の言葉を聞いた男は眉を吊り上げる。


「ほう、バレていたのか。そうさ、おれが最後の勇者の称号を持つ男、ミゲルだ」


 ミゲルは多少取り乱しはしたものの堂々と名を名乗った。それを聞いて洞窟内がざわつく。


「うろたえるな、安心しろ。こうやって入ってきた時点でこの男の運命も決まった、今更死体が一つ増えたところで何も問題はない」


 ミゲルは後ろを向き仲間にそう語ると再び魔王に向きなおる。


「筋書きはこうだ、冒険者見習いと共に旅に出たブレド一行は油断をした結果予想以上のゴブリンの力に苦戦、そして悲劇の全滅を遂げる! 安心しろよ、ちゃんと勇者のおれが通りかかった体で話しかけてやるからさ」


 そう言って魔王を見下ろすように眺めるミゲルは勝ち誇ったように告げる。


「何か言い残すことはあるか? 哀れな冒険者見習いさん」


 それを聞いて幾つもの矢に標的にされる中、魔王は口を開いた。彼に伝えることはたった一つだけだった。


「貴様は、勇者ではない」


「ハハハハハ、そりゃそうだ。馬鹿正直な勇者なんて今頃いねえよ、死んでしまえ! 」


 その言葉を合図に次々と矢が放たれ幾つもの矢が魔王を襲う。そして瞬く間に魔王に突き刺さった。しかし、魔王には効果がない。『自己再生』には毒を浄化する力も備わっているのだ。


「何だこいつ、あれだけ矢が刺さってるのにビクともしねえ! 」


 どよめく者を前にどうやってこの者を倒すかを考える。すると《《あるもの》》が視界に入った。その途端、彼らの運命は決した。


「『アルファスパーク』! 」


 魔王が呪文を唱えるとたちまち巨大な電撃の塊が出現する。それをそのまま放とうとしたその時だった。


「洞窟内で強力な魔法を使うと壊れる恐れがある」


 聞いたことのある声が響いた。


「そうだったな、ならばどうするか……ふっ」


 魔王は懐かしそうに笑う。それと同時に巨大な電撃の塊を小さく分け相手に一斉に放った。


「「「うぎゃあああああああああああああああああああああ」」」


 小さな電撃の塊は漏れなくその場にいた全員に命中する。それを確かめた魔法は踵を返し盾の魔法を解除してアリスの元へ向うと指をパチンと鳴らし『ゲート』を出現させ三人を担いだ。行き先はギルドだ。


「帰るぞ」


 魔王の言葉にアリスは無言で頷く。


「ま、待て」


 そんな時背後から呻くような声が聞こえる。


「この借りはいつか必ず返してやる。覚えてろよ」


 先ほどまで饒舌に語っていたミゲルの声だ。彼は身体が痺れはしているものの生きているようだった。それもそのはず、魔王はわざと生かしておいたのだ。それは、先ほど魔王の視界に《《あるもの》》が目に入ったからだった。彼は振り返り口角を吊り上げる。


「ほう、楽しみにしておこう。ならば我からも一つ忠告をしよう、貴様等は一つ初歩的な見落としをしている」


 魔王がそう言った時だった。地面に這いつくばりながらも何を言っているのか分からないとばかりに眉を顰めるミゲル達の背後の壁がカタカタと震える。よくみると震えた箇所の数メートルは他の壁と微妙に色が異なっていた。


「ぎぎぎぇ! 」


 ゴブリンの雄たけびと共に壁が崩壊し次々とゴブリンが現れた。


「ひ、ひぃぃぃぃ! た、助けてくれえええええええ! 」


 魔王は彼らの悲鳴を尻目に『ゲート』をくぐりギルドへと向かった。


 ギルドには先に辿り着いていたアリスと三人が横たわっていた。幸か不幸か皆クエストに出かけたのかいるのは受付嬢ただ一人だ。


「オウマさん、これは一体どういうことで」


 入り口と重なるように現れたためバレてはいないだろうが突然の事態に受付嬢が目をぱちくりさせる。


「話は後だ、まずはこの三人を。初めての訪問故こういう時に連れて行く場所も分からなくてな」


 それを聞いた受付嬢はウィズを背負うと


「職員用の仮眠室がございます、そちらへ! 」


 と魔王たちについてくるように促すと歩いて行った。魔王もブレドとロアを肩に担ぎ後を追う。アリスも無言で彼らを追いかけた。


 仮眠室にて三人をベッドに寝かせた魔王とアリスは近くのテーブルで受付嬢と向かいあうように座る。


「ミゲルという者に奇襲を受けてな、ゴブリン退治どころではなくなったのだ」


 そう切り出して事のいきさつを説明する。


「そう、だったのですか。ミゲルさんがそのようなことを」


 全てを聞いた後、受付嬢はそう呟いた。


「ブレドさんも、ウィズさん、ロアさんも皆良い方でした」


 アリスが涙を流す。


「ええ」


 受付嬢は頷く。魔王も同じ気持ちだった、故にこのような結果は残念でならない。今回の件でアリスは図らずも心に闇を抱えただろう。もしもの話ではあるが身体がしびれている時にゴブリンに襲われているミゲル達を助けようとしなかったのもその表れかもしれない。

 

 しかし、何故か今の魔王はそのことを喜ぶ気分にはなれなかった。


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