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不正解と不正義

作者: 生ハム

不器用で正義感の強い健。

ときにその正義感が自分を苦しめることもあった。

いつものように白黒論で物事の良し悪しを決めていた日常に、転機が訪れる。

それは挫折でもあり、新しい価値観・世界との出会いでもあった。

・日常

ああ、今日も疲れた。

そう言いながら、けだるそうなオーラ満載に足を引きずり出社・退勤するサラリーマンやマナーのなっていない客。

その一方で、足の悪いご老人に席を譲る女子高生や道を譲る若い青年。

そんな日常を横目で見ながら、健は通学中の電車の窓の横でたたずんでいた。

「日常とは、理不尽で所詮こんなものだ」

時に誰かが大人になり、ときに誰かが横暴な態度をとったりする。

正義感の強い健は、その些細な「不正義」が許せなかった。

「くそ」

心の中でではあるが、このセリフがいつもの口癖となっていた。

しかし、17歳の健には、自分の「不正義」と「不正解」の区別がわかっていなかった。

自分の型にはなまらないものと不正義を同じものとしてしまっていたのだ。


・兆候

健の家庭は、母子家庭で健が幼いころに父親は失踪し、父親の顔さえいまいち覚えていない。

そんな環境でも健はよい子に育った。

学校の成績は良いし、友達もたくさんいる。

はたから見たら充実した生活を送っていて、順風満帆な人生に見えた。

しかし、彼の中ではそうではなかった・・・。

ある日、いつもと変わらない週末の金曜日のことだ。

健は、帰りの電車で奇妙なものを見た。

酒で酔っ払って少々喧嘩気味になっている乗車客がいたのだが、他の乗客はそのトラブルに目を向けていたが、健は違うものに目を奪われていた。

口論している酔っ払い客の頭上に何かぼやけた煙みたいなものが見えたのだ。

一瞬、火事か何かかと目を疑ったが、火はないし煙臭くもない。

どうやら僕にしか見えていないのだと確信した。

その煙みたいなものは、電車の天井を貫通して天まで上っているようにも見えた。

「俺はおかしくなったのか・・・?」

家について、ベッドで横になりながらぼやいた。

悩んだが考えすぎだろうという結論に至り忘れることにして、そのまま健は、深い眠りについた。

奇妙なものが見え始めて一週間、以前よりもはっきり見えてきている。

少しわかったのが、どうやら煙みたいなものには二つ種類があるようだ。

一つ目が黒い煙で、負のオーラともいうべきか、悪いことや人を不快にさせるような人が放っていた。もう一つは名づけるのなら負のオーラの逆で正のオーラだ。

親切にしたり、喜んだりしている人の頭上によく見る。

一瞬、精神科にかかったほうがいいのかもとも考えた。

しかし、そんなことを思っていたときに、健は彼に出会った。


・再開と挫折

変なものが見える日々が長く続き、健はベッドから出れなくなった。

自分が変なじゃないかと思い外にも出られなくなったのだ。

半年ベッド生活が続き、ある日のこと、開かずの間と化した部屋に半年ぶりの訪問者が現れた。顔こそ知らないが、健はすぐに誰だかわかった。

「お父さん」

健の身の回りのすべての人にあのへんな煙が見えていたのだが、父親だけにはそれがなかった。

「おはよう、と言ってももう夕方だな。元気にしてるか。」

まさか自分の父親がこんな皮肉な性格だとは想像もしていなかった。

ベッドに沈んでいる息子をみて元気かって・・・。どう見ても元気ではない。

そんな皮肉に健は反応できず、しばらく唖然としていた。

そんな様子を気にすることもなく、部屋にずかずかと入ってきて、こういった。

「お前に伝えなきゃならんことがある」


・世界の原理

無理やり父親に近所のカフェに連れてかれ、今は注文したカルボナーラパスタを待っている。といっても食べるのは父親だ。健は食欲がないと断った。

しばらく沈黙が続いた後に「おかしいと思わないか。」と父親が切り出してきた。

健は自分の奇妙なものが見えることを切り出すか迷っていたので、思わず「え?」と返した。もしかしたら父親もオレの親だし同じ体験があったのではと思ったのだ。

「注文して15分はたった! のにまだこないな・・・パスタ」

健はがっくりなのか、いらだちなのかその両方が入り混じった感情が沸いた。

ちなみに15分も時間はたっていない。

「お父さんは、いままでなにしてたの?」

健のほうから切り出した。

父親は何とも感情の読めない表情をしてからそうだなと返した

[それを説明するには、いろいろ話さなきゃならんことがある。」

そう言いながら、注文が滞っている、お店の厨房を気にしながら話し始めた。

「まず、健お前最近何か変な出来事がなかったか」

ドンピシャだった。

健はカフェに来たかいがあったと、希望を持った。

「なんで知ってるの?お父さんも見えるの?ほかの人には?いったい・・・」

そこで遮られた。

「まあ落ち着け」といい続けていった。

「この世界には、二つの氣が存在する。一つはプラスもう一つはマイナスだ。

世界はこの二つの氣で均衡を保っている。お前も見たろ?不条理な光景や人の善い行いを。それらはどちらかだけあってもダメなんだ。すべては一つに集約される。天地の一点にね。俺たちはその氣の流れを読み、人を導くことができて、天地から与えられた宿命なんだ。つまり・・・」


「ちょっと待って。20字くらいで説明して!」

健は必死に頭を整理していた。

「そんなのは、無理無理。20字って・・・川柳じゃあるまいし・・・」

そういちいち皮肉をこぼしながらパスタの到着を待っていた。

やっとパスタが来たところで、父親の話は終わりに差し掛かった。

「待ったかいがあったね。」

健は皮肉を言われた分、皮肉っぽい言葉を向けた

そんな言葉を聞き流すどころか聞いてないようにパスタをフォークでぐるぐるとしていた。


・始まり

世界は不条理であふれている。

マナーの悪い客、道を譲る若者。

しかしながら、この二つは全く同じ氣の一つ。世界から見たら同じ属性なのだ。

僕は少し自分の「不正解」がわかった気がした。


おわり


作者自身の10代の頃におくる小説。

今より、柔軟な考えができすに自分の性格に苦しんでいたあの頃に、何かできるとしたらこの小説を読んでほしい。


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