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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
転校初日
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顔合わせ

「へぇ、晃司と夢がクラス代表か」


放課後、いつもの様にクラスにやってきた心理は、目を丸くしてぼやいた。


「あ、誤解するなよ?夢美を狙ってるとか、そんなんじゃないからな」


すかさず晃司が口を挟むと、心理は「わかってるよ」と苦笑いを浮かべた。


「晃司が相方ならオレも安心だし。つーか夢さ……」


心理はこちらに近付くと、眉を寄せて囁く。


『目立つ事しないんじゃなかったのかよ?合宿のとはいえ、代表だぜ』


『つい勢いで。でも大丈夫よ、西君が一緒にやってくれるなら』


『そうだけどさ……。てか、晃司の事は大丈夫なのか?その、例のアレは』


「なにコソコソ喋ってるんだよ」


訝し気な表情を浮かべる晃司を、揃って見つめる。


今の所、晃司に対してはこの距離でもアレルギー反応は出ていない。


恐らく清潔感があるのと、男性化粧品や整髪料を使っていないからだろう。


今後の事を考えて、晃司には話しておいた方が良いかもしれない。だが、変に気を使わせてしまうのも──。


「ううん、なんでもない。短い間だけどよろしくね」


取り敢えず今はまだ良いだろう。


もしも今後、ちょうどいいタイミングがあれば、その際に伝えよう。


そう思い直した。


多目的室には、夢美達1組の生徒の他、5組までの男女8人が集まっていた。


まだ他のクラスとはあまり交流がない為、顔見知りな生徒はいない。


夢美と晃司は、取り敢えず用意された【1組】と書かれた札のある席に着く。


こう見ると、イベントの代表は比較的リーダーシップのある生徒がなる傾向にあるらしく、どの面々も明るく人当たりが良さそうだ。


進路指導合宿の責任者は、3組の担任の小笠原という年輩教師だった。


たしか、古文を受け持っていはずだ。


小笠原教師は軽く辺りを見回すと、名簿と照らし合わせ、ぽつりとぼやく。


「まだ、5組の代表の姿がありませんね。誰か知りませんか?」


「遅れてすみませーん」


ガラリとドアが開き、茶髪の生徒が悪びれる様子もなく入ってきた。それに続き、不機嫌そうな表情を浮かべて姿を現したのは朝香だった。


(なんで朝香が……。こういうの嫌いそうなのに)


席に座る朝香を見つめていると、隣に座る晃司が呟いた。


「あいつもまさか、従姉妹か?なんか不機嫌な心理にそっくりなんだけど」


「えぇ。私たちの従姉妹。苫記朝香って言うの」


「へぇ、道理で……。顔は似てるけど、雰囲気は夢美とあまり似てないんだなぁ」


確かに朝香は、明るい髪色で化粧はバッチリキメており、見た目はかなり派手かもしれない。


加えてあの表情だ。


そう思われるのも無理はない。


朝香は遅れてきたにも関わらず、ごく自然に腕組をし、足を組む。


小笠原教師は僅かに顔をしかめたが、そのまま話を進めた。


「君達は、5月に予定している進路指導合宿のクラス代表として選ばれました。合宿では色々なレクレーションを予定しています。また、かなり細かなスケジュールも決められていますので、それらをクラスに持ち帰り、皆にシェアしていただく役目があります。また、後日各クラスのグループ分けを行う時間を設けますので、君達が中心となって進めて下さい。あとはしおりの準備ですね。土台は予めこちらで用意していますが、各クラスで編集いただくページもいくつかあります」


話を聞きながら、なんとなく、中学の頃にやった修学旅行の役員の様なものだなと思った。


あの頃はしおりの内容まで全て自分で決めなければならなかったが、それに比べれば楽かもしれない。


小笠原教師は一通り代表としての役割を説明すると、各クラスで自己紹介をする様提案してきた。


先陣を切るのは、勿論、1組の夢美達だ。


晃司はごく自然に立ち上がり、先陣の先陣をかって出た。


「1組の西晃司。よろしく」


晃司は皆と友人らしく、周りから「晃司がやるなんて珍しいなぁ」という声が上がった。


夢美の番となり、席を立って顔を見渡す。


皆からは、一体誰だろうと疑問視する心情がありありと感じられた。


その時になって、やっとこちらに気付いた朝香を除いて。


「苫記夢美です。私は転校してきたばかりなので、皆の事はまだわかりませんし、この学校のこともまだ知りません。これを機に仲良くなれればと思います。よろしくお願いします」


頭を下げると、ごく自然に晃司の時にはなかった拍手が鳴った。


笑みを浮かべて腰を下ろすと、2組、3組と自己紹介が続く。


そしていよいよ、5組の朝香達の番となった。


朝香は立ち上がりかけた茶髪の生徒を制すると、堂々と、悪く言えばふてぶてしい態度で言う。


「苫記朝香。同じく転校してきたばかりだから、まだ学校の事はよく知らないわ。ちなみに、そこの夢美とは姉妹じゃなくて従姉妹だから」


それだけ言うと、ストンと椅子に座ってしまう。


「えーと、5組の木村一春。よろしくー」


ヒラヒラと他のクラスの女子に手を振る。


見た目通りならば、かなりチャラい。朝香が不機嫌な理由が少しわかった気がした。


今回のはあくまでも顔合わせらしく、ミーティングはすぐに終わった。


せっかくだから朝香を誘って帰ろうかなと席を立ちかけると、他のクラスの代表達に声をかけられた。


「あの、苫記さんよね?初めて見る子だなぁって思ってたけど、転校生だったのね」


「こんな時期に大変だなぁ。しかも代表までやるなんてすごいじゃん」


「ありがとう。せっかくだから、行事に参加したいと思って」


あっと言う間に囲まれてしまい、朝香の姿が見えなくなってしまった。


だがせっかく交流をはかろうとしてくれている彼女達を蔑ろにするわけにもいかない。


「ねぇ、前はどこに住んでたの?どこの学校?」


「京都よ。学校は折笠学園っていう女子校だったの」


「へー!京都?素敵ねっ」


どうやらこの地域では、京都は人気が高いらしい。


クラスメイト達にも、京都についてアレコレ聞かれた覚えがある。


今まで話を聞いていた晃司が、ふと声を上げた。


「あ。これから皆で飯でも食いに行こうぜ。親睦会って感じで」


「あ、いいね!みんなも大丈夫?」


「大丈夫。行こう行こう」


トントン拍子で話が進み、皆でファミレスに行くことが決まった。


近くに立っていた生徒が、話の輪に加わっていない5組を振り返る。


「ねぇ、一春君達も一緒に──あれ?」


しかしそこにはもう、一春の姿も朝香の姿もなかった。


どうやら早々に戻ってしまったらしい。


「なんだ?5組の奴等、付き合い悪いな」


晃司が眉を寄せながらぼやく。


「きっと何か予定があったのよ。ほら、行きましょう」


こうして夢美達を含む8人の生徒達は、近くのファミレスへと向かった。




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