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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
転校初日
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立候補

最初に感じていた通り、やはり、クラスメイトは皆良い人ばかりだった。


「夢美、次の時間は化学で移動よ。案内してあげるから一緒に行こう」


「帰りにみんなでカラオケ行くんだけど一緒に行かない?」


「今度の日曜日に、佳菜子のうちで女子会やるんだけど来ない?」


皆、転校生の夢美を気遣い、色々と誘ってくれる。


転校してきたばかりで友好を深めたいと思っていた為、積極的に誘いに乗った。


そして数週間後には、クラスにも溶け込み、夢美が転校生だと珍しがる生徒も少なくなってきた。


そんなある日の事だった。


「そろそろ皆も、新しいクラスに慣れてきた頃よね。5月には進路指導合宿があるから、その為の代表を決めましょう」


金曜日の6時間目の授業がホームルームに変更され、担任の冴原教師がやって来た。


どうやらこの学校は、珍しく3年の1学期に進路指導合宿があるらしい。


「ねぇ、進路指導合宿ってなに?」


隣の席の友人──飯沼香苗に問う。


香苗は小さく笑うと「そんなのは建前で、本当は高校生活最後の交流会みたいなものよ」と教えてくれた。


香苗いわく、本当の意味での進路指導合宿は、野外学習という名目で、1年の春に済んでいる。


1年の後半から2年にかけては選択科目があり、自分が将来なりたいものを考え、その為には今後どの授業を選択するのがベストなのかなど、かなり具体的なアドバイスを貰えたらしい。


実際の所夢美も、前の学校では2年の前半で似たような行事に参加していた。


3年の今時期に行われる合宿は、受験生の為、表向きは『進路指導合宿』となっているが、中身は皆で食事を作ったりキャンプの様な事をしたりと、1泊2日で高校生活最後の思い出作りと、ちょっとした息抜きをする為の行事らしい。


「先輩に聞いた話だと、この後は受験の追い込みに入っちゃうから、最後の楽しいイベントなんだってさ」


「そうなの」


夢美の夢は栄養士だ。


料理好きが高じ、自分の店を持ちたいと思うようになっていた。


ただ美味しいだけの料理なら、レシピを見て作る事ができる。


だがバランスを考えると、栄養士の資格を取っておいた方が良いと考え付いた。


その為には、専門の学校に進学しようと決めているのだ。


2人が話をしている間にホームルームの内容も進んでおり、誰かクラスの代表に立候補する人はいないかという話になっていた。


夢美は悩んだ。


代表が具体的に何をするのかはわからないが、せっかく転校してきたのだ。


合宿自体は1泊2日の短いものだし、何か思い出に残る事をしても良いのではないかと思った。


それに、夢美は前の学校では2年連続で学級委員も務めていた。


代表をやり慣れているのだ。


「はい」


思い切って手を上げると、生徒は勿論、教師も驚愕の表情を浮かべた。


その顔を見た瞬間、しまったと思った。


この学校では、極力目立つ事はしないようにと思っていたのに。


ついつい、いつもの癖が出てしまった。


「苫記さんが立候補してくれるの?」


「は、はい。こんな時期に転校してきて、みんなとの思い出も少ないですし。やってみたいなって」


今さら、やっぱり止めますとは言えない。最もらしい理由をこじつけると、クラスメイト達は皆、嬉しそうな表情を浮かべた。


「さっすが夢ちゃん!」


「私たちも協力するからねっ」


仲の良い女子生徒達が声を上げる。


「ありがとう苫記さん。じゃあ後は男子の方なんだけど……」


「はい」


手を上げたのは赤い髪の生徒──晃司だった。


まさかの立候補に、男子生徒達は一斉に囃し立てる。


「晃司ぃ!お前まさか苫記さん狙いかよ?」


「気を付けろよ。こいつは危険だからさぁ」


「そんなんじゃねーよ」


勿論晃司がそんなつもりで立候補したわけではない事は、夢美がよくわかっている。


なんたって彼は、心理の恋人なのだから。


恐らく、自分の恋人の従姉弟兼クラスメイトを助ける為に立候補してくれたのだろう。


「じゃあ女子の代表は苫記さん。男子の代表は西君にお願いするわね。早速で悪いのだけど、放課後各クラス代表の顔合わせがあるから、2人は多目的室に集まって下さい」


「はい」


「わかりました」


椅子に座ると、ちらりと晃司を見る。視線を感じたらしく、晃司もこちらを見ると、穏やかな笑みを浮かべた。



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