出だし好調
「所で、朝香の方はどうだった?みんなと仲良くなれそう?」
夢美のクラスメイトは皆良い人ばかりで、さっそく似た雰囲気の子と仲良くなり、グループチャットにも招待してくれた。
更に夢美にとって好都合だったのが、晃司を除く男子生徒の性格だ。
皆、どちらかと言えば草食系らしく、今のところ積極的に話しかけられる事はない。
朝香はジュースを飲み終えると、おもむろにチャットアプリを見せてきた。
そこには数人の見慣れない名前と『☆3‐5☆』と書かれたグループチャットが表示されていた。
「友達できたのね。良かったわね」
朝香は髪をかきあげると、ニヤリと笑う。
「ふふん。まぁねぇ。取り敢えず合いそうなグループには入ったわ。今度の休みにライブ行く約束だってしたし」
「へぇ。なんのライブ?」
「さぁね。なんか友達の彼氏のバンドだかなんだかの」
朝香と夢美はタイプが真逆だ。
夢美はおっとりしていると言われるが、朝香はサバサバして物怖じせず、メイクもバッチリ決めて髪色も明るい、所謂ギャル系だ。
恐らく友人も、同じような集団なのだろう。
「まぁ、私は出だし良好ってとこね。アンタはどうなの?連絡先交換した?」
「えぇ。まぁ、そこそこ」
「ふぅん。ちなみに何人?見せてよ」
「あっ、ちょっと」
良いとも悪いともいう前にスマホを取られてしまう。
朝香は画面を見ると、あからさまに表情を変えた。
「16人!?クラスの女子全員じゃない!あっ、しかもクラスグループ以外にもなんか入ってるし!」
「みんな社交的な人ばかりだったのよ」
それか転校生マジックだろう。
朝香にそんな理由が通じないのはわかっていたが、そう返すのが適切だろうと思った。
だがやはり信じるわけもなく、悔しげな表情を浮かべている。
「アンタって昔からコミュ力高かったじゃない。無駄な謙遜なんかはいらないわよ」
「そ、そう……ね」
確かに前の学校では常に輪の中心にいたし、そこそこ人望も厚かったかもしれない。
人見知りをする性格でもないし、ある程度のコミュニケーション能力も持っているつもりだ。
だがさすがに、自分でそう言うのは憚られたのだ。
「取り敢えずアンタも好調って事ね。男の方は大丈夫だったの?」
「えぇ。うちのクラスの男子って、みんな草食系みたい」
「そりゃ良かったわね。うちのクラスは面倒くさいのが多かったわよ。彼氏いるのかとか、どんなのがタイプだとか聞かれまくったわ」
「あら、モテモテじゃないの。自慢?」
朝香の表情から、それが自慢話ではないのはわかっていた。が、敢えてそう突っ込んでみる。
朝香は案の定「はぁ?」とぼやくと、こちらを睨みつけた。
「んなわけないでしょ。チャラい男ばっかで鬱陶しいって意味よ。わかんないの?」
「嘘。冗談よ」
朝香はこんな見た目とキャラなのに、好きなタイプは真逆だ。
今まで好きな人がいるという話は聞いたことはないが、言葉の端々からそんな気がしていた。
「でも今度の学校は共学なんだから。朝香は男子とも仲良くしなきゃね?」
そう言うと朝香は少し不貞腐れた様な表情で「わかってるわよ」と呟いた。