従姉弟のこと
「はぁ!?心理に彼氏ですって!?」
家に帰り、夕食を食べにきていた朝香に早速その話をすると、大きな声を上げた。
「うん。なんだか変な会話だなぁとは思っていたから聞いてみたんだけど。心理は否定していたけど、多分照れ隠しだと思う」
「あいつ、ついにそっちの道に──。で、相手は?」
「興味があるの?」
言葉とは裏腹に表情は嬉しそうだった。
それを指摘すると、朝香は小さく笑った。
「そりゃそうよ。だってアイツに彼氏よ?どんな奴か知りたいじゃないの」
こんな笑みを浮かべている時は、何かを企んでいるときだ。
朝香に話した事を後悔したが、仕方なく名前を口にする。
「西晃司って人。私のクラスメイトなんだけれど」
「西!?まさかあの西の事じゃないでしょうね」
「知っているの?」
西という苗字は、あの学校には1人しかいない。
朝香は大きく舌打ちをすると、物凄く不愉快そうな表情を浮かべた。
「どうしたのよ」
態度を面に出す性格ではあるが、名前を聞いただけでこんなリアクションをするなんて珍しい。
「西って私、嫌いなのよね。いかにも女と遊んでるって感じで、いけ好かないっていうか」
「まぁ、確かに派手ではあるわよね。っていうか、会った事あるの?」
2人とも今日転校してきたばかりだし、朝香に関してはクラスが違う。
それなのに、もう『嫌い』と言い切るだけの印象を持っていたのが不思議だった。
「会ったっていうか、アイツちょいちょいうちのクラスに来るのよね。うちのクラスの金髪のハゲと仲が良いみたいで。他の女ともイチャイチャしててムカつくのよ」
「………」
金髪のハゲというのはよくわからないが、朝香のクラスに友人がいるという意味だろう。
だが、帰りにしっかりと顔を見てみたが、あの容姿だ。
意外と人当たりも良いし、モテる部類だろうとは思った。
「でも、心理と3人で一緒に帰ったんだけど、そんなに悪い人じゃなかったわよ」
言葉を交わしたのは少ないが、何となく、人間的に問題がある様には感じなかった。
そして何より──。
「それにあの心理が仲良くしているんだもの。あの子、朝香以上に好き嫌いが激しいんだから」
心理は父親の血筋もあるが、どちらかと言えば母親似の女性的な顔立ちをしている。
小さい頃には自分達従姉妹を含めた女の子とばかり遊んでおり、思春期真っ盛りの中学の時は男に人気があった。
だが心理が可愛いのは見た目だけで、中身はれっきとした男だ。
人に求められているものが自分の本質と異なる事が不愉快らしく、妙に攻撃的で警戒心の強い性格になってしまった。
そんな心理が受け入れられた人なのだから、きっと良い人なのだろう。
夢美はそう考えているのだ。
しかし朝香は納得できないのか、小さく鼻で笑う。
「ふん。どうかしらね。アンタ達は昔から似ているから、好みだって似たんじゃないの?」
「そんな事無いわよ」
見た目的な意味で似ている事は否定しないが、好き嫌いまで同じというのは有り得ない。
実際の所、晃司の様なタイプは好きではない。
心理が選んだ人だからと好意的に見れる様になっただけだ。
「私だって初めは関わりたくないと思ったもの。朝香も話をしてみたら?きっと、あなたなら仲良くなれると思う」
「仲良くねぇ。まぁ、考えとくわ」
呟くと、どこか納得できない様子で呟いた。