行きつけ
「はぁ、食った食った」
数時間後。
店を出ると、いつの間にか外は真っ暗になっていた。
「腹一杯やぁ。せやけど自分、見かけによらずめっちゃ食うんやなぁ」
あの後夢美は、哲也が頼んだ お好み焼きと焼きそば、いか焼き、そして自分が頼んだ豚玉を全て半分こし、ビビンバも平らげた。
「だって美味しいお好み焼きだって言っていたから。お昼ご飯抜いたのよ」
「あ、そうなん?準備万端やったんなぁ」
あれから哲也は心を開いてくれたのか、最初の様な緊張した笑みではなく、にこにことリラックスをした笑顔を見せてくれる。それを見ていると、こっちまで楽しくなり、無意識に顔が綻んでしまう。
「腹は一杯やけど、帰る──にはまだ早いなぁ。どないしよか?」
「じゃあちょっと歩きましょう。ここら辺って、京極君の家の近くなの?」
「いや、家はもうちょい離れとるけど、地元の奴らと遊ぶ時はここら辺やね」
「なら、そのよく遊ぶ場所を案内して欲しいわ」
「え!?えぇけど……」
哲也は僅かに頬をひきつらせた後、少し考える素振りを見せた。が、すぐに思い直したらしく「こっち行こか」と言って歩き出す。
「こ、ここが地元の仲間とよく集まる場所なんやけど」
連れてこられたのは、お好み焼き屋から歩いて数分程先にある雑居ビルだった。
「ここには何があるの?ゲームセンターとか?」
とは言ったものの、建物の作りからゲーセンが入っている雰囲気はない。
並んでいるテナント看板に書かれているのは、マッサージ店にネイルサロン、それに質屋など、まさに雑居ビルだ。
どれもピンとこないなと思いながら眺めていると、5階にあるものを見つけた。
夢美がそれを口にする前に、哲也がおそるおそる言う。
「雀荘があんねん。──いや!賭けたりなんてしてへんよ!?こう、なんつーか頭の回転を良くするためにやってるだけやねん!」
そう言えば晃司が以前、アイツがよく行くのはバイクショップや雀荘だと言っていたのを思い出した。
未成年の雀荘の出入りは禁止されている。哲也の見た目では成人だと思われているのだろうが。
(本当に、素直に溜まり場に案内してくれたのね)
いくらでも嘘を吐く事はできるのに。
ぼんやりと雀荘の看板を見つめていると、哲也は妙に慌てた様子で声をあげた。
「雀荘ゆうても、今は年寄りがボケ防止に遊んどったり、健全な遊びなんやで!俺もばーさん達の相手とかしとるんや!」
「そうなんだ。優しいのね」
確かに哲也のキャラクターなら、お年寄り達に好かれそうだと思った。
哲也は小さく息を吐くと、申し訳なさそうに目を伏せる。
「すまんなぁ。夢美ちゃんは、麻雀なんか知らんもんな。俺、普段からロクな遊びしてへんから」
「そんな事ないわ。私も麻雀は好きよ」
そう言うと、哲也は「え!?」と目を丸くする。
「自分、麻雀やれるんか?」
「えぇ。私も心理もできるわ。お正月には家族とかとやることもあるし」
「ホンマ!?意外やったわぁ!そんなら今度一緒に雀荘──」
「雀荘はまだ入れないわよ」
「あっ!そ、そうやな」
哲也は良いかもしれないが、自分は間違いなく入店拒否されるだろう。
がっかりしている哲也の表情が可愛らしく見えて、小さく笑う。
「だから今度、家でやりましょう。私と心理と、京極君と晃司と。ね」
雀荘は違法だが、麻雀自体は禁止されていない。自宅の中で遊びとしてやるなら、誰に咎められる事もない。
哲也はぱっと顔をあげ、嬉しそうに笑う。
「せやな!約束やで?」
「うん」




