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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
転校初日
3/37

カップル


転校生というのは、それだけで注目の的になってしまう。


休み時間になったとたん、夢美の周りには沢山の女子生徒が集まっていた。


「苫記さんって京都から来たんでしょ?前はどこの学校だったの?」


「その髪型可愛いー。自分で巻いてるの?それともパーマ?」


「5組の転校生も苫記さんって苗字らしいけど、もしかして双子なの?」


「夢美ちゃんって、名前可愛いね。ぴったり」


僅か10分の時間で、これだけの質問を投げ掛けられた。


だが、もともと輪の中心に居慣れていた夢美は、笑顔で答えていく。


集まってきているのは女子生徒ばかりだ。


男子生徒は圧倒されているのか、幸いにも誰も輪に入ってこなかった。


朝香の様子は気になるが、恐らく上手くやっているだろう。


授業が始まり、集っていた生徒達は自席へと戻っていく。


少し話し疲れたなと思いながら何気なく視線を変えた瞬間、廊下側の西晃司と目が合ってしまった。


「!?」


やはり、見られていた。


慌てて目を反らし、窓を見る。窓が若干鏡の役割をしており、彼がまだこちらを見ているのが映っていた。


(あの人、どうして見てるのかしら。まさか、本当に知り合い?もしかして──世麗奈関係じゃ……)


あの女なら、ネットを通じて府外に知人がいてもおかしくはない。


だとしたらかなりまずい。


授業が始まっても気が気ではなく、夢美はできる限り右側を見ない様にしながら顔を強ばらせていた。


そしてその日の放課後。


幸い休み時間も昼休みも、女子生徒達がガードしてくれたため、西晃司に話しかけられる事はなかった。


帰りに遊びに行かないかと誘われたのだが、まだ引っ越しの荷解きが残っているからと断った。


取り敢えず今日はすぐに帰り、朝香に相談しなければ。


荷物をまとめ、立ち上がりかけた時だった。


「夢美ちゃん」


「!」


いつの間にか、真横に西晃司が立っていた。思わず悲鳴をあげそうになり、もう一度椅子に座ってしまった。


「な、なに?」


この手のタイプは、距離感が近い事が多い。


気付かれない様に椅子を引く。


「そんな怖がらないで欲しいんだけどなぁ。あのさ、夢美ちゃんの苗字って苫記だよな?」


「そう、だけれど………」


なぜフルネームを確認するのか。


嫌な汗が流れる。


助けを求めようかとも思ったが、何かされたわけではない。


ただ、横に立って話しかけられるだけだ。


ここでおかしな行動をとれば、騒ぎになってしまうかもしれない。


西晃司は訝し気な表情を浮かべると、全身を一瞥し、呟いた。


「違ってたらごめんな。もしかして夢美ちゃんって──」


「夢美!」


その時廊下から声が聞こえ、2人は揃ってそちらに視線をやる。


そこには少しだけ大きめの学ランを着た少年が立っており、目が合うと口端を上げて笑った。


「やっぱこのクラスだったんだ」


少年は我が物顔で教室に入ると、こちらにやって来た。


「あ、心ちゃーん。今日も可愛いー!」


クラスに残っていた女子生徒が黄色い声をあげる。少年はそれを忌々しそうに見ると、無視して近付いて来た。


「今日って真っ直ぐ帰んだろ?まだ道わかんねーよな?」


少年は見た目によらず乱暴な口調で言う。


彼の名前は苫記心理とまきしんり


1学年下の夢美の従姉弟だ。


「迎えに来てくれたの?ありがとう」


思わぬ所での身内の登場に、ほっと安堵する。


そのやり取りを見ていた西晃司は、キョトンとした表情を浮かべている。


「やっぱこの子、心理の姉ちゃんだったのか」


目を丸くしこちらを凝視した。


「はぁ?ちげーよ。オレに兄弟いねーの知らねぇの?従姉弟だよ」


心理はどこか怒った様な口調で呟いた。


しかし晃司は気分を害する様子もなく、寧ろ嬉しそうに笑った。


「いや、お前に兄弟いないのは知ってたけどさ。見た目も似てるし苗字も同じだし、姉ちゃんなのかって思っただけだって」


この会話を聞いていれば、いくら事情がわからない夢美も気付いた。


「2人とも知り合いなの?」


「あぁ、そうなんだよ。俺、剣道部主将の西晃司。よろしく」


「剣道部……」


その言葉で思い出した。確か心理に、最近変な先輩に無理矢理勧誘されて剣道部に入部したと聞いていた事を。


「なんだ。じゃあ西君は心理の部活の先輩だったのね」


それなら全て説明がつく。


妙に見られていたのは、心理に似ていると思われていたから。


苗字を確認されたのは、身内であると確認するためだ。


従姉弟の心理とは、まるで本当の姉弟の様だと昔から言われてきた。


その為、心理の友人に実の姉だと思われた事も少なくない。


「オレもまさかとは思ったよ。よりによって、晃司と同じクラスなんてさ」


「俺も。教室入ったら、お前に似ためっちゃ可愛い子が立ってたからさ。一瞬、お前が女装して俺のクラスに来たのかと思ってさぁ」


「はァ?何キモイ事言ってんだよ。つーか、お前まさか、夢がタイプだとか言うんじゃねぇだろうな」


心理は不愉快そうな表情を浮かべて問う。


晃司は声を上げて笑うと、心理の頭をごく自然に撫でた。


「なんだお前、妬いてんの?安心しろよ。俺は心理一筋だから」


「はぁ?バカな事言ってんな!!」


「?」


そのやりとりを見て、夢美は複雑な心境を抱いた。


心理は昔から、女ではなく男によくモテていたのは知っている。


母親がハーフで、心理自身にもその血が流れている、いわゆるクォーターだ。


その為、見た目に限っては幼少期から可愛らしく、色々と大変な目にあってきた。


だが、もしかするとこのやりとりは──。


「あの、間違っていたらごめんなさい。もしかしてあなた達はその、付き合っているの?」


「そんなわけねぇだろ!」


「そうなんだ」


2人の異なる回答が重なった。


リアクション的に、恐らく晃司が口にした肯定が正しいのだろうと思った。


つまりこの西晃司は、自分の従姉弟の彼氏ということになる。


なるほど。それなら心理のおかしなリアクションも言動も納得できる。


目の前で痴話喧嘩をしているカップルを見ながら、夢美はとても複雑な気持ちになった。



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