表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
進路指導合宿
26/37

決めたこと


「ほら。取り敢えず落ち着きなさい」


朝香は自販機で水を買うと、ベンチに座り込む夢美の手に持たせた。


「ありがとう」


キャップを開けて冷たい水を飲み込むと、少しだけ気分がマシになった。


「西とアンタを見てた時、ヤバイなとは思ったのよね。こうなる気がしてたのよ」


どうやら朝香は、もっと前からこの可能性を危惧していたらしい。


何も言い返す事ができず、黙って水を飲む。


「で、どーすんのよ?身内並みにアレルギー反応が出ない男は初めてよね?そのまま心理から奪うも良し、すっぱり諦めるも良しだけど」


「し、心理から奪うなんて、できるはずないでしょ!」


予想外のアドバイスにぎょっとした。


朝香ならきっと、身内の恋人に手を出すなんて──と怒り出すと思っていたのだ。


「あら、なんでそう決めつけるのよ。心理と晃司はただの恋人同士でしょ?だから別れたとしても、誰と付き合ったとしても自由なわけ。アンタが本気で西の事が好きで付き合いたいと思ってるなら、私はそれを応援するわよ」


一瞬、朝香が応援してくれるなら心強いとも思ってしまった。が、やはりそれは夢美自身のモラルに反する。


「だって晃司は、心理の事が好きなのよ。それなのに私なんかが……」


「だからそれは今の話でしょ?アンタが西に告白したら変わるかもしれないじゃない」


「そ、そんな事──」


どうにも気持ちがまとまらずにうじうじしてしまう。


晃司の事は好きだし、付き合えたら幸せだろうなとは思う。だけど、人の幸せを壊してまでそうしたいかと言われると、断言はできない。


「晃司の事は好きよ。彼氏だったら良いのになとは思うわ。でもやっぱり──」


「あぁ、デモデモダッテうるさいわね!」


そう叫ぶと、朝香は至近距離で夢美を睨んだ。


「アンタ女々しいわよ」


「め、女々しい……?」


まるで男にする説教の様なフレーズだ。


女なのだから女々しくても良いだろうと返しそうになった。


「私はアンタの本音を聞いてんのよ。心理から奪ってでも西を自分のものにしたいの?それとも身内の恋人を奪う真似はできないの?アンタの中にも譲れないポリシーはあるわよね?それは何なの?」


「私のポリシー……」


その時ふと、以前心理に言われた言葉を思い出した。


『あぁ、そう。じゃあ止めといた方が良いんじゃねーの?そんなんじゃ多分、楽しくないだろ』


あれは晃司とバイクのツーリングに行っても良いかと聞いた時だ。


心理は良いと言ったのに、どうしても罪悪感と引け目から、はっきりとした答えを出せなかった。


もしもこのまま自分の気持ちを優先しても、必ず罪悪感はついて回る。


もしも晃司が心理と別れ、自分と付き合ったとしても──。


「自分の幸せの為に人を不幸にはしたくない。それなら、人の幸せの為に自分が不幸になる方がよっぽどマシ」


それが自己満足でも自己犠牲であっても構わない。


後味の悪い幸せより、気持ちの良い不幸をとる方が何倍も良い。


それが正しいのか間違っているのかはわからないが、自分はそういう人間なのだ。


「まぁ、アンタは昔からそうよね。だったら答えは出たでしょ。西はアンタが心理の従姉弟だから親切にしてるだけよ。あとはフェミニストだからかもね。アンタに対して特別な感情なんかないんだから、いちいちときめいたりするだけ無駄。ときめきたいなら、少女漫画でも読んでた方がコスパ良いわよ」


「そうねぇ」


ズケズケと容赦なく現実を叩きつける言葉に、思わず苦笑いを浮かべる。


晃司は自分に恋愛感情なんてない。


今なら自分へ思い込ませる為ではなく、本心からそう思える。


だからその言動に一喜一憂する必要もないし、そもそも無意味なのだ。


そもそもそれに友人以上の好意があるのは、夢美自身が嫌なのだ。


「ありがとう朝香。なんか吹っ切れた気がする」



「それは良かった。だけど、珍しいわよね。アンタが優柔不断になるなんて。本当に、恋って厄介よねぇ」


呟くと、朝香は遠くを見つめる。


話をしているうちに花火は終わりの時間になったらしく、フィナーレの打ち上げ花火が空に咲いていた。


「あーあ。私も彼氏と花火見たかったなぁ」


「私もよ。まぁ、見てなさい。そのうちイケメンで金持ちの彼氏を見つけてやるんだから」


「イケメン彼氏ねぇ。まぁ、今のアンタならきっと、上手くやれるんでしょうね」


ぼやくと、2人は仲良く寄り添いながら花火を見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ