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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
進路指導合宿
25/37

花火大会


「あ、夢美ちゃん。晃司。こっちこっち」


広場ではすでに皆集まっており、代表達は打ち上げ花火の近くに固まっていた。


手招きをされ、晃司を見ない様にしながら駆け寄る。


「遅くなってごめんなさい」


「大丈夫。取り敢えず今点呼取ってるから、みんな集まっていたら始めようね。あ、挨拶なんだけど時間押しちゃったから、全員は無理かなって話になったの。1組の2人にお願いしたいんだけど、良いかな?」


1組の2人とは、勿論夢美と晃司の事だ。


普段なら、勿論やると承諾していただろう。


だが今は、そんな気にはなれなかった。


「あぁ、俺は別に──」


「ごめんなさい。私、ちょっと気分が良くなくて。他の人にお願いしてもいい?」


「え?大丈夫なの?」


言いながら、朝香は晃司を睨んだ。


恐らく、晃司が関係していると思ったのだろう。


「大丈夫よ。少し休めば平気だと思うから。朝香、代わりにお願いしても良い?」


「そりゃ良いけど。ほら、行くわよ。西」


戸惑う晃司を引っ張って行くと、オープニングセレモニーを始める。


「夢美ちゃん大丈夫?」


「あっちで休んでいたら?」


「ありがとう」


他の代表の女子生徒に付き添われ、少し離れた場所にある椅子に腰掛ける。


(今の不自然だったかな。でも、こんな状態じゃ晃司と一緒にいるなんて無理。どうしよう。やっぱり、朝香に相談しようかな)


朝香も自分と同じく、恋愛経験はないはずだ。が、初めから無理だと興味を持たなかった自分よりも、知識はあるかもしれない。


それに朝香には、既に気付かれている。


このまま誤魔化し、隠し通せるものでもないだろう。


地面を見つめながら、その事ばかりを考えていた。


その為、朝香達の挨拶が終わった事にも全く気付かなかった。


突然大きな音が響き渡り、驚いて顔を上げる。


目の前には7色に輝く大きな花火が打ち上げられており、思わず見入ってしまった。


(綺麗……)


ふと周りを見ると、カップルと思われる男女が仲良さげに並び、花火を見て笑顔を浮かべている。


いつもは何とも思わないのに、今は幸せそうなカップルを見ていると、無性に悲しくなった。


もしもここに心理がいたら、晃司は一緒に花火を見て、楽しそうに笑顔を浮かべるんだろうか。


ここにいるのが自分ではなく、心理だったら──。


「っ──」


自分の感情がちぐはぐ過ぎて嫌になる。


どうしても居たたまれなくなり、その場から離れて管理棟へと向かう。


(こんな気持ちになるのが恋なんて知らなかった。こんなの、私には堪えられない)


それが自分の体質のせいなのか、それとも恋人がいる人を好きになったからなのかはわからない。


取り敢えず今は誰とも話したくないし、静かな場所に1人でいたいと思った。


管理棟の前にあるベンチに座ると、遠くではしゃいでいる生徒達の声と、キラキラと輝く花火の光を見つめる。


するとふと、暗闇から誰かがこちらへやって来るのが見えた。


外灯が少ない為、誰なのかわからない。


ぼんやりと見ていると、それが晃司だとわかり、思わず立ち上がる。


(な、なんで晃司が!逃げなきゃっ)


駆け出そうと背を向けた瞬間、晃司は大きな声を上げた。


「夢美!待ってくれっ」


それを無視するわけにもいかず、足を止める。


晃司はこちらへ駆け寄ると、僅かに息を切らせた。


「急に、どうしたんだ?花火見ないのか?」


「ちょっと気分が良くなくて。私の事は気にしないで」


どうかこのまま戻って欲しいと願うが、晃司はその場から動かない。


今気にかけられるのは苦痛でしかない。はずなのに、嬉しいと思っている自分もいる。


「気分が悪いのに、そんなわけにいくかよ。まさか俺が髪に触ったから、アレルギーが──」


「そうじゃないの。本当に、それは関係ないから」


晃司は自分を気にかけてくれた。苦痛のはずなのに、嬉しい。


もしかしたら晃司も自分の事を──なんて期待している。


その感情がたまらなく嫌でもある。


「具合が悪いならちゃんと休んだ方が良いって。コテージまで送るから」


「本当に大丈夫だから。だから放っておいて!」


自分に苛立ってしまい、ついつい大きな声を上げてしまった。


晃司は暫く黙って立ち尽くしていたが、不意に「わかった」と呟いて戻って行った。


晃司が立ち去り、その場にしゃがみこむ。


せっかく心配してくれたのに、突き放してしまった罪悪感。そして安堵感。


(頭の中がぐちゃぐちゃする。もう!気持ち悪い……)


どうするのが正解なのかわからない。


頭を抱えていると、再び足音が近づいてきた。


「夢美。アンタ何やってんのよ」


振り向くと、眉を寄せた朝香が立っていた。


朝香なら、この感情の整理をつけてくれるかもしれない。


「朝香っ……」


抱き付くと、朝香は特に驚く事もなく、背中を撫でてくれた。


「こんな場所に1人で何してんの?」


「私、わからないのよ。すごく、頭がぐちゃぐちゃになっちゃって……。どうすれば良いかわからない」


「どうすればって何が?」


「私……私、晃司の事を好きになっちゃったみたいなの!どうしよう朝香っ」


半泣きになりながら言うと、朝香は眉を寄せたまま、深いため息を吐いた。

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