好きになったかも
食事の後はクラス毎に近くの温泉に入り、最後は花火で締め括られる。
夢美達代表は皆の後片付けを手伝い、綺麗に整えたのをチェックしてからの為、必然的に一番最後になる。
「よし。取り敢えずこんなもんかな。ありがとうな。俺らの所の片付けも手伝ってくれて」
晃司は分別したゴミ袋を縛りながら笑みを浮かべる。
「良いのよ。気にしないで。後はそのゴミを捨てたらおしまいかしら」
「あぁ。でも後は俺がやっとくよ。夢美は先に風呂に行った方が良いぞ」
「こんなにたくさん、1人じゃ無理でしょう?」
何せ1クラス分のゴミだ。
分別も細かく、生ゴミ・資源ゴミ・雑紙・燃えるゴミ・燃やせないゴミ・ビン缶・ペットボトルと、ざっと7種類もある。
「こんくらい平気だって。早く風呂入らないと、花火に間に合わなくなるからさ」
「でも──」
「あー、いたいた。夢美」
戸惑っていると、片付けを終えたらしい朝香が、着替えを持ってやって来た。
「風呂行きましょうよ」
「朝香の所はもう終わったの?」
「まぁね。後はゴミ捨てだけど、あんなん男の仕事でしょ」
どうやら朝香は、木村一春に押し付けて来たらしい。
「ぶっちゃけ朝香の言うとおり、力仕事は男に任せておけば良いんだよ。ほら、夢美も早く行けって。俺は友達が手伝ってくれるからさ」
「う、うん。じゃあ遠慮なく。ありがとう」
足早にコテージに戻ると、着替えの入ったバックを持って朝香と一緒に風呂へ向かう。
「西って意外と良い奴みたいね」
歩きながら、朝香がポツリと呟いた。
「だから、前から言ってるじゃない。晃司は朝香が思ってる様な人じゃないのよ。すごく優しい人なんだから」
すると朝香はピクリと反応し、眉を寄せて詰め寄ってきた。
「『晃司』?いつの間に呼び捨てになってんのよ」
「こ、晃司がその方が良いって言うから」
これだって別に深い理由はない。
晃司が苗字で呼ばれるのは慣れないと言ったから、それに合わせただけだ。
だが朝香はそう捉えていないらしい。
「本当に大丈夫なんでしょうね?アイツは心理の彼氏!ゲイなのよ?それなのに手を出したりしたら──」
「そんな事しない!」
なんだか後ろめたい事を批難された気分になり、思わずカッとなってしまった。
朝香は目を丸くすると、僅かに距離をとった。
「わ、私が男の子を好きになるはずがないじゃない。絶対に付き合えないんだから」
「……」
しかし朝香は訝し気な表情でこちらを見つめたまま黙っている。
その目が、見透かされている様で居たたまれない。
「早く行きましょう。花火に遅れるわよ」
目を合わせない様に言うと、小走りで施設へと向かった。
温泉に入っている最中も帰りも、朝香は一切話を振り返さなかった。
長い付き合いだ。
きっと、色々察しているのかもしれない。
コテージに戻ると、既に準備を終えた友人達が待っていてくれた。
「あ、やっと来た。早く広場に行きましょ」
「晃司も待ってるわよ。代表の挨拶あるんでしょう?」
「えぇ」
花火大会は合宿のフィナーレを飾るもので、クラスの代表が順番にオープニングセレモニーとして挨拶し、大きな打ち上げ花火をする。
それが終われば、用意した手持ち花火を皆でやるのだ。
「あ、夢美。風呂、ちゃんと入れたか?」
コテージを出ると、花火を持った晃司が待っていた。
恐らく風呂上がりにそのまま来たのだろう。
髪が濡れており、違う雰囲気にどきりとしてしまった。
「う、うん。晃司もお風呂間に合ったみたいね」
「あぁ。ぱぱっと入ってきた。夢美は大丈夫か?髪とか濡れてたら風邪引くぞ」
ごく自然に髪に触れられ、過剰に反応してしまった。
勢い良く距離を取ると、晃司はハッとした様な表情を浮かべた。
「あ、ごめん。つい心理にする感じで……。大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」
やはり、この距離感は中々に辛い。
晃司と付き合いたいとか、心理から奪いたいなんて思ってはいない。
だけど、好きじゃないというのは嘘だ。
(どうしよう。私──私、晃司の事が好きなんだ。好きになっちゃったんだ)
でなきゃ気遣いの言葉に喜んだり、心理の話をされる度に傷付くはずがない。
(人を好きになったことなんてなかったからわからない。どうすれば収まるのか全然わからない)
俯きながら考え込んでいると、晃司が心配そうに呟いた。
「本当に、大丈夫か?まさかアレルギー反応が……」
「ち、違うの。本当に大丈夫よ。心配しないで」
取り敢えず今は、晃司に気づかれてはいけない。
勿論、心理にも気づかれるわけにはいかない。
無意識に晃司から逃げるように、足早に広場へと向かった。




