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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
進路指導合宿
24/37

好きになったかも

食事の後はクラス毎に近くの温泉に入り、最後は花火で締め括られる。


夢美達代表は皆の後片付けを手伝い、綺麗に整えたのをチェックしてからの為、必然的に一番最後になる。


「よし。取り敢えずこんなもんかな。ありがとうな。俺らの所の片付けも手伝ってくれて」


晃司は分別したゴミ袋を縛りながら笑みを浮かべる。


「良いのよ。気にしないで。後はそのゴミを捨てたらおしまいかしら」


「あぁ。でも後は俺がやっとくよ。夢美は先に風呂に行った方が良いぞ」


「こんなにたくさん、1人じゃ無理でしょう?」


何せ1クラス分のゴミだ。


分別も細かく、生ゴミ・資源ゴミ・雑紙・燃えるゴミ・燃やせないゴミ・ビン缶・ペットボトルと、ざっと7種類もある。


「こんくらい平気だって。早く風呂入らないと、花火に間に合わなくなるからさ」


「でも──」


「あー、いたいた。夢美」


戸惑っていると、片付けを終えたらしい朝香が、着替えを持ってやって来た。


「風呂行きましょうよ」


「朝香の所はもう終わったの?」


「まぁね。後はゴミ捨てだけど、あんなん男の仕事でしょ」


どうやら朝香は、木村一春に押し付けて来たらしい。


「ぶっちゃけ朝香の言うとおり、力仕事は男に任せておけば良いんだよ。ほら、夢美も早く行けって。俺は友達が手伝ってくれるからさ」


「う、うん。じゃあ遠慮なく。ありがとう」


足早にコテージに戻ると、着替えの入ったバックを持って朝香と一緒に風呂へ向かう。


「西って意外と良い奴みたいね」


歩きながら、朝香がポツリと呟いた。


「だから、前から言ってるじゃない。晃司は朝香が思ってる様な人じゃないのよ。すごく優しい人なんだから」


すると朝香はピクリと反応し、眉を寄せて詰め寄ってきた。


「『晃司』?いつの間に呼び捨てになってんのよ」


「こ、晃司がその方が良いって言うから」


これだって別に深い理由はない。


晃司が苗字で呼ばれるのは慣れないと言ったから、それに合わせただけだ。


だが朝香はそう捉えていないらしい。


「本当に大丈夫なんでしょうね?アイツは心理の彼氏!ゲイなのよ?それなのに手を出したりしたら──」


「そんな事しない!」


なんだか後ろめたい事を批難された気分になり、思わずカッとなってしまった。


朝香は目を丸くすると、僅かに距離をとった。


「わ、私が男の子を好きになるはずがないじゃない。絶対に付き合えないんだから」


「……」


しかし朝香は訝し気な表情でこちらを見つめたまま黙っている。


その目が、見透かされている様で居たたまれない。


「早く行きましょう。花火に遅れるわよ」


目を合わせない様に言うと、小走りで施設へと向かった。


温泉に入っている最中も帰りも、朝香は一切話を振り返さなかった。


長い付き合いだ。


きっと、色々察しているのかもしれない。


コテージに戻ると、既に準備を終えた友人達が待っていてくれた。


「あ、やっと来た。早く広場に行きましょ」


「晃司も待ってるわよ。代表の挨拶あるんでしょう?」


「えぇ」


花火大会は合宿のフィナーレを飾るもので、クラスの代表が順番にオープニングセレモニーとして挨拶し、大きな打ち上げ花火をする。


それが終われば、用意した手持ち花火を皆でやるのだ。


「あ、夢美。風呂、ちゃんと入れたか?」


コテージを出ると、花火を持った晃司が待っていた。


恐らく風呂上がりにそのまま来たのだろう。


髪が濡れており、違う雰囲気にどきりとしてしまった。


「う、うん。晃司もお風呂間に合ったみたいね」


「あぁ。ぱぱっと入ってきた。夢美は大丈夫か?髪とか濡れてたら風邪引くぞ」


ごく自然に髪に触れられ、過剰に反応してしまった。


勢い良く距離を取ると、晃司はハッとした様な表情を浮かべた。


「あ、ごめん。つい心理にする感じで……。大丈夫か?」


「だ、大丈夫。ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」


やはり、この距離感は中々に辛い。


晃司と付き合いたいとか、心理から奪いたいなんて思ってはいない。


だけど、好きじゃないというのは嘘だ。


(どうしよう。私──私、晃司の事が好きなんだ。好きになっちゃったんだ)


でなきゃ気遣いの言葉に喜んだり、心理の話をされる度に傷付くはずがない。


(人を好きになったことなんてなかったからわからない。どうすれば収まるのか全然わからない)


俯きながら考え込んでいると、晃司が心配そうに呟いた。


「本当に、大丈夫か?まさかアレルギー反応が……」


「ち、違うの。本当に大丈夫よ。心配しないで」


取り敢えず今は、晃司に気づかれてはいけない。


勿論、心理にも気づかれるわけにはいかない。


無意識に晃司から逃げるように、足早に広場へと向かった。



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