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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
進路指導合宿
22/37

気遣い


晃司達のコテージは、1つ下の道沿いにあった。


チャイムを鳴らすと、まだ名前も知らないクラスメイトの男子がドアを開けて招き入れてくれた。


「お邪魔しまーす。へぇ、こっちはこんな感じなんだ」


「やっぱりちょっと狭いね」


友人達は口々に言いながら室内へ入っていく。


仕方なく夢美もそれに続くと、出迎えた晃司が目を丸くした。


「おい、大丈夫なのか?こんな所に……」


「うん。断れなくて。多分、大丈夫よ」


すれ違い様に小声で会話すると、なるべく目立たない様に友人達の後ろに下がる。


晃司達のコテージは8人タイプらしい。


何人かは別の所に行っているのか、中には5人しかいなかった。


「はい、これ。お土産」


香澄がお菓子とジュースを差し出すと、男子は嬉しそうに受け取った。


「サンキュー。じゃあ取り敢えずトランプでもするか?」


「その前に簡単に自己紹介した方が良いんじゃないか?な、苫記さん」


「えっ?」


いきなり話を振られ、顔を上げる。


「夢美はまだ、男子としゃべってないでしょ?多分、まだ晃司以外は、名前知らないんじゃない?」


改めて言われると、確かに晃司以外の男子生徒は、まだ名前と顔が一致していない。


さすがにクラスメイトでそれは失礼だろう。


「そ、そうね。名前、教えて貰えると嬉しいな」


敢えて男子に対して少し遠い場所に腰を下ろす。


「じゃあ俺から。西原直幸」


「俺は岸本一也。よろしく」


「細ノ江春隆ほそのえはるかた


3人は良くも悪くも普通の見た目で、なかなか印象に残りにくい。


正直、次に教室で会っても覚えていられる自信はなかった。


「なんだよお前等、つまんねー自己紹介だなぁ。こーゆー時はちゃんと自分をアピールしないとさぁ。オレは小笠原友則!ちなみに彼女募集中!好きなタイプは女の子らしい可愛い子!」


満面の笑みで言い放ったのは、茶髪の生徒だった。 確か、晃司と仲良く話しているのを見かけた事がある気がする。


「みんな、ありがとう。私、人の名前覚えるの苦手で……。間違えちゃったらごめんなさい」


興味もないし関わり合う予定もないから覚える気もないとは言えず、曖昧に誤魔化す。


「友則さぁ、相変わらず手当たり次第だな。お前、1年の時の自己紹介でも同じ事言ってたじゃんか」


晃司が苦笑いを浮かべながらぼやく。


どうやらこの自己紹介内容は、彼のなかでは鉄板らしい。


「自己紹介にバリエーションなんかいらないだろ。苫記さんは彼氏いる?どんなんがタイプ?」


「か、彼氏はいないわ。タイプは、えーっと……優しくて静かな人かな?」


この友則という人は、夢美の苦手な分野だ。


俗に言う、距離感の近すぎる人。


それに──。


(この人はちょっと無理みたい。気持ち悪い)


生理的な意味ではなく、アレルギー反応が出てしまった。


男性化粧品を多用しているのか、それともホルモン的な問題か。


性格は嫌いではないが、出来れば関わりたくない。


しかし当の友則は全く気付いておらず、晃司の肩を組む。


「ほら、お前も自己紹介しろよ」


「は?なんでだよ。俺はもう夢美と友達だぞ」


「そーゆー問題じゃないだろ。形式だよ、形式!」


「はぁ」


面倒臭そうに溜め息を吐くと、ぽつりと「西晃司」と呟く。


すかさず友則が「好きなタイプも!」と茶々を入れた。


「好きなタイプって言われてもな。あー……ツンデレ美人」


どうやら晃司は、心理のことをそう思っているらしい。


そう考えると、ちょっと笑えた。


「自己紹介も終わったしトランプやろうぜ。夢美はほら、こっち座れよ」


晃司が指差したのは入り口のすぐ近くだった。


素直にそこに座ると、当然の様に晃司が隣に座る。


「気分悪くなったら、すぐに帰った方が良いぞ。無理するなよ?」


「あ、ありがとう」


これはただの、友人としての気遣いだ。


わかっているのに、妙にドキドキしてしまう。


(晃司は本当に優しい人なのね。良いな……心理)


トランプをしながら、ずっとその事を考えていた。


他に、晃司みたいな人がいれば良いのに。


本当に晃司はゲイなんだろうか。


もしも自分が、最初から同じ学校で心理より先に出会っていたとしても、心理には敵わなかったのだろうか。


見た目がタイプなら、きっと自分だって──。


(な、なに考えてるんだろ。そんなのあり得ない。絶対あり得ないんだから、バカな事考えちゃダメ!)


慌てて首を振ると、目の前のトランプにひたすら集中した。



「じゃあまた後でね!」


自由時間が終わり、各自割り当てられた炊事場で夕食を作る時間になった。


(良かった。意外と楽しかったし、共学もあまり悪くはないかもしれない)


心配していた事は一切なく、トランプなどのカードゲームに興じていただけだった。


高3にもなれば、男女の関係が目立つと案じていたが、このクラスはみんな健全らしい。


上機嫌で歩いていると、隣を歩いていた香澄が呟く。


「ねぇ、夢美」


「なに?」


「もしかして、晃司と付き合ってない?」


「え!?」


思わず声を上げてしまった。


そんな事はあり得ないし、そんな素振りを見せた事だってない。


だが、そう思っていたのは香澄だけではなかったらしい。


「やっぱりそうだよね?私もそう思ってたのよー。別に隠さなくたって良いじゃない。うちら別に晃司の事が好きとはないし」


「他のクラスにはまぁ、狙ってるのはちらほらいるっぽいけど。でも彼女できたなら潔く諦めると思うし」


「ち、違うわ!絶対にあり得ないから!」


まさかみんなに、そんな事を思われていたなんて。


「第一、晃司には彼女がいるって言っていたじゃない。ほら、他の学校に!」


つい先程、バスの中で聞いたばかりの話だ。


しかし皆はどこか腑に落ちない表情を浮かべている。


「まぁ、言っていたけど……。あれって夢美の事なんじゃないの?」


「今までは彼女を隠したりなんてしてなかったもんね。学祭にも堂々と呼んでイチャついてたし。だから変だなーって思ったのよ」


「えっ。今まで彼女がいた事があるの?」


晃司はゲイだとばかり思っていたため、元カノがいたというのは予想外だった。


「あるよー。1年の時は同じクラスの子何人かと付き合ってたし。2年の時は先輩だったかな?まぁ、卒業して自然消滅だったみたいだけど……本当に付き合ってないの?」


「本当よ。前にも言ったけど、私が心理の従姉弟だから気にかけてくれているだけ。────そっか。彼女いたんだ」


つまり晃司は、完全なゲイではないという事だ。


恐らく、男女どちらでも恋愛対象に見られるタイプなのだろう。


(それじゃあまだ、私にもチャンスはあるってこと?もしも心理と別れたら……)


無意識にそんなことを考えてしまい、自分の思考が怖くなった。


仮にも身内で、自分の弟の様な存在の人の彼氏を狙うなんて。


例え別れたとしても、絶対にしてはいけないことだ。


「夢美と晃司って、結構お似合いだと思うんだけどなぁ。晃司は夢美を気にしてるんじゃない?」


「そうそう。結構気になってると思う。苫記君の従姉妹だからって理由だけじゃない気がするなぁ」


晃司が恋人として大切に思っているのは心理だけだ。


それは日々の言動からわかっているし、だからこそあの一件も、自分に相談してきたのだ。


だが晃司がゲイ──否、バイだと知らないクラスメイトは、口々に夢美とのことを口にする。


「本当に、違うから。変な噂流さないでね?」


こんな話を、もしも心理に聞かれたら。


クラスメイト達は渋々納得したらしく、以降は誰もこの話に触れる事はなくなった。


(そっか。共学だとこんな噂をされることもあるのね。ちょっと厄介かも)


今まで女子校だった為知らなかった。


男女が仲良くしていると、すぐに恋愛を絡めた噂をされてしまうのだ。


(変な噂が立ったら晃司にも心理にも悪いから……。ちょっと距離をおいた方が良いかな)


今までは晃司の優しさに甘えすぎていたのかもしれない。


色々助けて貰い、気にかけて貰えるのは嬉しいし感謝もしている。


だが、付き合っていない男女でその様なことをするのは良くないのだ。


(合宿が終わったら、ちょっと距離をおこう)


小さく溜め息を吐くと、無意識に晃司達のコテージを振り返った。

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