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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
進路指導合宿
21/37

理解


窓際に並んで寄りかかりながら、夢美は自分の体質の事を一通り説明した。


晃司は、初めは驚愕の表情を浮かべていたが、話を聞いているうちに信じてくれたらしく、神妙な表情で謝った。


「そっか。そんなアレルギー持っていたんだな。そりゃ確かに、男のコテージには来れないよな。ごめん」


「ううん。私ももっと早く伝えられたら良かったんだけど」


タイミングがなかったのももちろんだが、晃司は比較的アレルギー症状が軽かった為、その必要性も感じていなかった。


その為、ついつい先伸ばしにしてしまっていたのだ。


「ごめんなさい。西君はアレルギー症状が軽かったから、今まで言いそびれちゃって」


「やっぱり個人差ってあるんだな。良かったよ。俺はアレルギーでにくい奴でさ。でなきゃこうやって、夢美と一緒にもいられないもんな」


その言葉に、またドキドキしてしまう。


深い意味はない。


一緒に代表をやっているんだし、晃司とは恐らく今後も付き合いは続くだろう。


アレルギー症状が出るよりは、でにくい方が良いに決まっている。


それだけの意味なのだ。


「そ、そうね。症状は、本当に個人差があるの。あと、身内は比較的大丈夫だし──。西君はどうしてなんだろうね。ホルモンもあるとは思うけど……男性化粧品とかも、あまり使ってないからかもしれないわね」


「まぁ、確かに俺は化粧水くらいは使うけど、あとはあまり使ってないかもな。ワックスとかも髪が痛むし。こんな色で何言ってんだって感じだけど」


「そうね」


この髪色は、初対面で中々衝撃的だった。


見た目も服装も派手なのに、アレルギー症状が軽いのが不思議だ。


「じゃあ、そろそろ戻るか。ありがとうな、大事なこと話してくれてさ。俺も、夢美に症状が出ないように気を付けるよ」


「ありがとう」


今までずっと、晃司には話さなければならないと思っていた為、このタイミングで伝える事ができて良かった。


取り敢えず後片付けは終えた為、それぞれコテージに戻る為に管理棟から出る。


「そう言えば」


「なに?」


「俺の呼び方なんだけど、晃司じゃダメか?なんか、西君って言われるのは慣れなくてさ」


確かに、今まで見てきた限りでは、晃司を苗字で呼ぶ人はいない。


心理の手前、あまり馴れ馴れしくしないようにしようと苗字呼びにしていたのだが、当の晃司がそう言うのなら──。


「わかったわ。じゃあ晃司って呼ばせてもらうわね」


「あぁ。その方が友達っぽいしな」


「……そうね」


呟くと同時に、何故か心が痛んだ気がした。



コテージに戻ると、すでに友人達はこのあとの夕食の下拵えを始めていた。


メニューがメニューな為、少し早めに取りかかっているらしい。


「あ、おかえり!見てみて、パエリアの材料。美味しそうじゃない?」


皿の上には、盛り付け前のシーフードが山盛りになっている。


担当の生徒が、予めちょうど良いサイズに切り分けて持ってきたのだ。


「わぁ、本当ね。海老にホタテに……ムール貝まであるなんて本格的」


ちょっとお洒落なキャンプ料理にするくらいのつもりだったため、予想外の豪華さに目を丸くする。


「せっかくやるんだから本格的にね!ご飯も鍋もばっちりだし、スープも持ってきてるから」


2リットルペットボトルいっぱいの味付け用のスープを見せる。


「チーズフォンデュは、最後のシメでいいよね?バケットとか野菜は後で切っても大丈夫?」


「うん。それは作る直前にやりましょう。今切っちゃうと、傷んじゃうかもしれないから」


いつの間にか、全ての事柄が夢美中心に動いている。


それは多分、クラス代表だからではない。


夢美自身の人間性やオーラだ。


(目立たない様にするつもりだったけれど……この方が私にあっているのかもしれない)


今まで築き上げた信用も、人間関係も全て否定され、崩された。


だからこそ、今回は以前とは違う自分になろうとした。


だが、結局性分は変わらない。


そして皆もそれを受け入れてくれるなら。


また、同じ自分でいても良いのかもしれない。


そんな気持ちになるのだ。


楽し気に下準備をしている友人達を眺めていると、不意に1人がお菓子を持って立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ行こうか!」


「え?どこに?」


化粧を直し、どことなく気合いが入っている友人達に呟く。


「どこって、男子達のコテージに決まってるじゃない。晃司に誘われたでしょ?」


「私達は桧山君たちの所に行くんだ。後で報告会しよーね!」


いつの間にかメンバーは5・5に分かれていた。


確かにあの時、晃司には誘われた。だけど──。


「ほら、夢も行こう。男子とも仲良くなれるチャンスなんだから!」


「え、えぇ……」


彼女達には、まだ自分の体質については話していない。


そもそも、話すつもりもない。


理解されにくい体質だし、そのせいで変に気を使われたり、詮索されるのが嫌だからだ。


今のところ、この事を知っているのは身内だけで、他人は相模鏡と晃司だけだ。


(まさかみんな、男子の所に行くつもりだったなんて。気を付けなくちゃ)


もしミスをして、皆の前でアレルギー反応が出てしまえば、なかなか厄介な事になる。


自分はあくまでも付き合いという事にして、極力男子とは関わらない様にしよう。


(晃司に先に話しておいて良かったわ)


取り敢えず、向こうには事情を知っている人がいるというのは頼もしい。


浮き足だっている友人達と共に、男子のコテージへと向かった。



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