秘密の打ち明け
各自荷物を置くと、配られた昼食を食べ、管理棟にある多目的室へと向かった。
管理棟には受付の他、小さな売店やコインシャワー、それに5つの多目的室がある。
ちょうど各クラスで1室ずつ割り当たる為、今回のメインである進路相談は各自クラスでまとまって行われる。
1組は1階奥にある広間に集まり、グループ毎分かれて席に着いた。
「て言うか、今さら進路の話をしなくてもいいよね。むしろ今から考えてる様じゃ遅いくらいなんだから」
そう言うのは、自身はすでに希望の大学の推薦枠を確保している斎藤梢だ。
実際の願書はまだ先だが、1年の頃からの成績も優秀な為、すでに枠は約束されているらしい。
「梢は良いわよね。あとは時期になったら願書出せば良いだけなんでしょ?私は専門だから、そんなのないし。この後のテストがやばかったら、願書も厳しくなっちゃうんだからさぁ」
美容系の専門学校を希望している香澄が深い溜め息を吐く。
「そんな事言ったら、私だって同じ。短大だから色々あるし。それにぶっちゃけ、長い目で見た将来の就職の事なんか考えてないもん」
呟きながら、沙保里は遠くを見つめる。
卒業後の進路は決めてはいるが、その後の事まではまだ決めていない様だ。
「夢美ちゃんは栄養士だっけ?推薦狙ってるの?」
「ううん。普通に受験するつもりよ。それに、こんな時期に編入だから、推薦枠は難しいだろうから」
1年から通っていれば可能性もあるかもしれないが、なにせ3年からの編入だ。
推薦枠については、初めから望んでいない。
「でも、前の学校での成績はどうだったの?確か、エスカレーター式の女子校だよね。偏差値も高かったんじゃない?」
確かに夢美が以前通っていた学校は、中学からのエスカレーター式なだけあり、なかなかの難関だった。
できる限り男がいない環境で過ごすため、俗に言うお受験も必死に頑張った。
留年等をしている余裕もない為、成績は比較的上位にもいた。
が、推薦枠となると、成績だけでは通らないのだ。
内申──これが絡むと、なかなか厄介な事になってしまう。
「成績は、まぁまぁだったんだけど。でも良いのよ。他の、4年制の大学に行く子達がとった方が良いもの」
そんな話をしていると、担任が室内に入ってきた。
「みなさん揃ってますか?では始めましょう。前からプリントを配ります。それに、自身の進路のことを──」
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「はぁ。終わった終わった!疲れたぁ」
数時間後、形だけの進路相談会は終了し、皆ぞろぞろと多目的室を出て行く。
夢美と晃司は一緒に残り、後片付けをしていた。これも代表の務めだ。
「俺1人で大丈夫だから、夢美はコテージ戻っていても良いぞ」
晃司は使った椅子を片付けながら言う。
「なに言ってるの。私だって代表なんだから。それに2人でやった方が早いじゃない」
確かに室内は学校の教室よりも一回り程小さいくらいで、片付けるものも人数分のパイプ椅子くらいだ。
1人でも充分対応できる量だが、だからと言ってじゃあお願いと戻るわけにもいかない。
「指とか挟まない様に気を付けろよ?」
「大丈夫よ。私、そんなおっちょこちょいじゃないんだから」
どうやら晃司の中での夢美のイメージはドジっ子の様だ。
それはやや不本意だが、心配されるのは新鮮だし、意外にも悪い気はしない。
「この後は確か、飯と風呂だよな。あ、その前に自由時間あったっけ」
「そうね。30分くらいだけど」
「俺達トランプやる予定なんだよ。よかったら後で、夢美も来ないか?」
その言葉に、動揺して思わず持っていた椅子を落としかけてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫……。ちょっとびっくりしちゃって」
晃司の好意は全て、心理の身内だから向けられているものだ。
それはわかっているはずなのに、妙にドキドキしてしまう。
「そんなびっくりしなくても。俺達のコテージわかるよな?」
「うん。わかるけど、遠慮しておくわ。友達同士で遊んでる所にお邪魔するのは悪いし」
やはり晃司は、まだ夢美の体質の事を知らないらしい。
そろそろ、心理が言っているかなと思っていたのだが。
「気にするなよ。あいつらもみんな、夢美と仲良くなりたがってるさ。歓迎されるって」
「う、うん……。でもほら、やっぱり私1人で男子の所に行くのはちょっとあれだし」
「じゃあ夢美のグループの子も一緒でもいいぞ。佐保里とか木戸とかも──」
「ごめんなさい、ダメなの」
言い切ると、晃司は目を丸くして黙り込んでしまった。
いくら女子校出身とはいえ、ここまで固くなに断るのはおかしいと思ったのだろう。
「あ、いや……ごめんな。何も無理矢理誘うつもりはなくて──」
「西君に、話しておかなきゃならないことがあるの」
もともと、晃司にはこの体質の事を告げるつもりではいた。
タイミングがなく先送りにしていたが、今なら2人きりだし、話の流れ的にいいタイミングだろう。
「え?な、なんだ?」
晃司は話の流れが読めず戸惑っている。
夢美は目を伏せると、ポツリと呟いた。
「私ね、アレルギーがあるのよ。男の人に」




