彼との出逢い
夢美がやって来たのは、2階の南側の校舎だ。
すでにチャイムは鳴っている為、廊下に人の気配はないが、教室内は賑やかだった。
冴原教師はドアを開けると、こちらに目配せをして中に入っていく。
「あー!冴ちゃんが担任?」
「やったぁ」
どうやら冴原教師は、人気が高いらしい。
すでにこの学校に2年間通っている生徒達は、嬉しそうな声を上げている。
だが夢美が中に入ると、一気にこちらに視線が集中した。
「みんな席に着いて」
冴原教師は大きな声で言うと、生徒達が着席したのを確認し、形式上の自己紹介をする。
「私がこのクラスの担任になった冴原です。3年生で受験も控えているから、みんな気を引き締めていきましょうね。そして──」
冴原教師は振り向くと夢美を見て笑みを浮かべた。少しだけ近付く。
「転校生を紹介します。苫記夢美さんです。苫記さん、簡単に自己紹介をしてもらえる?」
「はい」
夢美は笑顔を浮かべると、室内を見回す。
1クラスの生徒は30人くらいだろうか。
男女に分かれて座る座席らしく、心の中で安堵する。
「苫記夢美です。父の転勤で京都から引っ越して来ました。あまりこの辺には詳しくないので、色々教えて貰えると嬉しいです。よろしくお願いします」
頭を下げると、パチパチと拍手が鳴った。
「ありがとう。じゃあ苫記さんは、窓側の空いている席を使って」
「はい」
転校なんて初めての経験な為、少し緊張していたが、クラスの雰囲気を見る限り問題ないかもしれない。
女子生徒の中にも、派手すぎる人も見当たらない。
男子生徒の中にも──。
「おはよーございます」
その時急にドアが開き、1人の男子生徒が入ってきた。
それを見た冴原教師は、眉を寄せる。
「遅刻よ、西君!」
「いやーゴメンゴメン、ちょっと寝坊しちゃって」
妙にフランクな話し方だなと思いながら振り返る。その姿を見た瞬間、思わずギョッとした。
髪型はロングのツーブロックだ。だがその色は、全体的に赤い。
これはヤバいタイプの生徒だ。
目立ちすぎる毛色に唖然としていると、彼──西生徒はこちらを見て笑みを浮かべた。
「もしかして転校生?──どっかで会ったことない?」
「な、ないと思うわ」
こんな派手な人は、一度見たら忘れられない。夢美には全く見覚えがない。
「おい、さっそくナンパかよ西」
「苫記さん、早く逃げてー」
どうやら西生徒はムードメーカーらしい。女子生徒の思わぬ助け船に苦笑いを浮かべ、自席へと向かう。
なんだか、まだ彼に見られている気がするが、きっと気のせいだろう。
「ほら、西君も早く席に着きなさい。ホームルーム始めるわよ」
「あ、はい」
西生徒の席は、廊下側の一番後ろだった。
夢美はできる限り右側を見ない様にし、真っ直ぐ黒板を見つめる。
あのタイプは、絶対に良くない。できる限り関わらない様にしなければ。
これが、夢美と西晃司の出会いだった。