当日の朝
そして進路指導合宿当日。
幸い天候に恵まれ、抜ける様な晴天だった。
空には雲一つなく、まだ5月だというのに初夏の様に暖かい。
「何この気温。まだ5月上旬だってのに……。これもきっと温暖化の影響なんでしょうね」
朝香はサングラス越しに太陽を見上げ、忌々しそうにぼやく。
進路指導合宿は私服指定となっており、2人は私服姿で学校へと向かっていた。
「ちょっと朝香、それはちょっと派手過ぎじゃないの?」
眉を寄せながらぼやく。
いくら私服指定とはいえ、行事の一環だ。
夢美は白いカーディガンとキャミソール、それにクロップドパンツ姿だったが、朝香はまるでクラブに出掛ける様な格好だった。
赤いチューブトップに黒いショートパンツを履いており、惜しげもなくナマ足をさらしている。
上着はあるようだが暑いからと腕にかけており、靴にはヒールがついている。
「別に良いじゃない。私服なんだから」
「そうだけど……。それは露出し過ぎよ」
ただですら髪色は明るいし、化粧も派手なのだから。
誰がどう見ても学校へ行く格好には見えないし、最悪教師に注意を受けるかもしれない。
「別に露出なんてしてないって。言っとくけど、私は家では裸族なのよ。今日は1日中服を着てなきゃならないんだから、ストレス溜まるわ」
「え?ら、裸族って──まさか全裸なの?」
いくら自宅でも、家族もいるのに全裸で過ごすなんてあり得ない。
朝香は当然の様に「全裸なわけないでしょ」と言い放つ。
「私は下着タイプの裸族よ」
「下着でも充分信じられないわ」
溜め息を吐きつつ学校へ向かう。すると、同じく登校途中の心理と出会した。
心理はこちらを見ると、明らかにギョッとした表情を浮かべる。
「なんだよ、その格好」
今からクラブにでも行くのか?と同じ感想をぼやく。
「おはよう。心理も注意してよ。朝香の格好は露出過剰よね」
「まぁ、今日は確かに暑いけどさ。にしてもその格好はやべーんじゃねぇの?つーかお前、ノーブラ?」
呟き、朝香の肩を見つめる。
「はぁ?んなわけないでしょ。ヌーブラつけてるわよ」
「ヌーブラ?何それ」
どうやら男の心理には理解できない代物らしい。
行き先は同じな為、3人は並んで歩き出す。
すれ違うサラリーマンや他校の生徒が、チラチラと朝香を見ているのがわかった。
「ちょっと、せめて上着を着てよ。それに、サングラスも外して」
「うるさいわねぇ。わかったわよ」
朝香は渋々腕にかけていたデニムのジャケットを羽織る。だがサングラスは外すつもりはないらしい。
「ったく。TPO弁えろよ。これだから高校デビューの奴は」
心理がぽつりと呟く。とたんに朝香は怒りの表情を浮かべ、胸ぐらをつかんで引き寄せた。
「アンタ、今なんつった?」
「ご、ごめん。なんでもない」
やはり心理は、朝香達には敵わない。
素直に謝ると、朝香は鼻を鳴らし、荷物を片手にさっさと先へ行ってしまった。
それを見送りながら、2人は顔を見合わせる。
「あぁいう奴は加減を知らねぇんだよな。夢、なんでちゃんと教えとかなかったんだよ」
「だって、あんな方向にいくなんて思ってなかったもの。私、あんな感じじゃなかったでしょう?」
「まぁ、そうだけど……。揉め事起こさなきゃいいけどな」
「そうね」
今日ばかりは、朝香が同じクラスではなくて本当に良かった。
夢美は心の中で、密かにそう思っていた。




