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私はあなたを真似る  作者: 石月 ひさか
相模の頼み
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許可


「晃司と?別に良いけど」


その日の夜、久し振りに心理の母親(叔母)に夕食に招かれた。


手作りのシチューを食べながら今日の事を恐る恐る問うと、予想外に即答された。


「えっ……本当に良いの?私と西君が2人でよ?」


「わかってるよ、そんなん。だから別に良いって」


自分の中でも、大丈夫だろうと思う反面、いけないことだろうという気持ちもあった。


その為心理にまず許可を得ようと思ったのだが、あまりにさらりと許可された為、逆に不安になってしまう。


「もしかして怒った?」


恐る恐る問うと、心理は「はぁ?」と声を上げ、目を丸くする。


「オレがいつ、怒った様な素振り見せたんだよ」


「いや、見せてないけれど……。ごめんなさい、忘れて」


罪悪感からか、変に勘繰ってしまったようだ。


こんな風に思ってしまうのだから、やっぱり許可があっても晃司と出掛けるのはやめた方が良いかもしれない。


黙ってシチューを食べていると、心理はコーヒーを飲みながら溜め息を吐く。


「夢がバイクでドライブ──バイクだとツーリングか?に憧れてんのは知ってるし。オレはバイクの免許取れねーし、晃司で代わりになるならそれで良いじゃん」


「それはそうだけど。なんとなく負い目があるっていうか」


「あぁ、そう。じゃあ止めといた方が良いんじゃねーの?そんなんじゃ多分、楽しくないだろ」


心理の言うことは最もだ。


負い目を感じるのは、恐らく多少なりとも晃司に好意を抱いているからだろう。


それはいくら心理でも寛容してくれない気がした。


「夢ちゃん、お代わりは良い?まだまだたくさんあるのよ。心ちゃんもまだ食べない?」


キッチンから、心理の母親が顔を出す。


心理の母はアメリカ人のハーフで、おっとりとした美人だ。


旦那が夢美達の父親の兄弟で、出張で外国に行っている為、普段は家にいない。


「じゃあ、お代わりお願いします。少な目で大丈夫です」


「はーい。心ちゃんはもう良いの?」


「いらない」


ぶっきら棒に返すと、心理の母は少し悲し気な表情でキッチンに戻って行った。


「そんなに冷たく言わなくたって」


「言っとくけどなぁ、オレはお前が来る前に、シチュー3杯は食ってんだよ。それなのにまだ食うかとか聞いてきてんだぞ?そりゃあんな返しにもなるだろ」


全くあのババアは……とぼやくと同時に、心理の母が背後にやって来た。


「心ちゃん、まさか今、ママの事ババアなんて言ったの?」


シチューを夢美の前に置くと、片手で心理の頭を掴む。


「い、言ってない!」


「あら、本当?ママにはそう聞こえたけど……。ねぇ、夢ちゃん。夢ちゃんもそう聞こえなかった?」


「き、聞こえませんでした」


心理は頭を掴まれ、真っ青になっている。


「あら、そう。夢ちゃんも聞こえなかったなら、多分ママの空耳ね。ごめんね、心ちゃん」


掴んでいた手でそのまま頭を撫でると、空いた食器を持ってキッチンに戻って行く。


それを見届け、心理は盛大な溜め息を吐いた。


「ビビった。ババアはNGワードだったんだな」


「女の人なら、多分みんなそうだと思うけど……」


相変わらず心理は、自宅でも口が悪い。


見た目はクオーターの為か、そこいらの女の子より何倍も綺麗なのに。


グレーがかった髪の毛はさらさらだし、目もぱっちり二重で睫毛も長い。


子供の頃は、自分も心理の様な顔だったらよかったのにといつも思っていた。


「そういえば、あれから相模君とは大丈夫なの?」


一応仲直りはさせたが、本当の意味で仲直りできているのか若干の不安があった。


心理は「あぁ」とぼやき、苦笑いを浮かべる。


「さすがに夢や朝香まで巻き込んでおいて、仲直りしないわけにいかないだろ?普通にやってるよ」


「そう。良かったわ」


なんとか鏡の頼みを聞けたようで安心した。


せっかく頼ってきてくれたのだから、悪い結果にならなくて本当に良かったと思う。


「そういや、鏡の奴、すっかり夢美信者?になってるよ。あんなんが姉ちゃんなら良いよなとか、オレが羨ましいとかさ。本当、現金な奴だよな」


「そうなんだ」


人から好意を向けられるのはいつだって嬉しい。それが恋愛感情でなくとも──いや、恋愛感情ではないから尚更だ。


「そういえば、相模君って結構人気者みたいね。私のクラスにも、何人かファンがいるみたいよ」


今まで興味がなかった為に聞き流していたが、何人かの女子が、相模君が格好良いと話をしていたのを耳にした。


どうやら直接関わった事はないらしいが、クールな所が良いらしい。


「はぁ。アイツは見た目だけは良いからな。みんな騙されてんだろ」


小馬鹿にしたように笑い、カップのコーヒーを飲み干す。


見た目だけの話であれば、正直心理だって人の事は言えないのではないか。


そう思ったが、さすがに口にするのは憚られた。


「確かに相模君はクールな感じだけど、意外と素直で可愛いと思うわよ」


「へぇ……そうか?だったら鏡と付き合えば良いじゃん」


その言葉に、夢美は僅かに反応する。


心理も言ってしまってから失言に気づいたらしく、気まずそうに目を伏せた。


「あ、いや──ごめん。つい、うっかりした」


「良いのよ。そうね、相模君も心理達みたいに、アレルギー反応がでなければ良かったのにね」


諦めてはいると言っても、本音ではまだ少しだけ期待している。


このまま一生、たった1人きりで生きていくなんて。


好きな人と抱き合う事は勿論、手を繋ぐことすらできないなんて。


そんな人生は嫌だ。


もしも心理──いや、せめて晃司みたいに、そばにいても平気で、多少の触れ合いもできる人がいたら。


そしたらきっと、その人は運命の人なのだ。


「な、なぁ。悪かったって。今のはつい、普段の話の流れで言っちゃったて言うかさ」


「え?あぁ、違う違う。怒ってないわよ」


思わず他事を考えていた為、無意識に黙り込んでしまっていた。


どうやらそれを、怒ったと勘違いしたらしい。


「なら、良いけど。バイクの事だけどさ、マジでオレには気を使わなくて良いから。メットないなら、オレの貸すし」


「うん、ありがとう。じゃあ今度、西君との都合があったら、お願いしてみような」


そうは言ったものの、もはや行くつもりはなかった。


やはり、身内の恋人と2人きりで出掛けるのはよくないだろう。


多少なりとも、異性として意識しているならば尚更だ。


もしも本格的に好きになってしまったら、辛いのは夢美自身なのだから。




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