バイクへの憧れ
今日の集まりの内容は、現地の施設についての説明と、大まかな予定、それにグループ分けについてだった。
場所は隣の県にあるコテージタイプのキャンプ施設で、~5人タイプのが10棟、~8人タイプのが8棟、~10人タイプのが5棟ある。
1学年の合計は約150人だ。施設は貸し切りらしく、全員が1度に泊まれる程のキャパシティはあるらしい。
「各クラスに割り当てられたコテージは用紙の通りです。明日にはホームルームを設けてますので、そこでグループ分けをしてきて下さい」
夢美は手元の紙を見る。
1組に割り当てられたのは、5人タイプが2棟・8人タイプが2棟・10人タイプが1棟だ。
確か、人数比は女子が18人で男子が16人なので、女子が10人タイプと8人タイプを使えば良いかもしれない。
「お。このキャンプ場、打ち上げ花火OKって書いてんじゃん。夢美はさ、キャンプとかした事あるか?」
「うん。小学校の頃1度だけね」
あれは確か、小学校4年生の夏休みだった。
親戚合同でキャンプ場へ行き、心理や朝香と湖で遊んだ覚えがある。
「俺もキャンプは結構好きでさ。毎年友達と行ってるんだ。バイクで」
「へぇ。西君、バイクの免許持ってるのね」
確かに晃司の体格なら、バイクに乗ったら様になるかもしれない。
きっと心理も、専用のヘルメットを買って貰って、後ろに乗ってドライブなどをしているんだろう。
(いいなぁ、心理)
夢美は意外にも、昔からバイクには興味を抱いていた。
父が週末ライダーで、小さい頃はよく、ガレージ前でエンジンのかかっていないバイクに乗せて貰ったものだ。
今はもう普通に後部座席に座れるのに、なぜか父は一度もツーリングに連れていってくれない。
お願いしてみた事はあるが、危ないからダメだと断られてしまったのだ。
風を切って走るのは、どんなに気持ちが良いだろうか。
その様子を想像し、思わずうっとりしてしまう。
「まぁ、18になったら速攻車の免許取るつもりなんだけどさ。今は取り敢えずの足って感じで」
「バイクでツーリングなんて素敵よね。私の夢だわ」
そのまま海に行ったり、夕陽を見に行ったり。
なんだか青春という感じがする。
「あはは。そんなにバイクに憧れてんだ。夢美の彼氏はバイク持ってないのか。ちょっと金はかかるけど楽だからさ、今度お願いしてみたら良いんじゃないか?」
ナチュラルに彼氏持ち前提で話を進められ、思わず言葉に詰まった。
が、そもそも隠しているわけでも偽っているわけでもないと思い直し、素直に告げる。
「私、彼氏はいないから」
「え?そうなのか?意外だな。そんな可愛いのにフリーなんて」
「あ、ありがとう」
今まで女子校にいた為だろうか。
そんな事を言われた経験がない為、妙にドキドキしてしまう。
晃司はそれを知ってか知らずか更に言う。
「だったら今度、俺が連れて行ってやるよ。海でも山でもさ」
「ほ、本当!?」
思わず身を乗り出して食いついてしまった。
晃司なら触れ合っても比較的平気だし、何より近くにいても気分が悪くならない。
後部座席に座ってしがみついても、アレルギー反応が出る事もないだろう。
「本当、本当。今の時期なら海がいいかなぁ。前に心理とも行ったんだけどさ、アイツあぁ見えて海が好きみたいで。すげーはしゃいでて可愛かったよ」
色々と空想していたが、その言葉でハッと現実に返った。
ついつい晃司の言葉に甘えそうになったが、心理の恋人なのだ。
いくらゲイだとはいえ、人の彼氏と2人きりでデートなんて、していいはずがない。
と思う反面、ゲイの場合はアリなんだろうかと悩む。
晃司の恋愛対象は同性の心理だ。という事は自分の立ち位置は、ストレートの人で考えると恋愛対象外の性別──つまり同性という事になるんだろうか。
身内の恋人だとしても、恋愛対象外の性別なら、一緒に遊んでも悪いことではないだろう。
だけど──。
「まぁ、取り敢えず今度暇な時に行こうぜ」
「うん、ありがとう」
バイクの後ろに乗ってドライブは1度は経験しておきたい。だがそれにはまず、心理の許可を得なければ。
会議の間、ずっとその事ばかり考えていた。




