心理と相模の疑問
放課後。
今日は2回目の代表会議の日だ。
ホームルームを終えると、鞄を持って晃司と一緒に2階の会議室へ向かう。
「昨日は本当にごめんな。なんか、面倒な事に巻き込んじまって」
歩きながら、晃司は改めて謝罪をした。
恐らくまだ、鏡が言った事を気にしているのだろう。
「良いのよ。それに、実は相模君にも謝られたの」
「えっ。あの相模が?」
晃司は目を丸くすると、意外だな……とぼやく。
「そんなに意外?」
「あぁ。なんつーかアイツは、自分の非を認めないっていうか。心理の事が絡むと周りが見えなくなるんだよ。だから、謝るなんて思ってなかった」
「そうなの。確かに仲は良さそうだけど」
実際に会ったのは1年前らしいが、それまで長年メール上の友達をやってきた。
2人の仲が良いのはわかるが、改めて考えれば少し仲が良すぎというか、妙な結託感があるかもしれない。
「心理も心理で、妙に相模の肩を持つからな。まぁ、俺も幼馴染みにはそういう所あるかもしれないけど」
晃司の言葉を聞き、始めに抱いた違和感を思い出した。
鏡が心理に固執しているのは、性格上等の理由からわからなくはない。
だが何故、人の言う事など聞かないタイプの心理が、鏡の言葉で晃司との事を考える事になったのだろうか。
(そういえば、ちょっと変なのよね。どうして心理ってばあそこまで──)
心理が鏡の言葉を振り切ったのは、自分に暴言を吐かれて怒ったからだ。
だがもしあそこで鏡が何も言わなければ、そのまま言いなりになって破局していた可能性が高い。
「ねぇ。西君は、心理と相模君の事、よく知ってるの?」
「どういう意味だ?」
「2人の関係っていうか、付き合いの長さとか」
「さぁ。俺も相模の存在を知ったのは、心理が部活に入ってからだしな。幼馴染みって事くらいしか」
「そうなの」
恐らく晃司は、2人の言う幼馴染みが、メール友達の期間を含んでいる事を知らないのだろう。
つまり、表面上の事しか知らないという事だ。
(ダメダメ。いくら従姉弟でもプライバシーに関する事よね。考えても仕方ないわ)
心理が言わないという事は、恐らく知られたくないという事なのだろう。
もうあの件は終わったのだから、無駄に詮索する必要もない。
「夢美は何か知ってるのか?」
「ううん、何も。いくら従姉弟でも、なんでも共有しているわけじゃないから」
「まぁ、そうだよな。俺なんか妹ですら、よくわかってないからさ」
そんな話をしていると、向かい側から朝香達が歩いてくるのが見えた。
朝香は元から不機嫌そうだったが、こちらに気づくと、さらに顔をしかめた。
「よう、一春」
晃司に名前を呼ばれた木村一春は、顔を上げると愛想の良い笑みを浮かべる。
「そういや、晃司も代表なんだってな。珍しい」
「まぁな。どっちかっていうと、俺よりお前が代表やってる方が珍しいけど。えーと、朝香だっけ?アンタも心理や夢美の従姉妹なんだってな」
声をかけられ、朝香はあからさまに嫌そうな表情を浮かべる。
「ちょっと。なんで初対面でいきなり呼び捨てなわけ?」
「朝香!」
敵意剥き出しの言動に、思わず声を上げる。
しかし朝香は全く詫びる様子もない。
「あ、そうだよな。ごめん。苫記じゃ、みんな被るかなって思ってさ。俺は西晃司。よろしく」
「……」
朝香は軽く髪を流すと、清々しいほどのシカトっぷりを見せた。
目も合わせず挨拶も返さず、さっさと教室に入っていく。
「ごめんなさい西君。朝香ってあぁ見えて人見知りで──ちょっと」
慌てて謝る。しかし晃司は気にしていないのか、声を上げて笑いだした。
「あははは!いや、大丈夫大丈夫。それにしてもアイツ、心理によく似てるなぁ。心理もさ、初めて会った時はあんな感じだったんだ。懐かしいなぁ」
「そうだったの」
心理と言い朝香と言い、なぜうちの家系は極端な人見知りで攻撃的なんだろうか。
取り敢えず、晃司はあまり気にしていないのが不幸中の幸いだ。
朝香は晃司の事を嫌いなのは仕方ないとしても、改めて人との接し方について説教しなければならない。
深い溜め息を吐くと、晃司に次いで教室に入って行った。




