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コンサートホールは結構こじんまりとしていた。
しかし、扉は重厚で、入り口の係員さんがいなかったら、私一人では開けられないと思う。
照明も教室の蛍光灯のように白っぽくて煌々とした感じではなく、オレンジみたいな暖かい色で少し暗かった。
ピアノを習ってはいるものの、まだ発表会のような、コンサートホールを借りての演奏はしたことがなかった。
いずれは、こんなところで弾かせてもらえるのだろうかと、わくわくしながら、会場を見渡す。
ステージ中央にはどっしりとしたグランドピアノが置かれていた。
ピアノリサイタルということだけあって、それ以外の楽器はないようだった。
会場案内のアナウンスが流れている。
開場まであと10分…。
緊張する。
「香月ちゃん、まるで今から演奏するかのような顔をしてるね」
「い、色々考えたら、なんか緊張しちゃって」
「彼、すごい有名らしいね」
「そうなの?」
「入り口で並んでた人たちが言ってたよ。彼は、後に日本を代表する天才ピアニストになるだろう!って」
あの高木先輩が…、日本代表…?
高校までの高木先輩しか知らない私にとっては全くしっくりこない言葉だった。
「そうなんだ…」
ちょっと置いていかれた気分。
不良の高木先輩が本物なのか、天才ピアニストの先輩が本物なのかは分からない。
どっちも本物かもしれないし、不良だった先輩は跡形もないかもしれない。
そう考えると、また緊張してきてしまう。
うんうん考えていると、パッと会場が暗くなった。
ステージだけ明るくなる。
いよいよ始まるみたいだ。
舞台そでから、黒い燕尾服を来た男性がピアノに向かって歩いてきた。
2年前と比べ、少し背が伸びている気がする。
明るい茶髪は健在で、一目で先輩と分かったしまったけど。
サッと椅子に座ると、引き始める。
よく知っている曲だった。
「人形の夢と目覚め」
結構初級の曲だったから、なぜ彼が?と、会場の人は思ったかもしれない。
でも、私は知っている。
ちゃんと覚えててくれたんだ…。
それから、様々な曲を続けてどんどんと弾いていく。
その中には、ブラームズの愛のワルツも、ジムノペティも入っていた。
数曲弾いて、ドビュッシーの花火を引き終えたところで、彼は立ち上がった。
客席に向け、深々と頭を下げる。
「長々と挨拶もせずに弾いてしまってすみません。久々の公演だったので止まりませんでした」
マイクを持った彼は、話し始めた。
所々で笑いが起こる。
ユーモラスなところも、集中すると周りが見えづらくなることも変わってない。
正真正銘の高木先輩だった。
「この後、小休憩が入る予定です。後半もどんどん弾いていきますので、どうぞ、ごゆっくりお休みください」
ぺこりとお辞儀をすると、また舞台そでに戻っていった。
再開の時間や、トイレの場所、喫煙所などのアナウンスが流れる。
会場のお客さんは、ざわざわしながら、席を立ったり、バラバラに動き出す。
「いやぁ、私は音楽はさっぱりだけど、彼、すごいね」
「私、先輩の演奏は聴いたことなかったけど…、圧倒されちゃった」
先輩はきっと、高校の時の先輩のまま、天才になってしまったんだ。
元々、天才だったのかもしれないけど。
「香月ちゃん、ちょっといい?」
聞き慣れた声がした。
振り向くと、只野先輩が入り口に立ち、手招きしていた。
「知り合い?」
「あ、うん。佐奈のお兄ちゃん。で、あの先輩の友達」
「そうなのか。呼んでるよ、行ってくれば?」
「う、うん。ちょっと行ってくるね!」
私は、かばんを持つと、お父さんに軽く手を振って、先輩の下に走り出した。




