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「香月ちゃん、準備できた?そろそろ行くよ」
「はーい」
いよいよ、高木先輩のコンサートの日が来た。
お母さんが、「せっかくのコンサートなんだから」と、綺麗めのワンピースをまた買ってくれた。
「ピアニストより目立ちたくない」と言って断ろうと思ったら、
「ネイビーならそんなに目立たないわ!」と、
白のワンピースよりもフリルの少ない、シンプルなワンピースを買ってくれた。
お父さんもお母さんも私に対して甘すぎる。
まるで佐奈が作ったケーキだ。
甘ったるくて、でも、手作りだから安心感のあるケーキ。
「あら、ちょっと背伸びしすぎたかと思ったけど、似合ってるじゃない。香月も少しずつ、大人になっているのね」
「そりゃ、もう高校卒業の歳だし」
「忘れ物はないかい?」
「うん。大丈夫」
「じゃあ、行ってくるよ」
「お留守番、よろしくね、お母さん」
「はーい。感想聞かせてね」
玄関で手を振る母に手を振りながら、車に乗り込む。
前までは、父と二人で出かけるなんて、とてもじゃないけど出来なかった。
やはり、少しずつ成長しているんだ。
なんだか少し、誇らしくなる。
「あのピアニスト、知り合いなの?」
「うん。私が1年生のときの3年生。悪い遊びばっかり教える人だったよ」
「そうなの?」
「うん。でも、おかげでちょっと明るくなれた気がする」
「そうか。香月ちゃんは気を張りすぎだったってことだね。良い出会いだったんだね」
「気を張りすぎってお父さんも思ってた?」
「というか…、あまり心を開いてもらってないなぁと思ってたかな」
「うん、そうかも。お父さんに対してもだけど、友達にも開けてなかった」
「そうなのか。その彼のコンサートのチケットが手元に来たって…、なんか縁を感じるね」
「うん…。本当にビックリした」
「楽しみだね。だって…、2年ぶりに見るんでしょ?」
「そう。正確には、2年半ぶりかな」
「そうかそうか」
それっきり、沈黙となってしまった。
お父さんにはどんな感じかは分からないけど、私にとっては悪い沈黙じゃなかった。
心を許している人同士の沈黙。
これから行われる、高木先輩のコンサートのことを考えながら、ぼんやりと窓の外を見る。
外は、まぶしい位の日曜晴れだった。




