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その日最後の花火は、それはそれは大きくて、今もまぶたの裏側に張り付いている。




それからはあっという間だった。


先輩は、学校からいなくなった。



夏休みがあけて、数日間、なんとなく、いつもどこかしらで遭遇していた先輩に会わなくなったなと思う程度だった。


1ヶ月、2ヶ月がすぎ、肌寒くなる頃、おかしいと思い、先輩の教室を覗きに行った。


先輩はその教室にいなかった。

それくらいだったら、大体サボっている先輩のことだから、となんとも思わなかったはずだ。

しかし、席ごとなかった。


先輩がいないのに、先輩が座るはずの机と椅子がなかった。



あの時、聞いていればよかった。

「どこかに行ったりしないですよね?」


でもまさか、勘が当たるなんて。


別に先輩がいなくなったって、私の生活に支障は特にない。

気持ちの問題だ。



そしてあっという間に3年生になってしまった。


「じゃあ、合唱コンクール、3-Bは伴奏は井上さんで良いですか?」


「はーい」と気の抜けた返事がそこらここらから聞こえてくる。


「と、いうことで、井上さん、良いかしら?」


「あ、はい。私でよければやります」


あれから、ピアノをやり直して、なんとか人前で弾けるレベルになった。

おかげさまで、成績のほうは、いまひとつになったけど。


でも、先輩は喜んでくれるんじゃないだろうか?

今の私を見たら、きっと、良くなったって言ってくれるはずだ。


合唱コンクールと言う名のクラス対抗、校内合唱大会の伴奏を任された。

どんな小さな舞台でも、任されたということが少しだけ誇らしく感じた。


「一緒に歌えないの、さびしいけど、香月の伴奏楽しみだなぁ~」


「佐奈は、音痴克服しよう?」


「おおう…、言うねぇ」


「いやいや、佐奈っぺの音痴はとんでもないよ。音楽してる人からしたら、耐え難いよね、香月」


「の、のびしろはある」


「そうだよ!その通り!音痴は治るんだから!見てなさい、由紀!」


友達も増えた。

佐奈の膝の傷は、最初はすごかったけど、すっかり消えてしまった。

そのくらい、2年と言う時間は長いはずだった。

私にはあっという間、だったけれど。


「じゃあ、また明日ね!」


「明日休みじゃん」


「そうだった!また月曜日!」


「うん、また月曜日」


一緒に帰る友達もできたし、今までが何だったの?と思うくらい、明るく過ごせている気がする。




「ただいまー!」


「おかえりなさい」


「今日、カレーだ」


「あたり。出来ちゃってるから、手洗ってきなさい」


「はーい」


手洗いうがいをして、ダイニングのテーブルに着く。


「香月ちゃん、おかえりなさい」


「ただいま。今日、早いね」


「昨日で繁忙期も終わったから当分はゆっくりできそう」


「それは良かった。私ね、合唱コンクールの伴奏に選ばれたの!」


「そうか、そうか。おめでとう」


「なになに~?お母さんにも聞かせて」


「香月が合唱コンクールの伴奏に選ばれたそうだ」


「あら~!明日はケーキね!」


「お、大げさ」


「本番はいつなの?応援に行かなきゃ」


「いいって!頼むから、ビデオカメラとか回さないでね?」


「…、ダメなのかい?」


あからさまにガックリと項垂れたお父さん。

ちょっと可哀相…


「応援は許可する。文化祭の初日にするから、11月3日、きてね」


「去年も一昨年も呼んでくれなかったのに今年はどういう風の吹き回し?」


「ごめんって。私も大人になったってこと」


「それはそうと、香月ちゃん。会社にすっごくコンサート好きの人がいて、チケットもらったんだよ」


お父さんはゴソゴソとクリアファイルを出し、二枚を机の上に置いた。


クラシックのコンサートのチケットらしい。

コンサートのタイトル・演奏者を見た瞬間、時が止まった。

脳裏に大輪の花火が咲いた。



『高木 倫太郎ピアノリサイタル~花火の海、泳ぐ金魚~』



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