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「せっかく捕った金魚、いいんですか?」


「うん。金魚だって生きてるんだし、いいんじゃない?」


「池の生態系、ぶち壊してません?」


「なるほど、その考えがあったか」


真剣な表情で「なるほど、なるほど」と頷きながら、先輩は池を凝視している。


「でも、まぁ、スイスイ泳いでるし大丈夫じゃね?」


「え、ええ…」


確かに金魚は、水を得た魚、といった感じでスイスイ泳いでいる。

それが見える程度に池の水は透明度が高かった。




突然、頭上で破裂音と共に光の花が咲いた。


驚いて、そちらに眼を向ける。

何年かぶりに見る花火だった。


「始まったね。今日の大目玉」


「すごい…」


「ねぇ、池見てみて」


先輩に言われて、先ほど金魚を放流した池を見る。

ちょうど、頭上の花火が反射して、まるで花火が池の中で行われているようだった。

その中を金魚がスイスイと泳いでいる。


「金魚が空を泳いでいるみたい」


「おお、その発想も無かった」


突発的に私は、カバンの中から先輩にもらった船を取り出した。

そして、そっと池に滑らせる。


「ああ、もってきてたんだ」


「いえ、むしろ、持ち歩いてました」


「やっぱ、ちゃんとした紙で作ったやつあげるべきだったか…」


「いいんです。こっちのほうが長く浮かぶし、白いから暗くてもよく見える」


放たれた金魚と同じように、池に浮かんだ船はスイスイ流れていく。

まるで池が海になったみたい。

花火の海だ。


「先輩、私、久々に綺麗なものを見た気がする」


「写った花火もいいもんだろ?だから、ここが俺の特等席。特別に香月ちゃんにあげるよ」


「…、ありがとうございます」


「うん」


しばらく沈黙が続いた。

それを破ったのは先輩の鼻歌だった。


「ジムノペティ」


「そうそう。なんか、草むらに座って、花火見てるとぼく夏思い出すんだよね」


ボクナツ…、ぼくの夏休みか。


「ゲームの?」


「そう。よくやってたなぁ。あれは、過激じゃないからって親もゲームさせてくれたんだよね」


「へぇ。」


「でね、泊まりさきのお姉ちゃんがクラリネットでジムノペティ吹くんだけど、めっちゃいいんだよね」


先輩は思い出しながら感傷に浸っているようだ。


「先輩、クラシック、結構詳しいですよね」


「…、まあ、ピアノ、やってたからね」


「そうなんですか!?」


「まぁ…」


突然、歯切れが悪くなる先輩。


「…、辞めちゃったんですか?」


「うーん、辞めざるを得なかった」


「…?」


「いや、ね、お恥ずかしながら、手首やっちゃってさ。ピアノ、好きだったんだけどね。最初、ドクターストップ掛けられたんだけど、無視してこっそり弾いていたら、もう弾けなくなっちゃった」


「そんなに好きだったんですか?」


「そりゃもう。っていうか、神童とか呼ばれちゃって気持ちよくなってたっていうのもある」


「今も、弾けないんですか?」


「うん。電子ピアノくらいならいけるかも知れないけど、グランドピアノの鍵盤の重さだともうだめだ。リハビリと思って、折り紙とか色々やってるけど」


「あれ、リハビリだったんですか」


「うん。リハビリでたくさん折ったけど、溜まっていく折り紙を見て、こんなに折ってもだめなんだっていう現実が見たくなくて、飛ばしたり、流したりしてた」


「苦労してたんですね」


「ぐれちゃう気持ち、わかるでしょ?」


「なんか、私、ピアノ辞めちゃったの恥ずかしくなってきました」


「辞める理由なんて人それぞれだから、気負う必要は無いと思う。現に、俺、香月ちゃんのおかげでピアノが無くても前に進める気がしてきたんだ」


「…、せ」


"先輩、どこにも行かないですよね?"

確かにそう言いかけてた。

その言葉は、アナウンスにかき消された。



『次の花火がラストになります。地元の花火職人がこの日のために1年間掛けて作ったトリになります!ご注目くださぁい!!』




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