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「あーあ、ぼっちになっちゃった」
「…、なんかすみません」
「なんでカヅキちゃんが謝るのさ。誰のせいでもない。強いて言うなら、俺の日頃の行い?」
「それは…、同意せざるを得ません」
「しんらつー」
「私も…、天誅かもしれないです」
「テンチュウ?なんか悪いことでもしたの?」
「・・・、私、先輩が思っている以上に悪いことしてます」
「そう?」
それっきり、沈黙となってしまった。
「そうだ!こっちこっち」
先輩は思い出したように大きい声を上げると、数段階段を上って私を手招きした。
不思議に思って、私も階段を上り始めると、先輩は完全に前を向いて歩き始めた。
ついて来い、という事なんだろうか。
結構階段を上ったところで、先輩はある屋台の前でくるりと振り返った。
「いまどき珍しいでしょ。金魚すくい」
そこは金魚すくいの屋台だった。
「珍しいんですか?」
「あ、あまりお祭り行かないんだっけ?最近は、スーパーボールすくいとかはあるけど、生の金魚ってあんまりないんだよね」
「へぇ…、やってみたいです。金魚すくい」
「うん。浴衣、金魚だったから」
先輩は、屋台のおじさんに声をかけると、私にポイを渡してきた。
「じゃあ、一本目、カヅキちゃん行ってみようか」
「初めて現物見ましたけど…、けっこう脆そう」
「やっぱ、この難易度が心をくすぐるよね」
「へたっぴ」
「ぐうの音も出ません」
案の定、私は1匹も取れなかった。
「かわいそうだから、1匹サービスであげるよ」
屋台のおじさんが、1匹くれた。
赤いフナ金。
手持ちの小さなビニールに入れられたそれ。
「かわいい」
思わず、金魚を目の高さまで凝視する。
こんなに小さなものが生きている。
その事実に感動すら覚える。
「そんなに好き?金魚」
「え?」
「だって、すごく嬉しそうだから」
「いや、今まで考えたことなかったですけど…、そんなに嬉しそうでした?」
「うん。目がキラキラしてた」
「なんか、恥ずかしいです」
「俺、めっちゃ得意なんだよね」
ニヤリと笑った先輩は、1個のポイで10匹近くゲットしていた。
「やるねぇ、あんちゃん」
「まあね。でも、これこんなに要らないから、半分戻す」
プラスチックの器を少し傾けて、数匹を水槽の中に戻した。
「よし、じゃあ次行こうか」
私と同じ形のビニール袋を持った先輩が先導する。
袋の中には赤いフナ金が4匹と黒いフナ金が1匹入っていた。
先輩は、ずんずんと階段を下りていく。
ついには、屋台すらない道にまで来た。
「あの!先輩、こっち、たぶんお祭りの会場じゃないです」
「ん。知ってる」
「帰るんですか?」
「いや。まだ目玉の花火、見てない」
「ど、どこに…」
突然、先輩が道脇の雑木林に入り始めた。
「え!?ま、待って」
私も必死になってついていく。
先頭の先輩に比べれば多少は楽かもしれないが、それでも履き慣れていない下駄で草むらを掻き分けるのは骨が折れた。
「ここ」
先輩が立ち止まった先には小さな池があった。
「ここ?」
「そう。特等席」
池のほとりには大きな岩が何個かあり、先輩はそこに腰掛けた。
私も歩き疲れたので、その隣の岩に腰掛ける。
「涼しい」
「うん」
「よくこんな所、知ってますね」
「学校サボって散歩してるからね」
「…、尊敬した私が馬鹿でした」
先輩はクスクス笑うと、手に持っていた金魚の袋を池の上で逆さにした。
控えめな音を立てて、池の中に5匹の金魚が放たれる。




