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「君、お名前は?」
「えっと…、井上です」
「井上ちゃん、よろしくね。俺、只野」
「タダノ…、先輩…、宜しくお願いします」
「自己紹介も済んだところで、あと10隻流すので…、只野は下流へどうぞ」
「やっぱやるのかよ!!ちぇ~…」
ブツブツと言いながら、タダノ先輩は来た道を戻り始めた。
姿が見えなくなったのを確認して、高木先輩はまた船を流し始めた。
義務でやっている、とは言っていたけど、
わざわざまた回収に行ってもらうくらい、絶対的なものなのだろうか?
「先輩方は、自由研究でもしているんですか?」
せっせと流していた先輩は手を止めると、ポカンとした顔でこちらを見た。
「じ、自由研究っ!!」
大爆笑!と言った感じで盛大に笑い始めた。
真剣に思ったから言ったのに、本当に失礼。
「はぁ…、はぁ…、いや、本当に面白い人だよね。
この歳で、しかも自由研究なんて柄じゃない男二人が、
そんなことしないよ。
てか、未だかつて自由研究を提出したことがないよ」
息も絶え絶えと言った感じで先輩が話している。
一回も出したことがないのは問題だと思うのですが…。
「先輩、手が止まってます」
「あ、ああ、忘れてた。あんまり面白いもんだから…」
時より思い出し笑いをしながら、また先輩はせっせと船を流す。
と言っても、もともと残り10隻しかなかったので、すぐに船はなくなった。
「あ、そういえば、夏祭りなんですけど、私、友達と約束してたので行けないです」
「ん?ああ、夏祭りね!考えてくれてたのか。てっきりすっぽかされるもんだと思ってた」
「そこまで悪魔じゃないです。」
あっさりと引いてもらえて良かった。
経験上、もっと拗れるもんだと思っていたから…、言ってよかった。
少しだけ、抱えていた憂鬱が減った気がした。
「もしかして、気にしてたの?」
「え?」
「断るの、悪いなって、気に病んでたのかと思って」
「えっと、まぁ…、ちょっとした悩みの種でした」
「かづきちゃんは気にしすぎなんだよ。まあ、軽い気持ちで声をかけた俺が言うのもなんだけど…、もう少し、物事を軽視しても悪くはないんじゃない?」
「…、先輩は軽すぎると思います」
「お、おう…」
「でも、ありがとうございます」
「おう!」
先輩はうれしそうにうなずくと、持ってきた荷物を簡単にまとめて、土手を登り始めた。
すると、下流のほうからタダノ先輩がやはり、流し終えた紙の船を入れた袋を担いで歩いてきた。
「ふぅ、終わった終わった。アイス食べようぜ~。」
「ふぅ、じゃねえよ。流すより、捕まえる役のほうが大変なんだぞ!」
「ごめんごめん、奢るから」
「絶対だからな」
ぶーぶー言いながら、タダノ先輩は先頭をきって歩き始める。
「では、私、図書館に行くので」
「あ、そうか。じゃあね」
「はい。船、ありがとうございました」
ぺこっと頭を下げると、私は、川の上流…、図書館のほうに歩き出した。
少しだけ、足が軽くなった気がした。




