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私と耳と魔法少女と  作者: 水氣
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***

  瓦礫の山となった東京、そこに這う不気味な怪物たち。

  怪物は逃げ惑う人間を捕まえようとしているのだ。

 

「ひっ、うわああああああ!」


  崩れ落ちたビルの瓦礫を蹴ってしまい、逃げ遅れた男性が怪物の餌食となった。

  必死に逃げようともがく男性を押さえつけ、手を食い千切った。

  すると見る見るうちに男性は姿を変形させ、醜い怪物と同じ姿へと変わった。


  そんな崩れた世界を上から見ている、一人の少女がいた。


「くくくっ、これで世界は我らのものだ……………………!」


  歯をきしりと鳴らし、眉をひそめて鼻をならし笑うこの人物こそ、人類の敵。

  アンフェール・デストリュクシオンだ。

  見た目は可愛らしい幼女だが、正体は敵組織の幹部。実年齢は1000歳だ。


  アンフェールは魔法で空に浮かび、荒れ果てた日本を見下している。


「やめなさい、アンフェール!」


 突如、正義に満ち溢れた声が響いた。

 アンフェールがゆっくりと顔を左に傾けると、一人の少女が目に入った。


「やっとか、待ちくたびれたぞ」


 セーラー服をなびかせ、怪我を負い、苦しみを感じてもも輝きを忘れない瞳の少女。

 ひらひらと褐色の髪が揺れ、辺りに花弁が舞い散った。


「…………魔法少女、ボヌール。」


  ボヌール・ルル………彼女の目が燃えた。






「っっひぃやぁ!最っ高だわー!」


 ぐびっとグラスに入ったジャスミン茶を飲み干し、スマホの動画を一時停止した。


 ……………………そう、今までの話はテレビの話だったのだ。

 この妙におじさん臭い奴が真の主人公。


 御薬袋(みない ) 美影(みかげ)、十四歳。ただのアニヲタだ。


 彼女が観ていた「魔法少女ボヌール・ルル」は超人気深夜アニメであり、美影はこの作品がきっかけで深夜アニメにハマったそうだ。

 そんな彼女だが、友達が少なく、数少ない親友はこのアニメを観ていないそう………ってこの説明はいるのか?


「全く、ルルたそは可愛すぎだなあ!アンフィも可愛いけど!」


 風呂上がりの温かい身体を揺らし、ベッドに飛び込んだ。

 ベッドの上にはルルの人形や他アニメのキャラクターぬいぐるみがずらりと並んでいる。

 アニメの続きを見ようと思ったらしいが、睡魔に襲われてしまいそうだ。目が半分閉じかけている。

 再生ボタンを押そうとしても、眠くて身体が言うことを聞かない。


「魔法少女、か。良いなぁ。」


 美影の目は完全に閉じ、すやすやと優しい寝息が部屋に響いた。


 寝返りをうった時、彼女の指がそっとスマホ……………………再生ボタンに触れた。






『っ!こんなに強いなど、上から聞いていない………!』


 部屋にアンフェールの掠れた声が流れ出した。山場のシーン、ボヌールが必殺技を出すところだ。

 こんなに大音量で流れているのに、美影はピクリとも動かない。


『日本は私が守る!!!』


 ボヌール・ファヴール!


 彼女の持つ槍が輝き、光の球が散りばめられる。球は一直線にアンフェールのもとに向かう。

 アンフェールの目が見開かれた。もう魔力の尽きたアンフェールには防ぎようが無い。

 球が弾け、辺りが煙に包まれた。




『っな、生きていたのね………!』

『私は人間の味わう苦しみから力を貰う………この世には地獄の様な苦しみで溢れている。貴様に防ぎよう がない。』


 小さく鼻で笑い、瞬間移動でボヌールの背後に回った。ボヌールが慌てて振り向くが、力強い蹴りを入れられた。

 こんな強力な魔力を、いつの間に!

 ボヌールを蹴り飛ばしたアンフェールは右手に魔力を集中させ、大きな門を創り出した。


『もうこの世界とはさらばだ。ボヌール・ルル、精精この世という地獄で苦しみもがくといい。』


 彼女の小さな手が門にかかり、高笑いが響き渡った。

 ボヌールが隙を見て槍を操った。が、見事に弾かれ、無残に塵へと変わった。

 今まで大事にしていた武器を目の前で壊され、驚きのあまり目を見開いたボヌール。そんな彼女を舐める様に見て、怪しい笑みを浮かべながらアンフェールは門の中に入っていった。


動画がプツリと途切れ、画面が動画サイトのホームに切り替わった。そう、この動画は消えてしまったのだ。

いや、元から無かったと言うべきだろうか。そもそもこんな話は放送されていないのである。

一体誰がこの動画を作ったのだろうか。一体どこからこの動画が出たのか。


それは、誰にもわからない。


スマホの画面がプツリと途切れ、黒い闇に包まれた。







「ここが、ドッペルゲンガァエトワール……………………テール(地球)か………」


 風に吹かれ、一人の幼女が呟いた。ビルの屋上に立つ彼女は、まるでアニメのキャラクターの様な格好をしている。

 横に縛られた髪を指で絡め、鼻で笑った。碧い瞳を細め、軽く息を吸った。


「ここが、我らの新しい土地になるのだ………かっははは!止めれるものなら止めてみろ、正義の魔法少女(ヒーロー)め!」


 月光に照らし出されたその姿は、紛れもなくあのアニメの登場人物、アンフェール・デストリュクシオンだった。

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