第1話 「異世界入り」
物心ついた時には既に海外に住んでおり、学校も十一歳には飛び級で大学を卒業した。学校に行っている間は少しくらいは有意義に感じる事もあった。
その後は日本に帰国したが働く気にはならなかったし、年齢的にも微妙だったのでとりあえず普通に日本の国立校へ通ってみた。
なんと日本の授業は洗脳を行っていた。山のように嘘が書かれていた。研究や証明もないまま記載されている内容を暗記するだけの教育ならぬ洗脳機関。
歴史に関して言えば研究室はあっても考古学という学部は東大にはない。にも関わらず、教科書は東大が発行しピラミッドが墓などと記載されている。一体何を学んでいるのだろうかと苦悶の日々を過ごしていた。そしてその事を知らない事もそうだが、間違いだと指摘しても同級生や教師までもがそのままなのである。こんな環境で何を目指して生きているのだろうか。
考え方が人とずれているとよく言われるが、自分では逆に世の中の九十九%が、世の理に対して間違った考えをしていると感じている。今まで努力や苦労はそれなりにしてきたが、印象に残るほど大変な思いはした事がなく、残りの人生をシミュレートしても労力に対して楽しみが無い事を理解している。
「太陽が早く赤色巨星にならねーかな…」
彼は精神的に、既に終わっていた。
三十歳の夏。今日は月曜日の朝、ここ数日で一番の日差し。俺はエアコンの良く効いた部屋からコーヒーを飲み窓から外を眺める。社畜達が汗を流して出勤しているが、俺はこんな社会で働く気はやはりない。働いてる人間は全員洗脳されていると学校で体験したので知っている。幼少期より成績トップで頭脳明晰の俺には効果はなかったが。8年ほど何か面白い事はないかと過ごしてみたが、やはりこの世界は退屈すぎた。
「暇そうだねー☆ いい所に行かせてあげるよ!」
頭の中に見知らぬ声が響き渡る。そしていつの間にか快適な自室ではなく、幻想的な空間に転移していた。銀河系を一メートルほどのサイズにしたようなものが遠くに数え切れないほど浮いていた。そして、目の部分だけモザイクの掛かった人の形をした何かがみえた。それは『存在』が決定的に異なるものだと感じ、強烈な恐怖に襲わた。
「んー。キミに合わせて姿や言葉を変えてみたんだけどこの無重力の部屋だとバランスが取れないね☆」
(その前に、なぜ目にモザイクが付ついている。まぁ参考にしたモノが悪かったんだろう)
「おい、ここはどこだ? お前は誰だ? そして、俺に何をした? 俺が何をした? 俺で何をする?」
情報が足らないので質問責め。
「えっとねー!ボクは管理者。人類から暇そうだったキミをテキトーに1人選んでねー、ここへ呼んだんだよ!」
(このふざけた口調のこいつはなんだ? 鵜呑みにするなら全てを統べる存在って所か。人間に出来ない事を行った時点で確定だな。俺でなければならない理由はあるのか?)
「ここはねー、管理室ってかんじ? ぜーんぶの管理をしてるんだよー☆ キミの居たセカイはねー、束縛をテーマにした実験場ってトコかなー?」
「そんな事よりいい所へ行かせるというのはどういうことだ?」
「キミには他の世界へ行って行動してもらうのー。それでボクが満足したら終わりだよーん♡ 終わりのときはまた声かけるから安心してね。満足するまで終われないし何をするかはキミの想像に任せるよ! ご褒美は、元の世界へ戻してあげるのと、願い事は何でもかなえてあげるよ(●ゝω・)」
「わかった。他の世界というのは俺が元居た世界と似てるのか?」
「異世界だから違うかもねー☆ ゲームやアニメに出てくる世界と思うといいよっ!」
「仕方ない。一瞬で 終わらせてやろう」
幼少期から人の何倍もの速度で学習をしてきたカオルは周りの者を見下して育ってきた。また、自分より勝る相手を前にしてもそれは変わらない。また、薫自身も自覚しているが目的・意味なく行動する事を忌避しているだけで、何かを行う事に興味がない訳ではない、むしろ望んでいる。理解の及ばない環境に面した時は全力で楽しむタイプである。
「条件達成のための能力を一つプレゼント~。簡単にいうと憑依だね? 憑依能力を使ってるときは君自身の実体も消えて時間も止まるから存分にその人物を楽しんで☆ 性格とかはキミに合わせて『憑依した人物の過去』が置き換わるからいつも通りで大丈夫だよ! その人の知識や記憶も使えるからガンバッテネ!」
「まぁ行けばすぐに条件とやらを暴いて満足させてやるよ」
「それは頼もしいねー! 馬鹿のふりをするのも面倒だろうから君の知力を下げてあげるね☆」
「おい、それは――」
「さぁ、物語の始まりだ☆」
最後まで言わせて貰えないまま異世界へ旅立った。