三十七話 説得
朝六時、目を覚ますとすでにお母さんはベットにはおらず、下の部屋からとてもいい匂いがしていた。
この匂いはフレンチトーストかな? お母さんのフレンチトーストは卵だけで砂糖を入れない代わりにはちみつとアイスクリームを使っていてふんわりとしていてとてもおいしい。
背伸びをして、布団をたとんでベットをきれいにすると、着崩れていた服を直してから階段を下りた。
リビングに入るとキッチンでお母さんがピンク色のエプロンをして鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
「お母さん、おはよう。 今日の朝ご飯はフレンチトーストだよね」
「おはよう。 そうよ~ なんだか食べたくなっちゃってね。 結局フレンチトーストにしちゃった。 多分、月奈はまだ起きてこないと思うから先食べちゃいなさい」
お母さんにそう言われ、テーブルの上に置いてあるフレンチトーストを改めてみた。
フレンチトースト自体の熱でアイスが溶けて、はちみつと絡まって金色のシロップになっていた。
私はこの感じがとても好きだ。でも月奈はアイスが乗っていて、ちょっと冷たい感じが好きみたいで、完全に溶けているのは好まないらしい……
「それじゃあ、いただきます」
私は手を合わせて、目の前のお皿に置いてあるフレンチトーストを何切れかに切って、フォークで一切れを口に運んだ。
ああ、やっぱりおいしい…… 口の中で広がるアイスとはちみつの甘さ、そして最後に広がるミントのスッと広がるひんやりとした味。 どこをとっても完璧なもの、これを食べられる私は幸せだ。
全部食べるのに20分ぐらいかかったけど、とても味わって食べた。 それに私が男だったころもフレンチトーストは好きだったけど、女の子になってから、甘いものを食べたときに得られる幸福感が増して得られるから本当においしく食べられる。気づいたら甘党になってそうで怖い…… 太らないように気を付けないとね
「あらあら、月ちゃんは昔からおいしそうに食べるわね。見ていてるこっちも幸せになってくるわ。 それでどうだった? 満足した?」
「うん、とってもおいしかった。 ありがとね‼」
しばらくお母さんとこれからのことを話していると理恵と雪奈が一緒に二階から降りてきた。
「月、それにお義母さん、おはようございます。 少し、遅くなってしまいましたね。すいません……」
「……お母さん、おばあちゃんおはよう……」
理恵はもう完全に目が覚めてるみたいだけど、雪奈のほうは目をこすっているからまだ眠そうだ。まあ昨日は多分寝るのが遅くなったからそのせいだと思う。
「二人ともおはよう。よく眠れた? ごめんね? 昨日遅くなっちゃったね……」
「いえ、月のせいではありません。 だからあんまり深く考えないでください」
「それはそうと、二人もご飯できてるわよ。理恵ちゃんはアイスが乗ってても大丈夫? それともプレーンで食べる? 雪奈ちゃんは甘いほうがいいわよね」
「……うん 甘いほうがいい」
「私はプレーンでお願いします。 お義母さん、私はコーヒーを入れますがお義母さんは飲みますか?」
「あら、入れてくれるの? それならお願いしようかしら?」
二人はそう言ってキッチンに行ってしまった。
「雪奈、大丈夫? まだ眠いなら寝ててもいいんだよ?」
「……大丈夫。 あんまり遅く寝るのは体に悪いからね…… 頑張って起きる……」
「そうか、雪奈は良い子だね。月奈にも見習ってほしいよ……」
月奈は昔からぎりぎりまで寝ていて朝はいっつもバタバタしている。あの性格は多分お父さん似なんだろうね。
今日はどうしようかな? 月奈とお父さんは多分昨日一緒に話したはずだかお父さんもある程度、話の流れをわかっていると思う。 それを踏まえてお父さんは月奈に対してどう結論を出すのかな?
向こうに行ってしまうと危ないことにも巻き込まれると思うし、たぶん初めて雪奈にあった搭にも上らないといけないから魔物も倒すようになるしね。
「……お母さん、あんまり難しく考えなくてもいいと思う…… それに多分結果は出てると思う」
「え?」
「……多分、月奈の事だから許可を出さなくても無理やりついてくる。だから今から考えても意味ない……と思う」
「雪奈ちゃんの言う通りだと思うわよ? あの子のことだしね、あなたについていくって絶対に言うわ。それにお父さんもわかってるはずだから許可を出さないってことはないと思うわ。それにどっちかって言ったらあなたのほうが心配なのよ?」
「え? なんで?」
なんで月奈じゃなくて私のほうが心配なんだろ? 自分で理由を考えてみたけど全く心配になる物が見当たらないし問題ないと思うけど。
「だってね? あなた子供っぽいし、他人のことは心配する癖に自分のことになるとズボラというか全く考えないというか…… とにかく見ているこっちが心配になるの」
「そうだな。母さんの言う通りだ。 だから月奈のほうにはついていってもいいと、許可をだした。だがその条件として月、お前の面倒を見ることを条件として出した」
「ええ? それじゃあ、私のほうが問題を起こしてるみたいじゃない。 さすがにそれは心外だよ。」
「はぁ、それがわからないうちはお前はまだまだ子供だな。それはそうと、月奈もついていくんだからお前もしっかり面倒みてやれよ? お前たちはどっちとも他人に心配をかける天才だからな」
あまりにも心外なことを言われてる。月奈じゃあるまいし、そんなに人に心配なんかかけてない、はず、たぶん……
って月奈は何時まで寝てるんだろ? もう七時になるのに……
雪奈も眠いのを我慢して起きてるのに。本当にあの子はもう、子供なんだから……
「私ちょっと月奈起こしてくるね?」
みんなにそう言って、月奈の部屋に向かった。
一応月奈の部屋のドアを叩いて読んでみるけど返事はなかった……
仕方なく月奈の部屋に入ると月奈は大の字を描いて寝ていた。とても気持ちよさそうな寝顔だ。
私はなんだか起こすのがもったいなくなってしばらく月奈の様子を見ていた。
「ふふ、気持ちよさそうに寝ちゃって…… よっぽど昨日のことが響いちゃったのかな? まあでも今日は何もないみたいだし、あんまり急がなくてもいいかな? それにしてもやっぱり月奈の部屋は女の子っぽい部屋だな」
部屋のカラーリングはピンク色でいかにも女の子って感じがする……
ベットの上側にはリスのぬいぐるみを置いていて名前はシュシュちゃんらしい。
それは小学生からずっと大切にしている。
しばらく月奈の頭をなでながら部屋を見ていると月奈が起きそうだった
「うーん、あれ? おねえちゃん? どうしたの?」
月奈はよだれを出しながら私のことを呼んだ。
「ほら、月奈、もう七時回ってるよ?それによだれも垂れてるし」
「はれ? もう七時?」
「うん」
「や、やばい‼ 寝過ごした‼ って今日学校ないから大丈夫か……」
月奈は学校が遅れると思ったのか、すこし慌ててたけど、今日が休みだという事がわかると落ち着いてベットの上に座った。
「月奈、お父さんに許可もらえたんだね。月奈はついてくることに後悔はしない?」
「しないよ。それにまた置いて行かれてお姉ちゃんと離れ離れになることのほうが私にとって後悔することだよ。だから私はお姉ちゃんに止められてもついていくよ」
「そっか…… それなら私はもう何も言わないよ。 だけどこれからは仲間なんだから困ったときは言ってね?」
「お姉ちゃんも疲れた時や助けてほしいときはちゃんと言ってね? 約束だよ?」
私たちはそれぞれが望んでいることを約束として指切りげんまんをした。すこし子供っぽいけど私たちが約束をするときはこれだって決まってるからね。あんまり恥ずかしさはない。
これからは月奈も一緒についてくるから、しっかり守らないとね。でも守るだけじゃないはずだから私も助けてほしいときは助けてもらおうかな……
今までは兄として、姉としてすべてやってあげないとって思ってたけどいつの間にか月奈も大人になってたんだなって思う。
「だからこれからよろしくね? 月奈」
「うん、しっかり頑張るからね。これからもよろしくね‼ お姉ちゃん」