三十六話 親と子
私たちは海底から地上に戻ってきてそれぞれの部屋で休んでいた。
「私はどうしたらいいんだろ?」
月奈は自分も精霊界に行くと言っている…… それにサラとセラからも刀をもらっていた。 月奈は小学生のころから剣術を習っていて、大きな大会でも勝てるぐらいの実力者だ。 それに身体能力も私よりも強いから連れて行ってあげても問題なんだけど…… 姉としてはやっぱりしんぱい。
今までは何とかなっていた…… だけど次からは本当に何が起きるかわからない、だからもしかしたら私たちも本当に危険なことに巻き込まれるかもしれない。姉としてはやっぱり止めるべきなのかな?
コンコン……
「月ちゃん、起きてる?」
私が自分の部屋でこれから先について考えていると急に外からお母さんの声が聞こえてきた。
私の体は想定していなかった事実に硬直してしまった……
あれ? 今、夜の12時過ぎだよね? なんでお母さんの声が聞こえるんだろ? 一応帰ってくるときに二人が寝ていることを確認したはずなのに……
しばらくどうやり過ごすか考えたけど何も思いつかなかった…… 仕方なく部屋のドアを開けて外で待っているお母さんを中に入れた。
「お、お母さん、どうしたの?」
ここで夜に出かけたことがばれていれば、それはとてもまずいことになる……
お母さんたちはそういう事に厳しい人たちだ。
もし、ここでそれについて追及されてしまうと、私たちの動き方にも影響してくるし、もしかしたら月奈も……
「月ちゃん……」
やばい…… 心臓がどきどきしてお母さんの言葉がよく聞こえないよ。 落ち着け‼ 私‼
「さっきまでどこ行ってたの?」
月奈、ごめんね…… お姉ちゃん、一番まずいルートに進んじゃったみたい……
「な、何のことかな? 私たちはずっと部屋に、い、いたよ? は、はは」
「嘘つかなくてもいいわ。 お父さんも出ていくの気が付いてたみたいだし、それにあなたたち私たちが寝ていることを確認しに来たでしょう」
やばい、お母さんの目が本気の目だ…… それにお父さんも知っているってことは今頃、月奈たちの部屋に行っているかもしれない。
「月、私は嘘をつく子は嫌いよ?」
お母さんにそう言われ、私はごまかすのをあきらめて、お母さんに事実を話すことにした。
「……お母さんたちが見た通り、外に出てました......」
「どこに?」
今日のお母さんは本当に追及してくるね…… 今の私の気分はこわもての警察から尋問されている犯罪者の気分だよ……
「……どこに行ったかは教えれないです…… はい……」
「なんでかしら?」
「……理由があるからです」
私がとぎれとぎれにお母さんに伝えるとお母さんの目が閉じた……
昔からお母さんは本気で怒ったときに目を閉じる。
つまり、私はお母さんを怒らせちゃったみたい。 終わった……
「ねぇ、月ちゃん? なんで私がここにいるか、わかる?」
「わかんないです……」
「そう…… それじゃあ、教えてあげるわ」
お母さんはそう言って、間を開けた……
それは時間にしてたった数秒、だけど私の体は芯が固まってしまったように全く動かなくなってしまった。
「月ちゃん? 私たちに隠していることを全部話して。 それを話すまでは寝かせないし、お母さんも寝ないわ」
なんで? 今まではある程度聞いたらあとは聞かないでくれてたのに、なんで今更なんだろ?
「その顔はなんで今更そんなことを聞くんだろ?っていう顔ね」
私は思わず体をビクッと震わせた。 まさか自分が考えていることをぴったりと当てられるとは思わなかったからだ
「そうね、今まではある程度聞いたら追及しないようにしていたわ。あなたたちも話したくなさそうだったしね。 でもね、今日あなたたちが出かけた後に私はとび起きたわ、そして、あなたたちの部屋を確認しに行った…… みんながいると思ってね? でもみんなはいなかった」
「……どうしてお母さんは起きたの?」
「そうね、なんて言ったら良いのかしらね? 簡単に言うとこのままあなたたちの好きにさせたらみんないなくなっちゃうって気がしてね。それで飛び起きたの。
お父さんも何か嫌な気がしたんでしょうね…… あなたたちがいないことを確認した後に急いで探しに行く準備をしようと部屋に戻ったらお父さんが起きててね。それで私に、今は行くな。あとで話を聞こうって言ったの。 それであなたたちが帰ってくるのを寝たふりをしながら待っていたってわけ」
「……そうなんだ」
「うん、だから今日は聞かずにはいられないの。だからあなたが隠していることを全部話して? 全部ね」
これはたぶん、私があの殺人鬼に殺されてからのことも包み隠さず全部話せってことだろうな。
ああ、まさかお母さんたちにバレるなんて思わなかった。
あの月奈でさえもところどころ隠してたのに……
「……わかった今まであったこと全部話すよ」
それから私は自分の身に起こったこと、理恵や雪奈について、精霊界の事、そこで出会った人たちの事、そしてルティのこと、すべてをお母さんに話した。
「これで全部だよ。 ちゃんと月奈にも話してないことも喋った…… これを知ってお母さんはどうするの? 人間じゃあなくなった私を怖がる?」
ああ、私はいったい何を言ってるんだろ? 今まで喋ったこともなかった自分の気持ちもお母さんには喋った…… すると私の中にある感情が出てきた。
それは恐怖だ。お母さんにすべてを知られ、人間ではなくなってしまった私をどうするかを考えてしまったから…… そして、その思考はどんどん暗いほうへと進んでいく。
ここから離れられたらどんなに楽だろうか……
パチンッ
私の両頬がお母さんのあったかい手で挟まれた……
「ほはあはん(お母さん)はひふるほ(なにするの)ふぃふぁいんふぁへほ(痛いんだけど)」
「こら、そうやって悪い方向にすぐ持っていくの、月の悪い癖よ。それにどうするかって? どうもしないわよ。あなたが人間じゃないなにかになっちゃっても女の子になっちゃっても私たちのかわいい子供には変わりないんだから。 なあに?私があなたたちを見捨てると思ったの? それなら心外だし、お母さんたちのことをなめすぎだわ」
少し考えたらわかることだった…… お母さんたちが私の考えたことをするはずがないって…… そう思うとなんだか心が楽になった。 もしかしたら私は難しく考えすぎてたのかもしれないね
「それにしても、大変なことに巻き込まれちゃったのね…… こればっかりは私だけでは決めれないわ」
「そうだよね。 それと月奈の話も聞いてあげて? あの子、私たちと一緒に来たいみたいなの。でもなにがあるかわからないから心配で…… お母さんたちに話して許可が出たら良いよって話したの……」
「そうなのね。月奈がね。 あの子ももう子供じゃないものね…… 昔はあんなにお兄ちゃん子だったのにね。みんな大きくなるものなのね~ 月ちゃんはちっさくなっちゃったみたいだけどね」
「う、いいもん、まだ伸びるかもしれないし、それに今でもお母さんよりは大きいもんね」
「言ったわね? 言ってはいけないことをあなたは言ったわね? そんなこと言う子にはこうしてやる‼」
私はいつの間にかお母さんに抱きしめられて、頭をなでられていた。
「月ちゃん、生きててくれてありがとね。 あなたが殺されたって聞いたときはもう何も考えれなかったわ。月奈も虚ろになっちゃって、夢でもお兄ちゃんって呼んでたみたいだしね。 だけどこうして帰ってきてくれた。 私はそれだけでとてもうれしいわ」
「うん、心配かけちゃってごめんなさい……」
「いいのよ。 それと月奈の件だけど、明日お父さんに聞いてみましょ? あの人のことだからちょっと私もどうなるかわからないけどね。 それじゃあ今日はもう遅いし、寝ましょうか」
「うん、お母さんはどこで寝るの?」
「そうね、久しぶりに月ちゃんと寝ようかしらね。抱き心地よさそうだしね」
私たちはそれから一緒にベットに入って一緒に寝た。
お母さんは寝るときに私に抱き着いて寝た。
とても暑苦しいかったけど、それすらも今の私には心地よく感じた。
お母さん、私を認めてくれてありがとう……
三十七話いかがだったでしょうか。
今回は少し心あったまる話だったのではないでしょうか?
しかし、温まりすぎて熱中症になるのは気を付けてくださいね。
ああ~ 熱いよ~ アイスのように溶けちゃいそうやで
さて次回は三十八話です。 おお~五十話までもうすぐです
頑張って更新していきますので応援よろしくお願いします
それと感想やブクマも大歓迎です。 ぜひよろしくお願いします
それでは作者からは以上です
水月 鏡花