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「BACK SIDE ENDLESS FIRE.」  作者: 高橋。
4/4

7〜11

7.

夜中トイレに立った時にドアを閉め忘れていたのかキッチンからの朝食のハムエッグらしい香りで起きた。田所が朝食の支度をしていた。おぱよ、と田所はいい歳のオヤジだが尻を少し振りながら上機嫌だった。田所の情緒に根拠の様なものは無いようなようにいつも見える、不機嫌な時はひたすらに口が悪くなり、ふとした瞬間には気分が立て直っていたりと難しい構造を感じる。しかし一貫した善いものは通っており不快な気分にされる事は物凄く少ない。パムエッグ食うか?と田所の一生続くらしいブームの半濁点を付けるて話すことは流石に朝からだと呆れる。ありがと、と自分は田所の調理したハムエッグなるパムエッグを食べた。食パンも焼いてくれた。力人の拳銃自殺がニュースとしてテレビに映っていた。田所が自分の言い知れぬ表情から、何か察したらしく、チャンネルを変えてコーヒーを持って来てくれた。自分はリビングの絵を眺めていた。優しい美しい絵だと思った。田所が、

「俺はおまえに会ってから、本当の意味で生きてるてことを実感することが初めて出来たんや、おまえの痛み方が俺と似ててな、痛みは孤独を極めてた、けど同じ痛み方、そんな痛み方が出来る奴が居ることが嬉しくてな、」

「あの日の公園での話しか?まあな、お互い自殺企図者同士の状態だったからな、俺もあの日から変われた。」

2人とも黙り、暫くの間が過ぎ、田所の家の電話が鳴った。田所が出て、受話器と自分を交互に指差し、自分への電話であるようで、警察署からかなと思ったら、綺麗な声の女性からだった。名前は静森と言っていた。あなたは自分を知らないというか覚えてないことは分かるのですが、私は自分のことは良く知っている旨、急で勝手で申し訳ないが現在、以来川駅の隣駅のビジネスホテルに泊まっている、明日にでも以来川駅付近の喫茶店なりで、自分と会えたらという用件だった。記憶を喪失している自分である、おかしな話しでは無く、力人の死により白紙だった記憶に少し亀裂なようなものが入り、力人との子供の頃の思い出の映像はありありと蘇り、またこの静森という女性からまた新たな記憶が蘇るかも知れないと思い、明日の13時に駅付近のアマンダという喫茶店なる所で待ち合わせすることになった。田所が、おまえに女から電話があるとは珍しいなと言い終えるかのとこでクシャミをした。声の感じからすると静森という女性は30代前半くらいかなと思った。まだ精神、体ともに疲労が抜けておらず、今日はゆっくり休んでと明日の漠然としかならない感覚を前に、コーヒーばかりを飲み過ごした。田所は終始上機嫌で、昼飯に冷凍の餃子を、夜はカレーを拵えてくれた。美味かった。21時頃に眠ったと思う。夢で静森という女性の声が白い光に響きを移す、美しい抽象的な夢を見た。朝6時に目が覚めた。田所はまだ眠っているようでなら、今朝は自分が朝食を作るかなと思ったが、昨夜のカレーがまだ結構残ってたので、それを温めて食べた。田所もカレーが食べたいだろうと思い。コーヒーを淹れるまでだけにした。よく晴れた朝だった。普段は吸わないで置いているタバコが急に吸いたくなり、表に出、コンビニで適当な銘柄の物を買い、吸いながら帰った。旨くはあったが、まあたまにでいいものだと思った。朝日が心地良かった。

8.

12時15分位に田所宅を出て、駅の方に向かった。蝉が鳴いていたが夏の盛りは過ぎたなと感じた。ネットで喫茶アマンダの場所を確認したら、駅裏だった。オレンジと黄色の間の色の回転灯の付いたアマンダという看板を認め、板チョコみたいなドアを押し店内に入った。カランカランとベルの仕掛けがなり、店内を見渡すと一番左奥の席に黒髪を後ろで結ったキチンとした佇まいの静森という女性らしい人と目が合い、会釈した。向こうは自分を知っているらしい表情を浮かべ微笑していて、しかし自分は矢張り全くのはじめましての感じしかなかった。もう一度会釈し直し、

「鳴間です。静森さんですか?」

「お久しぶりです、も変ですよね、はい、静森沙也加と申します。お久しぶりと言っても、もうかれこれ18年前以来です。私が15歳の時だったと思います。逸美さんがまだハタチになってなかったように思います。」

自分は率直に、

「静森さんと自分はどういった関係だったのですか?」と聞いた。

「逸美さんに私からの一方的な片思いでした。当時、逸美さんは夢を持ってらして、その夢を叶える為に、今は彼女なんてものは考えられないと、3回断わられました。」

静森というこの女性はとても綺麗な方で自分は何て気の毒なことをしたのかと、うら若い自分が静森さんの中で、半端に格好を付けてる姿の記憶を想像し、少し恥ずかしくなった。

「あなたの様な綺麗な方からの想いに応えなかったなんて、阿保でしたね、ご結婚はされてるんでしょう?」

「はい、4年前に、旧姓は出水(いみず)です。」

少し残念でもあったが、幸せそうで、安心があった。

「ところで、どんな用件でのことだったのでしょうか?」

静森さんは、少し暗く俯き、

「実は私最近、毎日のように逸美さんが夢に出て来られて、逸美さんが自分で炎の中に飛び込んでしまう夢を見てばかり居まして、鳥角さんて方はご存知ですよね?その方から逸美さんの居場所を変な手紙のようにも感じましたが、逸美さんのお母様と鳥角さんのお母様がお友達と手紙にあり、田所さん、田所秋喜さんて有名な絵描きさんですよね、逸美さんがその田所さんの所に身を寄せてるとも知らせて頂き、電話番号も書き添えて下さって、逸美さんに何かあったら悲しく、懐かしい想いも募り、思い切ってご連絡をさせていただきました。迷惑でしたら、本当にすみません、」

「迷惑だなんて、全然です。」

と自分は、また角鳥、力人?混乱しそうになったが、自分の記憶を呼び覚ます切っ掛けを静森さんから聞いたり、体感出来るかも知れないという強い気持ちがし、質問してみた。

「自分はどんな夢を持ってたのですか?」

「歌手です。逸美さんはとても昔から歌声が綺麗でした。間違いなく叶うと皆んな思ってました。」

自分は力人との写真を思い出した。センスの全く無い派手なだけの真っ赤なスーツ、紫のネクタイは酷いと思った。

「今はどんなお仕事をされてるんですか?」と聞かれ、無職とは言えないなという自分の見栄を恥ずかしく思いながらしかし、田所のマネージャーですと、方便をした。家に戻ったら田所に実際申し出ようとも思った。自分は現在日常で歌うことなど全くすることが無く、意外な心情のまま、続けた、

「自分の記憶が消えた前後のことで何か知ってることがあったらと思うのですが、」

「いえ、存じ上げておりません、逸美さんが失踪したと言う話しを聞いた、その1年以上前から逸美さんと私は疎遠になってまして、ただ力人君をかばう為のような話しを聞いたりはしました。」

「力人を、」

自分はまた角鳥と力人が酷似していることの奇妙さに不快すら感じるくらい、何か嫌な予感が胸を占領してくるものを感じた。

「逸美さんが書かれた曲で確か、こんな歌詞のものがありました。赤いFIREが消える頃、失って行く事にこそ、我を見つけて乾かしまた火を放つ、炎の中の真実を、」

「?よく分からない歌詞ですね、笑」

「とっても深いと思います。当時逸美さんは何かに取り憑かれたような神々しさがありましたから、素敵でしたよ。」

自分は若かりし頃の自分を思い描いてはみたものの、赤いスーツに、?な歌詞で取り憑かれてるような自分が唯のキグルイとしてしか思い起こせなく、恥ずかしいばかりになった。

「こんな話しをと思うのですが、ニュースでも報道されたみたいで、ご存知かとは思いますが、力人は自分で命を絶ってしまいました。力人の事を少し教えて頂けたらなと、」

静森さんからあからさまに血の気が引いていき青くなり少し震え、不自然に、

「私、今からちょっと大切な用事がありまして、うっかりもうこんな時間、お支払いは私がさせて頂きますので、ありがとうございました。またご連絡させて下さいますか?」

自分は、ただ、はい、と答え急に足早に去って行く静森さんを見送った。ただ、力人の話しから急に顔色が変わった静森さんからの印象から、やはり力人と角鳥に間違いなく何か、ただならぬ事が潜んでいる気がしてならなかった。

帰り道、歌ってみた。赤いFIREが消える頃〜♪ひたすらダサく感じた。田所に帰ったら歌ってみて感想を聞きたいと思った。夜もカレーが食いたいと思った。?炎に飛び込む自分。?である。

9.

角鳥、ひたすら奇妙な不快感が募り出して、今日はもう夕方になってしまっていた。力人の死に対して自分の激情は真実であり、記憶の映像も蘇り、力人は自分の弟である事に間違いなく、なら角鳥が力人と酷似している何とも言えない、奇妙さにずっと引っかかる自分は、母からの手紙に全てが書いてある気がしてきて、母からの手紙を開封してみようかと思い始めていた。外出していた田所が戻って来て、自分に手紙のようなものを渡して来た。駅で声かけられてと田所は首を傾げながら、あくびをした。鳴間逸美様へ、角鳥力也より、と書かれていた。あっ!と思った、力人、力也、双子何だと、つまり角鳥も自然自分の弟となる。答えが出て安心した。封筒を開けて中のから便箋を取り出し開いてみた。ただひと言、

「兄ちゃんありがとう。」と書かれていただけだった。瞬間に角鳥、自分の双子の実弟、力也の死が頭をよぎった。田所に、何処でこの手紙を貰った?と切迫を隠せず、田所に詰めてしまいながら、田所は自分の尋常のなさを察知し、簡潔に、駅裏アマンダ付近とひと言で答えてくれた。自分は勢いあまり、自分はバランスを崩すくらいに全速力でアマンダに向かった。角鳥はいた!赤いスーツだったから直ぐに分かった。力也、と声に落ち着きを意識して出来る限りの慎重さで、力也に話しかけた。力也は泣いており、兄ちゃん、と抱きついて来た。自分の身体に暖かいものが一気に一息に流れ込んで来るのが分かった。それは弟に抱き着かれた喜びだった。しかし、力也は変に震えだし、自分のシャツに喀血した。自分は一瞬で絶望した。力也は力無く膝から崩れるように落ちた。力也ぁあ‼︎と自分は叫び、周りの通行人に救急車を‼︎と叫び、唯、ひたすら泣いた。救急隊員は、出来ることはしますが、とだけ告げ、同乗した自分をなだめ、病院に着く頃にはもう力也は絶命していたらしく、自分は唯、放心するだけしかなかった。大量の農薬なりの毒物を飲んだらしいとの医師からの話しだった。自分は17年間の自分のただならぬ、何かただならぬ不始末を感じずにはいられなかった。壊れてしまいそうな罪悪感の前では放心する事しか出来なく、田所宅にどう辿り着いたのかも記憶になかった。力人の葬儀も力也の葬儀にも自分は出なかった。出れなかった。無理だった。臆病だからだった。17年も失踪したまま実家を顧みる事など一度も無く、自分にはそんな価値は無いと思った。自分の父は物心がつく前に他界していた。母の訃報は5ヶ月前にとある方が知らせてくれた。力人、力也。今更に大切なことに気付いている自分に対してのどうしようも無い怒り。母からの手紙を読む事にした。


10.

「前略、いかがお過ごしかと思っております。母は体調を崩し、もう元気には戻らなくなりました。あなたが家を出て消息を絶ってから今年で17年となりますね、月日が経つのは早いです。あなたは17年前に、20年分の記憶を失いました。お医者様からは強いショックからのもので一過性の場合もあり、また一生戻らないかもとも、どちらともはっきりとしたことは言え無いという診断を頂きました。逸美は自分自身が何者なのか分からなくなっていたのが痛いほど分かりました。弟の力人と力也、力也は母の子供の無いお友達の家の後取りとして16歳で養子に迎えて貰うことになりました。生まれつきなのか、私がわるかったのか、力人、力也は線が細いまま大人になりました。今でもあなたは記憶を失っていることは、角鳥さんという方の広い付き合いからの力をお借りし、少しだけ、あなたの身辺を探らせて頂きました。勝手なことをしてすみません。ふたりとも情緒不安定さが強く、力人、力也のふたりともが15才の年の同じ日に別々の場所で自殺を図ってしまいました。なあなたが記憶を失ったのは、その事からのショックからでした。ふたりの遺書には、兄ちゃんなんか死んでくれ、あかんなら俺が死ぬ、と同じことが書いてあり、あなたは記憶を消すことで、自分を守ったのかも知れません。残酷なことを、あえて書くことには意味があります。まだしばらく付き合って下さい。その後ふたりとも罪悪感に苦しみ、ふたりともやはりとてもまともとは言えないようになってしまいました。力也は16歳で家を出る方がいいと自ら小さい時からあった養子への話しに答えました。自殺を図って1年後のことになります。母は何故ふたりが、あんな乱暴な遺書を書いたのかは、分からないままです。母はもう少ししたら楽になってしまう体です。子供の頃あんなに仲が良かった3人です。今、力人も力也も行方不明です。唯々、あなた達を愛しています。残酷な手紙ですが、兄のあなたが記憶を取り戻し、大丈夫で元気な姿で力人と力也の心を救ってあげて下さい。母からのお願いです。あなた、力人、力也の3人揃った笑顔をまた見たいです。」


11.

自分は唯々、少し読むのが遅かったことを悔やむだけだった。力人、力也、母はもうこの世にいない。頭の中に炎が唯、轟々と、もう冷め無い事を唯知る。力人、力也は出水沙也加という同級生に恋をしていたのだろうと思う。力人、力也の17年間の罪の意識は、狂気として育ち、失踪した自分の罪の中でふたりの命は終わった。俺は、田所の自室から、もう2度と一歩も出れなくなった。戸外に出れば間違い無く、自分の命を絶ってしまうだろう。それでは、あまりに田所の俺に無償としてある大切な情に、背く。俺は唯々、毎日、あの母からの手紙を手にした日の無法と狂う炎と。


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