表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワンダラーズ 無銘放浪伝  作者: 旗戦士
第四章:傾国の姫君
68/122

第六十七伝: 誇り

<南の大通り>


 雄たけびを上げながらハインツは手にした愛剣を握り締め、一番最初に差し迫るミノタウロスの脳天へ斬撃を叩き込む。

魔物特有の紫色の返り血を浴びながら剣を引き抜くと密かに抜いていた短剣を目玉に突き刺すと、彼は後方へ飛び退いた。


悲鳴のような咆哮が周囲に響き渡るも、他の魔物たちは刺激されたようにハインツへと迫り来る。

上方からやってきたガーゴイルの突進を飛んで避けた後、地面に突き刺さった三つ又槍の口金を踏みつけて動きを封じた。


「二体目ッ! 」


騎士剣を横一文字に薙ぎ、灰色の肌を携えた悪魔の首を落とす。

背後から迫り来る殺気を本能的に感じ取るとハインツは身体を一回転させてもう一体のミノタウロスの背に飛び乗った。

首元に剣を突き付けて止めを刺し、三体目の魔物を仕留める。


しかし、いくらハインツが手練れと言えど圧倒的に魔物の数は多い。

魔物へと変異を遂げたヴィルフリート国王の魔力は相当に濃いものなのであろう、王城の周囲をドス黒い雲が包んでいた。


自分は決してあの王に忠誠を誓った訳ではない。

騎士とは国に仕え、民の為に働いて国に尽くす。


その考えは今でも自身の信念として胸に抱いている。


不思議とハインツの口角が吊り上がった。

国の為に戦っていると実感できる今こそ、一番生きていると感じられたから。


「どうしたァッ!! そんな事では私を殺せはしないぞォッ!! 」


先に逃げ果せたレーヴィンたちを守るように、ハインツは対峙した無数の魔物の群れを挑発する。

先ほど仕留めたミノタウロスやガーゴイルの他にも、体毛に身体中を覆われた魔物・オーガや緑色の鱗に覆われたリザードマンとった面々も揃っていた。


首を斬り落としたガーゴイルの槍を拾い上げ、そのまま群れに向かって投擲する。

リザードマンの胸部を貫いたことを確認した彼はその群れの穴へと飛び込み、リザードマンの古ぼけた剣を手にした。


「でぇぇぇぇぇいィッ!!! 」


無我夢中で四方八方に立ち塞がるミノタウロスやリザードマンを屠り、オーガの股下を駆け抜けると同時に足の健を切り刻む。

体勢を崩したオーガの背中を駆け上がり、空中で身体を回転させながら唐竹割りを叩き込んだ。

止めを刺した魔物が地面に倒れる寸前でハインツはその場からいったん離れ、大通りから移動する。


流石にこの量の相手は多勢に無勢だと読んだ結果であった。


城下町の路地裏へと入り込んだハインツの後を魔物たちは本能の赴くままに追い始め、その牙に獲物を捉えんと狭い路地に殺到する。

群れの半分が路地に入ったと見込んだ彼は走っていた道に踵を返し、まずは上空に飛んでいたガーゴイルを叩き落とした。


甲高い鳴き声と共にガーゴイルは地面にたたきつけられ、同時に剣を心臓に突き刺される。

そして素早く槍を奪い取るとハインツは次の動作でミノタウロスの眉間を穂先に捉えており、2メートル近くあった巨体を一撃で地に伏せさせた。


「はァっ!! 」


一体ずつと戦っている時間はない。

そんな事をすれば瞬く間に囲まれ、袋叩きに遭ってしまう。


故の一撃離脱。

戦場で培ってきた経験を全て活かし、ハインツは再び細い道を駆ける。


死ぬ訳にはいかない。

もう一度、憧れだったレーヴィン・ハートラントへと近づくために彼は初めて自分の命を懸けて他人を助けた。


自身の事を自己中心的と蔑む者もいるだろう。

だが、自分はこのやり方でしか意志を貫く事を知らない。


追ってくる魔物の群れを威嚇するかのように、ハインツは今一度咆哮を上げた。


「退けェッ!! 私の道を阻むなァッ!! 」


目の前に立ち塞がったリザードマンの細長い頬を籠手で殴りつけた拍子に曲刀を掠め取り、背後から飛び掛かっていたオーガへ身体の方向を変える。

その拍子にもう片方の手に握っていた騎士剣を横一文字に薙ぐと、リザードマンの首を胴体から切り離した。


対面したオーガは向かってくるハインツを迎撃しようと毛むくじゃらの左腕を振り上げる。

反撃の狼煙を上げるかの如く曲刀の切っ先をオーガの掌に突き刺し、そこを支点にして懐に入り込んだ。


「本能だけで生きている貴様らなどに、負けるものかァッ!! 」


糸の切れた操り人形のようにオーガの身体からは生気が失われ、ハインツは渾身の蹴りで地面に叩き付ける。

オーガの背後にいた幾多もの魔物が押しつぶされ、紫の液体を周囲に飛び散らせた。


次はどこだ、と言いかけた瞬間にハインツは周囲に視線を向ける。

ハインツの姿に臆したのであろう、生き残っている魔物の姿は見当たらない。


興奮状態から覚めたのか、ハインツの全身に重りを着けられたような重圧が圧し掛かった。

肩で息をしながらその場に座り込み、血濡れた石の壁に寄り掛かる。


「はァッ……はァッ……」


こんなに剣を振るったのは久々だ、と自嘲気味に笑みを浮かべた。

右手に握っ愛剣へ視線を落とすと黒い装飾が施された十字型の鍔でさえも紫色の血痕が付着している。

首を垂れながらハインツは視線を戻し、虚空を見つめた。


ようやく息が戻った所で彼は立ち上がる。


その時だった。

彼の座っていたすぐ傍の裏路地から、足音が聞こえたのは。


直ぐに神経を再び張り巡らせ、剣先を音の方向へ向けながら素早く身を乗り出した。

しかし、そこには予想外の光景が広がっていた。


煤で汚れた服に身を包み、茫然とした表情でハインツを見つめる赤い髪の男の子が彼の姿に怯えながら地面に尻餅をついてしまう。

ばつが悪そうな顔を浮かべながら騎士剣を腰の鞘に仕舞いこみ、ゆっくりと膝を着きながら子供に近づいた。


「安心してくれ。君を助けに来たんだ。私は敵じゃない」

「……あ、あぁっ……」


優し気な声を掛けた瞬間、男の子は両目に両粒の涙を浮かべながらハインツの胸へと飛び込む。

彼を落ち着かせるように背中や頭を撫で、ハインツは前方へ視線を傾けた。


そこには胸を一突きされて死んでいる女性が地に伏しており、彼の頬にも血の跡が付いている。

おそらく彼を魔物から守る為にあの母親が身を挺して庇ったのであろう。


「……もう大丈夫だ。一緒に安全な所へ逃げよう。君の母親が残念だが……」

「ううっ……お母さん……」


彼を胸から引き離し、頬に着いた血を優しく拭い始めた。

瞬間、大通りへと続く道から片腕だけを失ったリザードマンが現れるがハインツは気づかない。

男の子だけが突如として現れた魔物の姿に気づき、恐怖の表情を浮かべた。


「お兄さん!! 後ろッ!! 」

「何……ッ!? 」


咄嗟に背後へ振り向くも、ハインツの眼前には既に剣を振り上げている亜人の姿が映る。

男の子を守ろうと彼の身体を後方へ突き放し、庇うようにしてリザードマンと対面した。


無論剣を引き抜いて刃を目の前の魔物に突き付けるも、一歩相手の方が速かった。

リザードマンの曲刀はハインツの鈍色の鎧を易々と貫き、腹部に熱した鉄板を当てられたような激痛が走る。


しかしそれで黙っている彼ではあるまい。

抱き合う形でハインツはリザードマンの腕を掴み取り、剣を握った腕を振り上げる。


彼の剣は魔物の急所を突き、一瞬で命を奪い去った。

力なく地面に倒れる魔物を蹴り飛ばし、剣が刺さったままハインツは壁に寄り掛かった。


「あぁ……そんな……! ごめんなさい、ごめんなさい……っ!! 僕の、僕のせいで……! 」


駆け寄ってきた男の子の頭を撫で、ハインツは力なく微笑む。


「い、いい……んだ……。君を、守る事が……出来た……」

「今助けを呼んでくるからっ! 死なないで、お兄さん! 」


立ち上がって人を呼ぼうとする男の子の腕を引き留め、彼は首を横に振る。


「君の、名前を……」

「……フェイト。フェイト・エクスヴェルン」


赤髪の少年――――フェイトは泣きそうな顔でハインツを見つめた。


「そ、そうか……フェ、イト……。よく、聞く……んだ……。この先、に……大通りが、あるのは……分かるな……」

「もう駄目だよ、喋っちゃダメ! 」

「そこ、を……真っ直ぐに進め……。助けて、くれる……人たちが……」


ハインツの視界は段々と霞んでいく。

元気づけるように笑みを浮かべるも、顔に力が入らない。


だが、最期に騎士としての役割は果たせた。

レーヴィンの言った、手に届く命を守る事が出来たのだから。


自嘲気味にハインツは笑う。

皮肉にも、彼は最期に騎士としての本懐を取り戻せたのだから。


そこで、ハインツの意識は途切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ