ドラゴンとゲーム
前回のあらすじ
「別国からの緊急依頼と彼女の依頼内容が重なった。王は面倒に思いながらもジンを隊長に捜索隊を派遣する。暇になった王とドラゴンは…」
国の兵士の朝は、早い。
総帥であり、王の護衛隊長であり、兵士全ての稽古を指導するジンが早朝の訓練を必ず行わせるためだ。よって、日が登り始めると同時に兵士は王城の中央、広く空いた空間でランニングや木刀を振る稽古を始める。それが終わり次第各々の仕事を始めるのだ。
ジンが王直々の命により国を出たこの日も稽古は欠かさない。日が昇ると同時に起き、稽古し、仕事を始める。ジンが普段行なっていた仕事は兵それぞれが分担し作業することでなんとか成り立たせている。
その中に、王へのスケジュール確認の作業も含まれていた。
一人の兵士はあらかじめジンから渡されていたメモを片手に王室へと向かう。王は普段から返事をしないと伝えられていた兵は王室の扉を叩くと、開いた。
「王様、おはようございます。ジン隊長に代わり今日のスケジュールの確認をーー」
「しゃー!!また俺の勝ち!お前ほんとザコな!ザーコザーコ!!」
「は、初めてなんだから少しは加減してよぉ!!」
…一般的に
国の最高権力者である王はこの時間にはすでに身なりを使いによって整えられ、完璧な準備を元に凛とした振る舞いで兵士からの伝令を聞くのが普通だ。
ーーが、この国の王は一般的などという概念など存在しなかった。
普段から散らかっている王室が更に足の踏み場も無くなくなっており、カーテンの閉じられ日が出ている時間にも関わらず真っ暗な空間。
その中で、液晶画面の光だけが灯っていた。
兵が少し足を踏み出しただけで何かしらのゲームソフトに当たる、典型的な引きこもり部屋となってる王室に…
「だーから何度も言ってるだろ?コンボを繋げるんだってば。そのキャラはダッシュパンチからの空中コンボが強いんだってば!」
「お、押してますよ!でもなんか変な動きするんだもん!」
「典型的な下手くそのいいわけありがとござまーす!でも負けは負けなんだよバァァカ!!」
「くぅ、ムカつくぅぅ…!!」
目の下を黒くし、パジャマ姿で液晶画面を近距離で見ながら叫んでいるバカ二人がいた。
服装が昨日から全く変わっていない二人の近くにはこの国のお菓子のカスが散らばっている。広いベッドには寝る場所もすでになく、人が座った今の彼らの元へ道のように跡が付いていた。
無論、王とドラゴンである。
どうやら対戦格闘ゲームをやっていたようで、大きなテレビ画面には彼女が操作していたと思われる怪物が騎士によって倒されるシーンが映されている。
王は勝ちを宣言すると、すぐ隣で正座しているドラゴン女の肩をバシバシ叩き、「もう一回もう一回だけやろう!!」とドラゴンは王の肩を揺らしながら悔しそうに叫んでいた。
これはどうしたらいいんでしょうか…ジン隊長??とただ固まり続けることしかできないまま心の中でジンに泣きたく兵士には気付いてすらいない。
「じゃあまた罰ゲームな!変顔はやったしセクシーポーズもやったし~次は…んー、じゃあ、膝枕!」
「うぅ…はい、どうぞ…!!」
どうやらゲームに勝った方が罰ゲームを決められるというらしく、彼女が両手を広げ空いた膝に王は顔を乗せた。悔しそうに拳を握るドラゴンは再びその手をコントローラーへと伸ばす。
「おぉ…!ドラゴンだから硬いかと思えばそこは女子なんだな、柔らかーー」
「ーーっ!ほらほら、もういいですよね!次は勝ちますから、ほらほらもういいでしょ早く準備じゅんびっ!!!」
「おぉおーーあだっ!?おま、力だけはバカみたいにありやがってからに…!!」
少しだけ顔を紅くしながら王の頭を勢いよく吹き飛ばすドラゴン女。
テレビ台の角に頭を打つけてしまい悶えていた王は、なんだかんだ言いながらもすぐにコントローラーを持ち直し彼女の横へと座り直す。ゲーム画面から「fight!」と音が鳴ると同時に2人はテレビ画面に釘付けとなった。
この様子を国民が見たら暴動が起きてもおかしくないなぁ…と苦笑いを浮かべつつ、兵士はそんな王を、国民に立派そうに見せているジンに感服していた。
…ちなみにこの二人、一日前にかなりシリアスな会話をしていたはずなのだが、どうしてこうなったのか。
それはジンが敵の場所を捜索に出たものの数十時間の話に遡る。
ーーーーー
〜数十時間前〜
「あの、私はどうしたら…?」
「別にお前になにができるわけでもなし。テキトーに時間つぶしとけよ」
「…はぁ…」
ジンが魔王軍幹部の居場所を捜索するため国を出て数分、彼女はオロオロと王室を歩き回っていた。
自分の妹を今すぐにでも助けたい、しかし今できることは何もない。その羽交い締めにされたような感覚がドラゴンをじっと座らせていない。ベットに寝転んでいた王の目の前をスカートが何度も行ったり来たりしている。
「おい」
「あ、は、はい!」
「落ち着け」
「…ん、うん」
ゲーム画面から目を離さずドラゴンに冷たく言う。
ドラゴンはそう言われて動きは止めたものの、落ち着けるわけもなくきょろきょろと部屋見渡した後、ゆっくりと王のベッドの端に座った。
王は足元に少しずしりと重みを感じはしたものの特に気にした様子もなくゲームに没頭する。
ーーそんな隙だらけの王に、ドラゴンは疑問に思う。
「その、いいんですか…?」
「んー?なにがよ??」
「私が、あなたのそばに居ても、いいんですか…?」
彼女は、今は人間の形をしているもののこの世界最強と謳われこれまでの歴史上たった10匹しか確認されていないドラゴンなのだ。彼女が本気で暴れ始めればこの国などものの数分でチリひとつ残らない荒野に変えられてしまうだろう。
そんな彼女に背を向ける一国の王など聞いたこともない。
「昨日だってそうです。あなたに本当の姿を見せてもなお私の前に立ちました。貴方がいくら実力があったとしても勝てないのは目に見えていたはずです。…なのに、なぜ私に背を向けるの??
どうして私を警戒しないんですか?」
彼女は、自分の武力を誰よりも理解していた。ドラゴンを自国が所有したと他国に知られれば、それだけで全4カ国だけでなく魔王軍にすら圧力をかけることができると言うことを。
だから彼女は王が明らかにそんなこと考えていないこの状況を不審に思うのだ。
話をゲームをしながら聞いていた王は「ん〜…」と口も開けずに答えるとぽつりと呟くように声を出した。
「飯奢ってもらったしな〜」
「え、そこなんですか…」
王の意外すぎる理由にドラゴンはガタッと体勢を崩した。もっと何か深い理由があるのかと少し期待していた分期待はずれもいいとこだ。
王はため息をつくと、一度ゲームを止めてドラゴンを方へ体を向ける。
「はぁ〜……なんだ、お前俺を殺してこの国を滅ぼしたいのか?」
「え、そ、そんなわけないじゃないですか!こんな綺麗な国を私が…!!」
「んじゃ、俺を殺したいわけ??」
「そんなわけ…!私は人を殺すとか傷付けたりするのが、大嫌いだから!あなたを殺すなんて…!」
「じゃ、問題ないじゃん」
王はすぐにまた寝転ぶと、ゲームをし始めた。足をパタパタさせながら彼女から再び背を向けた。
「そ、そんな簡単に信用するんですか…?」
「信用っていうより俺が少なからず知ってる『お前の性格』を考えた結果だ。…ああいや、カッコつけて言って見たけどそんな難しい話じゃないんだって。
お前昨日、女の子助けてたじゃん。
そんな奴が力持ってるからって人に迷惑かけようなんて思うわけないだろ?お前がしないって言うなら、俺はお前の何に怯えろっての…おっし、クリア〜」
王は高速でコントローラーを操作しながら話す。もうすでにドラゴンのことなど見ていない。深く考えずにテキトーに言っているのは明白なのだが…
ドラゴンは、初めて言われた『信じる』という言葉を声には出さないものの、口を動かしてもう一度繰り返していた。
彼女にとって、その言葉は少しだけ、他の人間が感じるよりも少しだけ違った意味が込められているのだから。
ーー『貴方みたいな化物の言うことなんて誰が信じるんでしょうね?対等に話してくれる人間なんているわけがないでしょう?』ーー
「………………。」
彼女の生まれ育った国での思い出が彼女の中に蘇る。いつもは顔を覆ってしまうような思い出だったが、今日は違っていた。
そんなことないです…多分、と少しだけ反論できたから。
「……それ、何やってるの?」
「ん?ゲームだゲーム」
「げーむ?」
彼女は彼の方へひょこっと顔を覗かせる。初めて自分の意思で、小型ゲーム機の映像を覗き見た。そこにはーー
「…私が死んでます」
「おう、倒した」
「!?」
ゲーム機の中では龍が騎士によって倒され、騎士が高らかに剣を掲げる映像が映されていた。映像の質から仮想の世界で行われた戦闘であることはドラゴンにも理解できたが、だからといって自分がたった騎士1人に倒されるなど想像もできない。
「お前もしかして興味アリ?」
「へ?」
そんな複雑な目線を送っていると、それを興味があってずっと見ていると王は勘違いしたようだ。くるっ!とドラゴンの方へ向き直るとゲーム機を彼女の顔の前にぐいっと近づけた。
「そっかそっか!興味あるんだな!いやぁ趣味の合う知り合いこの世界にいないから困ってたんだよ!ささ、テレビゲームなら2人でできるからやるぞやるぞ!!」
「え、え、でも私…初めて見るんですけど…?」
「あーそっか、こっちにはそもそもないんだもんな。…よし!お前にゲームの極意を教えてやろう!!ほら、もう一個コントローラやるから早くしろ!」
「え?…えぇえ!?」
押し売りのような流れでドラゴンに詰め寄る王。ベッドから飛び降り部屋の隅に置かれた27インチのTVの電源を入れる。
他にすることもなかったドラゴンは、戸惑いながらも差し出されたコントローラーを手に取り
そして…
ーーーーーー
「お前なぁ…!!だーから言ってるだろうが、そいつは下押しながら○押して空中に上げてから連打するんだっての!」
「だーからやってますってば!でもでも、出来ないんだからしょうがないでしょーに…!!そこまで言うならキャラ変えて戦おう?」
「おぉ、それ名案!」
それから数十時間。ゲームにどっぷりハマってしまい廃人のような2人が出来上がったのでした。
兵が来てから30分、未だに兵が来たことすら気づいていない。しかし飽きもせず何度も何度も対決している。
(…ジン隊長。私にはこの2人を動かすなんてこと、出来ませんでした……)
1人、部屋から出すどころか気づかれもしない兵士は、アホ2人が再び仲良くゲームをし始めるのよそに、落胆しながら扉を閉じるのだった。
「あ、負けた…」
「ほーら、私が弱いんじゃないんですよ!罰ゲーム!罰ゲーム!!えっと、お菓子買って来てください!」
「くぅぅ…!買ってくるまでドラゴン操作の練習でもしてろアホォォォ!!」
「……ふふ、楽しい♪」
…早く書ける力が欲しいです。