彼女の本当の姿は…
前回のあらすじ
「王、自分の失態に気づく。
自身の街を破壊することに加担したことがバレないように彼は走る」
彼女は暗く広い空間に立ち天井を見上げる。
長く見上げた暗い空間は、次第と目が慣れてたこともあり円状の鉄天井がよく見れていた。
彼女の耳が、遠くの騒動を聞き取る。タイミングは、今だった。
「ーーはぁ…はぁ…!」
これから自身が行うことを深く考えないように、首をぶんぶんと振る。一瞬で終わる。そしたらまた、楽しかった生活が帰ってくる。そう信じて彼女は自身の力を使うと決めた。
「待っててね。必ず、助けるから…!」
もう一度『彼女』のことを思い出し決意を決める。すぅ…と深く吸い込むと勢いよく力を――
「ちょちょ、ちょっと待ってちょっと待ったぁぁぁああああ!!」
「!?」
暗闇に、彼女以外の声が響いた。ビクッと驚き思わずスカートを握りしめ辺りを見渡す彼女。こんな早朝にこんな場所にほかの人がいるなんて誰も思うはずもなく、彼女は入り口の方に立つ一人の人間をすぐに見つけた。
それは、昨日見たパジャマ姿の男だった。
「あなたっ、昨日のーー!」
「あーやっぱいたな…!ちょ、待って。暗すぎてなんも見えん…お前どこいるの?」
「あ、え、えっとあなたの左隣ですけど…」
「ぬ、こっち?」
「…こっちです」
キョロキョロわたわたして他所の方を見る王に、苦笑いを浮かべながらぽんぽんと叩く。
ぼんやりと彼女の位置を理解した王は、真っ暗闇を見ながらふんと仁王立ちし指をさした。
「あいや待たれいお嬢さん!わっしが来たからにはそんな野蛮なことはさせられねぇのよ!」
「…なに言ってるのか全くわからないんですけど、何をしに…?どこか遠くへ行ってとお願いしたのに…」
「……。」
自分でかっこいい台詞だと思っていた分、王は軽く返されて少しへこむ。…が、すぐに本題を思い出した。
「街破壊すんのやめて欲しくて。俺が凄く困るからやめてくれない?」
「それは…できません。私にはここを破壊しなければならない理由があるんです」
「ですよね〜。あの『使命』ってやつ?」
「…はい」
王は、彼女が飲み屋で話していたことを思い出していた。深刻そうに地図を王に見せ、破壊の手立てを真剣に聞く彼女。使命だなんてカッコいいこと言っていたこの子はいったいどんな運命を辿るのかなどと思いつつ
そんな彼女を思い返しーー
(…あれ、そもそもどうやってここ破壊する気なのこの子?)
疑問が生まれた。
先ほど焦りや疲れで考えることも忘れ、彼女がこの街を破壊できるものだと確信して走ってきたのだが。
実際どうやってここ破壊するのか、王は全く知らないのだ。
そもそも女手一人で街を破壊できるとは思えない。そもそも大の大人が「破壊します」と言っても信じられないことを、どうして信じてしまったのか。
冷静な人ならば簡単に理解できることを、王は今になって思い立ったのだった。
つまりこの子は破壊する気もないのに自分を『寝る幸福』から引き落としここまで走らせたということだ。そう考えると腹も立つ。
はぁ〜と頭をかきながらため息をつく王に彼女はちょこんと首を傾げた。
「…ってかさ~、女一人でなにしようってのよ?お前昨日見た感じだと全然弱そうだし?ゴブリンをそもそも呼び出すなんて芸当も出来るわけないし、はぁ〜本当勘弁してくれよ」
「…なにをいってるんですか??」
「いや、だからね?お前が俺に嘘ついたんだろって言ってんの。街破壊するだの使命だのなんだのと俺を騙してからかって遊んでたわけだ。はぁ〜心配して損した」
「え、か、からかってなんてない!嘘も言ってないよ!」
「はいはい、じゃーどうやって街破壊すんのか言ってみろよ。どーせここで破壊さえできれば街は壊せるんだなぁとか妄想してただけなんだろ?出来るってんなら今ここで見せてみろ」
「…わかり、ました」
完全に彼女を嘘つき女だと断定し、皮肉な笑みを浮かべる王。なぜか強気な王に彼女ははぁと呆れたまま頷いた。そして彼女は「あむっ」と自分の人差し指を甘噛みした。
その瞬間、彼女の全身が発光し始める。まるで深海に住むアンコウのように暗い空間を光で照らした。その光は次第に大きくなり、少しずつ形を整えていく。
そして…
思わず目を閉じていた彼が、ゆっくりと目を開けるとそこには…
「綺麗…だ」
金色の怪物が、神々しく存在していた。
巨大な顎、鋭い牙、長く伸びた尾、黄金の強靭な身体。その全てが人間を軽く凌駕している。その身体を持ち上げる翼が一振りするだけで王は先の壁へと吹き飛ばされる。
王は肺の中の空気が吐き出される衝撃に苦しみながらも、その容姿に逞しいよりも先に美しいと語った。
硬い鱗からキラキラとまるで砂のように散る金色の光、神々しいほどの容姿。
その全てが王の視線を虜にする。
『ーー私は、世界最強と言われる
ドラゴン、なんです。
私がただ飛び立つだけでこの水路は破壊され、街を粉々にすることができます。
大人しく非難場所へと逃げていただければ、あなた危害を加えるつもりはありません。早くどこかへ行ってください』
「ーーはは、流石に聞いたことあるぞ。あれだろ、この世界で最強の魔力と最強の力を持ったっていうチートの化物…『ドラゴン』。そっか…そりゃあ破壊なんて簡単だわなぁ…うん、お手上げだわ」
巨大なドラゴンはその頭を王に近づけ威嚇した。王は一度頭をかくと降参と両手を挙げる。ーーが
「…でもやっぱ、破壊だけはやめてくんねぇかな?」
『なぜそこまで?私がこの街を破壊してもあなたには関係ないでしょう?正義感ですか?』
それでも止めようとする彼に、ドラゴンは疑問を口にする。この姿を見せてなお意思を変えない男、正義感と口にはするものの現実的に、怪物の姿を見てもなおするとは思えない。何か理由がある、そうドラゴンは感じていた。
「いやいや、俺この国の王だからさ。関係ないわけじゃないんだ」
『…は?』
――のだが、その答えはあまりにも予想外過ぎた。
美しいドラゴンの目が点になる。王という言葉の意味を自分が間違って覚えているのかともう一度考え直してみたが、王=国王であることは間違いなく、彼が言うことが正しければ彼がこの国の王様であり、最高権力者であるということで間違いない。
だからそれは嘘だ。ドラゴンはすぐに切り捨てようとしたのだが、この場面で嘘をつく理由などない。
信じるしかない、そうドラゴンは判断する。
『え、じゃあ、自分の国を滅ぼそうとする私に協力したのは!?』
「いや、その、それは、ですね…」
『……あの、もしかして、地図が自分の国の地図だと知らなかった…?』
「うん」
『バカですか?』
「うっせーよ!敵の領地にいる人間に攻略法を聞く方もバカだろが!」
『っ!?だ、だって誰も知り合いがいなくて…!』
王の行動を思い返し、呆れ顔になるドラゴン。
先ほどの神々しさはどこへやら、その後慌てふためくドラゴンに次第と緊迫感が薄れていく王。
そんな中、お互いに譲れないという事実をドラゴンは知る。この人を止めるのは自分を止めるのと同じほど困難であると理解した。
――だからこそ
「とにかくだ。俺がこの立場である以上、お前を止めなきゃだめなのよ」
『…どうしても、引き下がってはくれませんか?』
「くれませんね」
『…そう、ですか。…じゃあ、しょうがない――ですね!』
「ーー!?」
彼女は実力行使に走る。
王の視界がブレた。まるで写真の中に映っていたものが一度瞬きをしただけで消えてしまったような、そんな一瞬の差で、
鞭のようにしならせた尾が、王の小さな身体を持ち上げ壁に叩きつけた。
ゴシャッ!と激しい音を響かせ壁を破壊し、王をめり込ませる。あまりの衝撃に目を見開き胃液が吐き出される。王は手に振れる爬虫類のような固い皮膚の手触りを感じ、何とか自分が生きているということを実感することが出来た。
尾ゆっくりと動き壁から離れると、王の身体は重力に従って落下する。
『………。』
動かなくなった王の身体をドラゴンはしばらく見つめる。ドラゴンの姿を見てもそれでも国のために構えた彼は、誇らしいことだとドラゴンは感じていた。彼の王としての器はどうであれ、彼の国のことを考えるその行動だけは王様らしくあったと思う。
『でも、私も、護らないといけないから…』
そして上を見上げ、作戦を実行しようと決意した。
「--…痛いんですけど…!速すぎて、びっくり、したんですけど…!!」
『!?』
そんな彼女の尾を王はつかみ立ち上がる。腹を押さえ、小刻みに息を切らしながら、それでも立ち上がった。
「ったく、ドラゴンのくせに手加減しやがって…!いやむっちゃ痛かったし正直気絶しそうなんですけどそれより一回叩いたんだからもういいだろ!破壊すんのやめろや!」
『そ、そんなこと言われても…!!』
「…ぬぅ!!!あ、い、い、いや、本当にマジでやめて!早く止めてすぐやめてぇ!!あとでたっぷり色々聞いてやるからさぁ!だから今だけは破壊するのやめて欲しい!マジで本気でお願いします!俺が、俺が助けてやるからぁぁぁぁあ!」
『え、え?どうしてそんないきなり…??』
「いいいいから、今急いでるんだ!お前の言い分とかどうでもいいんだよ!!いいから黙って俺に助けてもらえ、な!?お願いもう頷いといてぇぇ…!?」
口を閉じてしまうドラゴンだったが、その返答は突然目を見開いて慌て始めた王が言葉をまくしたて始める。意味が分からず疑問符を浮かべるドラゴンだったが…
『本当に、助けて…くれるの?』
そんな言葉に、ドラゴンの心が揺らいだ。元々やりたくなった破壊。それをしなくても目的が達成できるかもという期待が少しでもあるのなら。藁にもすがる思いでそう尋ねるドラゴンに、王は「…フー!…フー!」と辛そうにしながらも何度もうなずく。
「…ぅ…た、助けてやる、絶対助けるから本気で、あ、ま、まって、あ、もう限界だわ…!」
『げ、げんかい…?』
ドラゴンはゆっくり彼の方へ顔を近づけた。彼の様子があまりにもおかしかった。俯き、なぜか小刻みに体を動かす王。
ーーそしてなぜか、お腹を抑え、股を内側に曲げていた。
「…じ、実は、さっきの衝撃で…お腹が…!!奢りだからって飯食い過ぎた…ぁぁああ!!やばいやばい史上最大級のお腹のギュルギュルが…!!あ、やばいもう無理これマジで出る…!!」
『え…え、えええええええ!?で、出るってその、アレですか!?大ってやつですか!?』
「おお、こっちの世界でも大って隠語なのね…!ぉ、ぉぉおおおおお!?やばいやばい人生最大のビックウェーブが今まさに!!おぉっぉぉ!げん、かいだ、ここ水路だよね!絶対ばれないよねぇ!?」
『ちょ、ま、待って!すぐにお城に運んであげるから、我慢してよ!!ここでするのはやめてぇぇぇえええ!!』
それから
彼女が元の体に戻り、なんとか王を城のトイレへ投げ入れることに成功したのだが、
彼女の計画は失敗に終わったのだった。
ーーーーー
ps
「おい、王…。今なんて言った?」
翌日、王はジンを王室に呼ぶと、高らかに宣言していた。
その言葉はジンが頭を抱える内容、無茶過ぎる彼の絶対命令がもう一度、王の口から発せられるのだった。
「王の絶対命令権を使いたい。
『魔王の幹部』、この国で一人倒しちゃおうよ♡」
一章がようやくおわります