お礼と相談と感違い
3話のあらすじ
「とある事件に巻き込まれそうになり、面倒だと場を離れようとしたのだが、そこに1人の女性が現れたことで巻き込まれてしまう」
pm19:00
「いんやー、悪いねぇ!夜飯まで奢ってもらっちって!」
「い、いえいえ…助けてもらったので。でもそろそろやめてくれないと本当に私のお金がなくなっちゃう…」
公園のドタバタから約3時間ほどが過ぎた今、王とフード女は煉瓦造りの居酒屋のような風貌をした屋台で向かいに座り飯を注文していた。
点々と天井につけられたオレンジの光が薄暗い部屋を照らす中、客はガヤガヤと騒ぎながらお酒を飲み楽しんでいる。中々の繁盛ぶりを見ながら、2人は端っこの2人席に座り、それぞれが注文した料理を待つ。
もちろんこれも彼女の奢りだ。
お礼の飲み物を買ってもらった後も王は彼女を連れ回し、目についた美味しそうな食べ物、綺麗な装飾品などを買いに買いまくった。彼女のお金で。
貰えるもんはとことんもらっとけ主義の王は全く遠慮などなく「助けてやったじゃん」を繰り返し、彼女はしぶしぶ財布の紐を緩めるの繰り返し。日が暮れる頃には彼女の財布は朝の半分近くの重さになっていたのだった。
ーー人間のクズである。
そうして満足げに頬を上げる王と、引きつった口元だけが見えるフードの女性の図が出来上がったのだった。
「んで、お前、えーっとなんだっけ?大事な用があってここに来たとか言ってたけど」
「はい。…どうしてもやり遂げなければならない、使命があるんです」
ガツガツと人のお金で頼んだ料理を両手で頬張りながら彼女の話を聞く。彼女と街を周る間、彼女についての話をちらと聞いた。
この国に大事な用があってここに来たと言う話だ。
王はパスタをフォークに何重にも巻きながら「使命…ねぇ」と呟いた後パクリと一口。人の奢りで食べるごはんは格別だと改めて思う。
「ま、結構食わしてもらったし、話の相談くらいなら乗ってやるよ。話してみな」
「え?いやそれは…あまり他言してはいけないとーー」
「いいから言えって」
「…うん」
いつの間にか、主従関係ような形に収まる2人。
王の命令のような言葉に、フード女は肩に下げたポーチからとある地図を取り出し机に広げた。
「貴方って《ここ》に詳しかったりしますか?」
「ん?これは…地図か?」
彼女が取り出した紙には中央に城、その周囲に様々な店や家が立ち並ぶ地図が書かれていた。家や店の間に数多くある水色の太い線が特徴的である。
「実は私…《ここ》を破壊しに来たんです」
「破壊ぃ?」
王はその普段は聞きなれない言葉を繰り返し、彼女が何を言いたかったのかを考える。
城、城下町、破壊。この三つのワードから王が連想したのは…
「あぁ、これもしかしてあれか?異世界の城ダンジョンってやつ?懐かし、よく攻略してたわ」
アクションゲーム。いわゆるファンタジーゲームのダンジョン攻略だった。
城に住まう王を魔物を使って撃退するよくあるゲームだろう。彼女はきっとゲームマニアで、とあるゲームで行き詰まっているんだろうと王は判断する。
「え、貴方はよくするんですか!?」
「おう。こういう川みたいなとこが多い系の城ダンジョンは何十回と攻略したから攻略法わかるぜ。ちなみにお前はどれくらい【これ】やってんだ?」
「い、いえ、それが初心者で、今回の《これ》も初めて…」
「おお、そっかそっか。んじゃ、【これ】のこと俺が教えてやるよ」
「え、い、いいの!?」
「いいって、これも何かの縁だしな。まさかここで同じ趣味のやつに会えるとは思っても見なかったわ」
王の了承に思わず立ち上がり顔を近づけてくるフード女。近づいて来たそのフードの中から青い二つの目と金髪の髪が覗いているのがちらと見えた。
王は得意げに強く頷く。この世界で彼と同じ趣味を持つ相手が現れた、その事実がたまらなく嬉しかったのだ。
嬉しさのあまり唇を少し尖らせてしまいながらも王はその地図を机に広げると、店員から借りたペンで地図に書き加えていく。
「まず正門。ここにはトラップが多いんだ。城ダンジョンを攻めるならまずここは行かない」
「そう、なの?」
「そそ。ま、城を攻略する時の常識だな。ちなみに正門の反対、こっちもダメなんだ。こっちから始めちまうとどうなるかわかるか?」
「…どうなるの?」
「まず間違いなく見つかる。全攻略において『必ずここにスキがある』って場所は行っちゃダメなんだよ。自分を信じすぎるな」
「な、なるほど…」
地図の正門と裏門を⚪︎で囲みながら言う王に、感心して頷くフード女。顎に手を当てふむふむと真剣に覚え始める彼女に次第と王も気分を良くしていく。
「あ、でもでも正門とかはもう入ったところから始まると思いますよ?実際もうーー」
「ふむん、スタート位置自由か。ならもっと攻略は簡単になるな。ちなみに味方は何人だ?クリア条件は?俺が全部教えてやるよ」
「え?えっと、味方は私1人で、クリアは…そうですね、ある程度の被害を出せればいい、かな」
「地形破壊ミッションか、なら簡単だ。一番被害が大きくなる部分を狙えばいい。これなら…ここか、ここだな。…ん、この水色はなんだ??」
「ああ、それは水路ですね。《ここ》は水路を利用しながら生活する場所ですから」
「なるほど、んじゃスタート位置は簡単だな。
ずばり、水路の中だ。
水路には広い空洞が必ずある。被害が一番出る場所と水路の入り口を見ると…一番良いのはここか」
王は最初に中央付近の大きな円状の場所と端の十字架が記入された建物付近をマークする。その後水路を辿り、中央付近の円状の場所に二重マークを加えた。
「この中央んとこなら必ず下に水路がある。街の中央なわけだし、被害は尋常じゃないはずだ」
「あ、あの!」
「なんだ?」
「その、その被害の中に…住民の皆さんの被害が入ってたりしませんか?」
「え?…あぁ、損傷を軽くしないとダメなのか。なら正門と裏門になにかしら軽い被害出しとけ。そしたら住民は避難場所に逃げ込むだろうよ」
「な、なるほど…!それなら大丈夫そうですね」
ゲームにはクリア条件というものが存在する。『とある敵を倒してからクリアしろ』や『被害を最小限に』などがある。
彼女がやるゲームにも被害を出すというだけでなく、住民を傷つけないというものあるのだろう。
よほどそのゲームにハマってるんだな。王はその真剣な表情(口元しか見えてないが)にうんうんと嬉しそうに頷く。
共通の趣味を持つ仲間が出来たこと、その話を思い切りできることが彼にとって嬉しいことこの上なかったのだ。
「ほ、他にもコツなどがあれば教えてください!」
「うむうむ。教えてやるからこれから頼むのも奢りで頼むぜ」
「…あ、はい」
それから『時間帯よりも日の出前がいい』ことや『さっさと壊してさっさと帰る』など攻略手順を事細かに説明した。彼女が聞き上手だったこともありその話は約1時間にも渡ったのだった。
ーーーーー
「お待たせしました!」
「おう、ご馳走さん」
カランカランとドアに取り付けられた小さな鐘を鳴らし、先に出ていた王の元へとてとてと走り寄るフードの女性。彼女は今日ここから近くのホテルに泊まるということでそこまで送っていくことになった。
海の都と呼ばれるエランは夜の風景も中々に幻想的だ。騒がしかった店を出ると静かな水の流れる音だけが暗い街に響く。その音を聞きながら煉瓦造りの家から溢れる光が点々としている様子を見るだけでも綺麗だと言葉を漏らす人も少なくない。
「今日は本当に助かりました、正直何もわからずどうしようか悩んでいたので…まぁ、その分出費はかなりかかったけど」
「おう。…ったく、フード一度も取らない失礼女にここまでしてやるのは俺くらいなもんだ。感謝しろよな」
「え、フードしていると失礼なんですか?」
フード女、常識知らず。
今までフードを被ったまま彼の豪遊に付き合っていたフード女は自分が失礼なことをしているという自覚がなかったようだ。別の国から来たようだが、その国では言われなかったのか?と王は疑問に思っていた。
…奢られまくる男に言われたくはないと思うのだが。
「そうだな。話す相手の顔を見れないってのはちょっと気持ち悪い感じもするな」
「…そうなんだ」
「あー、ま、でも人それぞれ理由があるわけだし別に俺はお前のことどうにも思ってなーー」
「えいっ…!」
考え込む仕草をする彼女に、少し空気を読んだ王が彼なりのフォローを入れようとしたその時、女性はバサッとその大きなフードが彼女の姿を晒す。今までの異様な存在感を発揮していたフードが取れる。
暗い空、幻想的な街と大きな満月の下、彼女の全貌が露わになる。
その姿をーー王は、これから先、一度も忘れることはなかった。
「…………綺麗、だ」
その光景に思わず声が出た。初めて見惚れてしまったのだ。
それはまるで芸術作品の絵を見ている感覚。水路の水と金髪の長髪が月の光に照らされてまるで星空のような空間を作り出す。フードという異様な物が取れ去った彼女は美少女とただ表現するには難しい
長いまつげと青い瞳が印象的な
そんな、決して忘れることのできないような幻想的な女性だった。
「え、なにが綺麗なんですか?」
「え、あ、いや…。…くそ!なんなんだよお前!?」
「えぇ!?」
王が驚く理由がわからず首をかしげる彼女。その仕草でさえ幻想的だと思えてしまった王は、そんな彼女に王はたまらず声を張り上げた。
「たまたま小さい子助けてその場に居合わせた奴が美少女だったってどんなアニメ展開よ、というか共通の趣味持ってるってのもたまたまにしてはすげーし、しかもフードつけて最初に主人公にその容姿見せないでこんないい背景で見せるとか…!お前どれだけヒロインになりたいんだこのやろこれから俺とイチャコラして付き合って結婚でもすんのか!?俺のこと好きなのかコラァ!」
「えぇっと…その、ごめん。今までのやり取りで私が貴方を好きになる部分なかったでしょーに…」
「うっせ、自分でもわかってるからちょっと後悔してんだろうが!!」
まくし立てるように半泣きしながら早口で語り始める王にいやいやと手を横振る彼女。
今まで自分がした行いを彼女の容姿を見て後悔するというクズなことをする王だったが、彼女はなぜ後悔しているのか?と首を傾げていた。
「くすん…俺はこれだからこの歳になっても彼女が出来ないんだろうなぁ…。こんなチャンス、現実で起こるなんて滅多にないはずなのに…!俺は…俺はぁ…」
「えぇ、本当に泣いてる!?な、なんでですか!?」
終いには泣き出して地べたに体操座りしてしまう王。彼女は、そんな王の行動が終始わからなかったが、とりあえずと背中を摩りあやすのだった。
ーーーーー
「送っていただきありがとうございます。ここでもう大丈夫です」
「おう。んじゃまたここに来たら挨拶しに来いよ。また色々と教えてやるから」
ようやく王が泣き止み、ホテルに着いた。
「…いえ、もうこの国には来ません。残念ですが、あなたと会うのもこれで最後かと」
「あ、そなの…?」
自分の国にはもう来ない。自分とはもう会わない。
そう即答で女子に言われると、自分のことはあまり興味がないのかと男子はかなりへこむのである。現に王も胸を押さえてしまっている。
「あの、最後に一つだけ…
出来ればこの国から離れていただくことはできませんか?」
「え?いや、そりゃ無理だ。ここ以外に俺の行く場所なんてないし」
そんな彼に気づかず彼女は王に背を向けたまま彼に問いかける。いやいやと手を横に振る王に、彼女はその金髪をくるりとさせながらこちらを振り向き、
「そう、ですか…。では、出来る限り緊急避難場所の辺りで隠れていてもらえたら嬉しいな。
貴方には、出来れば見られたくないから。
では、ばいばい…」
彼女は王にひらひらと手を振ると、彼が何か言う前にホテルへと入っていってしまった。
王は名残惜しそうにその姿を見て手を伸ばしてしまう。
そんな自分にはっとして伸ばした手をぐいっと引き戻しながら「夜中テンションになってるからだ…そうに違いない」と呟く。
「まぁ…また会えるだろ。きっと」
王はそう呟くと城へと戻って行くのだった。
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「使者を放っぽり出し逃げ出すようなクソ王がノコノコ帰って来てんじゃねーよ、一日外で反省してこいこ!!」
「嫌だぁ!ごめんなさい開けてぇぇ!お願いぃぃお願いだから城に入れてくださいぃぃいい!!ごめんなさぁぁぁああい!!」
その日、王は護衛隊長に城に入れてもらえず、朝までその大きな扉をダンダンと号泣しながら叩き続けるのだった。
ヒロインの話し方に関して少しだけ工夫しております。