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やる気0の王とヤル気0のドラゴン  作者: 銀P
優しいドラゴン編
3/8

やる気がある彼女

2話のあらすじ

「テキトーな王は、護衛隊長を怒らせ街を走り回る。アホなことにお金は一銭も持っていなかった」

 この国の王、体力はない。


 護衛隊長から逃げ回り約2時間が経った。水の都と呼ばれるこの街には様々な水路が存在し、ここで生まれ育っている護衛隊長ですら知らない場所が点々と存在する。王はそこを転々と走り回る事でなんとか逃げ切ったのだ。


いつもなら捕まえるまで追いかけて来るジンも、来客をこれ以上放っておくことはできないと判断し一時城へと戻っている。このことを知らない王は、周囲を注視しながらも一息つくのだった。


 …ただ、結局お金も持ってきていない王はお腹が空けば城に戻らなければならないのだが。本人はまだ気づいていない。


「うっし、協会のジジィのとこでも顔出しに行くかね」


 一時隠れておいた地下水路から地上続く階段を登りながらこれからのことを考える。協会からかなり近い場所だから、このままそこへ行くのもいいかもしれない。王はそう判断し、教会へと足を進めることにした。


 突然現れた王様に民衆が一時驚いた表情をしたものの、彼が手を振ると笑って手を振り返して去って行く。この辺りの民衆にとっても、この王子のアホな行動は理解の範疇らしい。


 ふと、そんな王は喉が渇いてることに気づく。2時間走り続けたのだから仕方ない、彼は協会より先に水分を補給することにした。近くの公園に飲み物売りがいることを思いだした王はまずそこへ向かうことにしたのだった。



 ―――――


「しまった、お金ない…」


 王子、結局飲み物買えず。


 ある程度の大きさのある公園、ジャングルジムやブランコなど遊具が豊富な場所に飲み物を売る屋台がある。水路へと続く通路から5分ほどのこの場所へやって来たはいいものの、彼の手元には一銭のお金もなかった。


ポケットを無駄に何度も探ってみたもののあるものはティッシュとここでは使えない携帯のみ。ICなどの機能も使い物にならないこの世界では携帯ですらただのカメラだ。


「よし、屋台のおじちゃんに土下座でもして一本もらうか」


 王、簡単に土下座を決意。


 飲み物売りの前で喉が渇いたアピールをし続けて最後に土下座する流れまで頭の中に組み立てる王。

王の威厳など今更持ち合わせていない彼にとってこれくらいはお茶の子さいさいといったところか。


 …いや、本来なら持たなければならないプライドのはずなのだが。


「あぁ!?何してくれてんだクソガキ!!」


「ーーっ!?」


 そう決め公園に入った瞬間、突然男の大声が聞こえた。ジンと勘違いした王はビクッと震えてしまう。公園の端、遊具が唯一あまり置かれていないスペースの方から聞こえたその方向へ皆が向いた。


 ーーその声はジンではなく、大男3人だった。


 彼らの前には小さな少女が震えている。その大男の足にはアイスクリームがつけられていた。おそらく不注意でぶつかってしまいアイスをつけてしまったのだろう。


(親も周りも、ただ見てるだけか。……。)


 なぜ公園にあんな奴がいるのか。王はそんなツッコミを内心しつつ、はぁと髪をかきながら泣きそうな少女とそれを取り囲む男たちを見ている。


 他の周りの子供達は親がすぐさま捕まえると何処かへと連れて行ってしまった。そこに、少女に対する感情などない。ただ、自分の娘息子達が二次被害に合わないように考えての行動。王はそれ自体にとやかくいう気はなかった。むしろそう考えて当然とすら思っていた。自分の子供より他を優先する方が親としておかしいとすら思っている。


 優先順位、そう簡単に割り切れるものでもないとは思うが。


 対して、大男の後ろでその少女の親と思われし女性も口元に手を当ててわたわたとしているだけ。少女のために行動するのではなく、ただただ見届けている。

 自分が入って行ってもどうしようもない、でも助けなければならない。その二つの正反対の感情が体を硬直させているのだろう。


 そうして広い公園には、少女とそれを取り囲む3人の大男、そして少女の母親だと思われる女性、そして王のみとなった。飲み屋の親父もいたのだが、彼はただ傍観しているだけなので無視してもいいだろう。


 つまり、この状況を変えれるのは王1人だった。ガタイが良い方ではないが他の大人2人よりは動ける。少なくとも大男の注意程度は引けるはずだ。


 ーーが



 彼は心の中で一言、「いや、行くわけないじゃん」と呟いた。


(いやいや、行くわけないじゃん。ヒーローじゃあるまいし、勝てるわけないっての。あんな巨体相手にしたら一瞬で潰されるじゃん。…面倒なとこ見ちまったな)


 王は、この現状を面倒だと感じていた。あんな大男に勝てるわけがない。というよりむしろわざわざ参加する必要すらないのだから、そんな怪我しそうな場所にわざわざ飛び込むわけがない。


 などと判断し、公園を去ろうとしたーー



 その時だった。



「ちょ、ちょっと待ってください…!!」


 ダッと大男と少女の間に、1人の女性が割り込んできた。全員逃げたと思っていたのだが、そうではなかったらしい。


(…何やってんだよあのフード女…)


 身長160㎝ほどの小柄な女性だった。深くフードを被っているため顔は見えないが、金髪の髪がフードからはみ出ているのが見える。白シャツの上に黒いブレザー、赤いチェックのスカートをはいた女性。体格的にというより性別的にも勝てるわけがないにも関わらず、女は間に割って入るとそのフードの中から淡い青色の目で鋭く睨む。


そんな緊張感が漂う空間にーー



すでに王の存在はなかった。


「その、この子も悪意があってやったことではないですし、その、そこまで怒ることじゃないでしょーに…」


「ァァ?誰だお前は!?」


「いや怒鳴られても困るというか普通に会話してしてほしいというか…」


「何ブツクサ言ってんだコラ!」


「ひっ!?び、びっくりするじゃないですか!ホント怒鳴るのやめてくださいよっ!」


 フードを被った女性は少しビクつきながらも大男の前で両腕を広げる。会話の論点がズレている気もするが、本人たちは気づいていない。次第とヒートアップする言い合いについに大男の沸点を超えてしまう。


「邪魔なんだよクソ女!ひ弱な女がしゃしゃり出てくんじゃねーよ!!」


「っ!?」


 大男はその鍛えられた腕を振り上げ、フードの女へと振り下ろそうとする。女は下唇を噛みながらそれをただ見るだけ。後ろの子供をチラと見てその場から動かない。拳が、彼女を殴り飛ばすーー



 その寸全ーー




「じゃあ強い男が出て来たらどうでしょ?…ったく、おいフード女、カッコ良く走り出たからなんか策あんのかと思って見てたのに、結局ないんかいアホ」


「…え?」


 ガシッ!と大男の拳がフードの女性に当たるその寸前、その手を掴む者が現れた。


 その手は大男の手を包み込むほどの巨大な手、大男も慌ててその相手を見る。


 そこにはーー


「だ、誰だテメェ…!」


「どうも、通りすがりの脱水症状寸前マンです。そっちは教会の神父さんです、よろしくね」


「ァァ!?…つーか、なんでさっきから後ろのやつが答えてんだコラァ!?」


 答えているのは王、



 しかし大男の手を掴んでいるのは王ではなかった。



 王と大男の間、その2人の間にいる老人がいたのだ。


 その老人、老人と言うにはガタイが良すぎた。大男よりもさらに一回りもある巨大で、2mは軽く超えている老人なのである。服装はなぜかシスターが着るような修道服なのだが、内側の筋肉がデカすぎてぱっつんぱっつんになっている。口にくわえた巨大な葉巻と尖った白髪、そしてなによりその鋭い目つきが、シスターのコスプレをしているような感覚にさせる。


 簡単にいうと変態だった。


 その風貌に大男も思わず尻餅をついてしまう。


「………!」


「おいコラ、なにジジィだけずっと見てんだよ。ジジィ呼んだの俺なんだから俺が偉いの。俺にドヤらせなさい。こっち見て驚きなさいよ」


「ひ、ひぃぃ…!」


「おい、俺が呼んだんだって、ねぇ、おいって…。……。」


 その鋭い目を見開き大男を脅す老人。無言の圧力が、彼に襲いかかる。


 …その後ろで結局大男と一回も目を合わせることができず涙をこらえる男が1人いるのを、フードの女性のみが苦笑いで見ていた。


「くっそ!お、覚えてやがれ!!」


「そんなあるある捨て台詞、現実で初めて聞いたな、くすん」


 涙をこらえるためか鼻を押さえながら去った行く男にハンカチを振る王。


 アイスをつけてしまった子供は、母親がすぐに駆けつけると王と老人たちをチラと見た後、すぐに連れて行ってしまった。

 彼らの風貌を見て(パジャマ姿、コスプレ修道服、顔隠し女子)関わらない方がいいと判断したのだろう。いい判断だと思う。


 そして公園には王とコスプレ老人、そしてフードの女性のみが残った。


「あ、あの…!」


「うっし、ジジィご苦労!いやーやっぱこの辺のゴタゴタは協会のジジィに頼むのが一番だわ。またよろしくな!」


「………。」


 老人はコクリと頷くと、ズンズンと地響きさせながら歩き去っていった。王はうんうんと頷きながらそれを見送る。


「あぁ、ちょっとおじいさん、まだお礼を言えてないのに行かないでくださーー」


「うっしジジィには会えたしこれからどーすっかなうんとりま移動しようか」


「え、あ、あの!貴方もなに無視して行こうとーー」


「いやー!!人のために頑張るのっていいことだなぁ!じゃー記念にちょっと走っちゃおうかなー!よーいド…」


「ちょっと、無視して行こうとしないで!!」


「…はぁ」


 フードの女がこちらに話しかけてこようとしているのを察した王は、面倒くさいやりとりをするのが嫌で早口で言い訳するとその場を後にしようとした、のだがフードの女性に腕を掴まれてしまって逃げ場をなくしてしまう。

 逃げることを諦めた王は振り返り、ため息混じりに言葉を返した。


「なんだよ?子供も助けたんだから俺に構う必要もねーだろ?俺が言うのもなんだが、礼とかならさっきのジジィに…」


「で、でもさっき呼んだ方が偉いからって、あなたが言ってたでしょーに…」


「あ?…あー、そゆことね」


 どうやらこの子、先ほどの王の言葉を間に受けたらしい。

『老人神父を呼んだ自分の方が偉い』。そう言ったのは確かに王であり、それを信じた彼女にとってはお礼を言う相手になるのだろう。

 余計なこと言っちまったなと後悔する王の前で、フードの女性は頭を下げる。


「助けてくれてありがとうございます!正直、どうしようか迷っていたので助かりました!!」


「はいどういたしまして。じゃ、そゆことで」


「え!?ちょ、ちょちょ待って!」


 王はもう彼女の言葉を無視して歩き始めた。彼女の言いたかったお礼は聞いた、返事も返した。彼女のしたいことはさせてあげたのだから早く面倒事を終わらせたい。


 王はなお止めようとする女を無視し、早歩きで公園を抜け出ーー


「助けてもらったらお礼をするのが人間だって…!あの、何かお礼をさせてくだーー」


「お礼だと…?お前今お礼と言った?言ったね。それはなんか奢ってくれるとかお金出してくれるとかご飯食べさせてくれるとかそんな感じのお礼だよね、そうだよね?」


 ーーそうとしたが、いつの間にかフードの女性の真横へと移動していた。

目を「$」マークにさせてわくわくと体を左右に動かす彼に、王らしさはもう微塵も残っていたなかった。


「え?あ、はい、あなたがそれでいいならそれで。…お金あまりもってないけど…」


 目をぱちくりさせながらも頷くフードの女性。了承した彼女に王の目が、ギランと光った。


「じゃー最初だ、ジュース買って来て。喉乾いたな」


「あ、はい。…え、さいしょ?」


 公園の屋台を指差し、ふんと構える王。フードの女性は頷くと屋台へと向かう。


 この後、彼女は『お金を出していい』と軽々しく言ったことを後悔することになるのだった…。




読んでいただけてとても嬉しいです。やっと女の子を書けた…!

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