第五話「滾る血潮」
「普段は静音詠唱しているんだけど、今回はしっかり発音するからよく聞いていてね、グローム」
「はい!」
ルミネは窓を開けて空に左手を向けると、その二の腕に右手を当てがい、深呼吸する。
これまで見てきた脱力や羞恥の姿ではない、凛とした表情になり、俺も一言一句漏らさぬよう口元に目線を向け、聞き耳を立てる。
「燃える魂に宿りし火よ、赤き剣と化し、我が血潮を捧げん」
何の魔法なんだ、赤き剣というとエンチャント系に感じるが、ルミネは素手だ。
血潮を捧げるとか穏やかじゃないフレーズも出てきているが、いわゆる魔力、MPを消費しますよーという宣言なのだろうか。
「ファイアソード!」
ルミネの左胸から左腕に伝い、真っ赤な光が駆けていった。
腕全体を触媒にしたその魔法は、刃の形を成して顕現する。
形作られた瞬間に、ルミネの左半身が後方に押し退けられ、赤茶色の髪が大きく乱れる。
まるで銃を撃った時のような反動に見えたそれと同時に、赤い刃は火炎と化して弾丸のように射出された。
天に走った一筋の赤い光は鋭く突き進み、速度が落ちると四散した。
「うおお……」
本当に出ちゃった。
そんな感じである。
これがこれまで見てきた、物を動かす魔法ではなく、敵を攻撃する魔法。
食らいたくないものである。
というかてっきり風魔法を教えてくれるものとばかり思っていた。
「さすがですね、お姉ちゃん!」
「お、お姉さまじゃないの……?」
「しかし風魔法かと思っていましたが、どうして火魔法なんです?」
ルミネは俯いてもごもごと言葉を濁した後、火魔法である意味を語った。
「レッドハート家は代々火魔法の使い手なの。通例では十歳になると教えて貰えるんだけど、私は七歳の誕生日に教わったのよ」
少し顎を上げ、自慢げに話した。
レッドハート、ちゃんと意味があったんだなあ。
「あっ、でもグロームはまだ使っちゃだめだからね!」
「どうしてですか?」
「危ないからよ、お父様も命が危険って言ってたわ」
「命が危険って……」
どうせ聞いても危険な理由はわからないのだ。
脳内で詠唱を復唱しながら、ぼんやりと考えてみる。
考えるも何も、子供だから魔力が足りないとかいう簡単な理由な気もするが。
それ以外だと、増長して人に向けて撃ったりとかがありそうか。
仮定でしかないが、俺においては問題となるのは魔力量の不足だけだ。
ゲーム的に考えて、魔力と体力は別枠のはずだし、魔力が枯渇してもどうにかなるのではないだろうか。
「ねぇ、聞いてる? ちゃんとわかった?」
「え? あぁ、うん、はい。ありがとう、頑張ります!」
ルミネにお礼を言い、そそくさと自分の部屋に戻る。
まだレキは帰っていない。
試すなら、今だ。